ごくうが行く:ガタイがよくて、優しい

ごくうは順調に歩いて行く。中学校を過ぎ、ナンパチワワのさくらちゃんの家も通り過ぎ、坂を下る。そのまま公民館コースを行くかと思えば、逆方向に行こうとする。

「あれっ」

ごくうは素直なときと意地を通すときが半々である。反対側の歩道に行こうとする。

「雨が降りそうだから、こちらだよ」

ごくうはそんなことは聞こえないとばかりに歩道に向かって歩き出す。理由が分かった。向こうから親子ずれが犬を連れてやってきていた。避けようとすると、ラブラドールの子供を連れていた飼い主が

「うちのは喧嘩しないから」

ラブラドールの子犬とごくうは互いに挨拶する。見れば、親子らしい。父親と男の子に女の子。ごくうは挨拶の後、盛んに後ろ足で蹴る動作をする。3才くらいの女の子が

「どうして蹴るの?」

と聞いてきた。

「あれはマーキングだよ」

「まーき・・・マーキング?」

ラブラドールの子供はごくうに盛んにアクセスしょうとするが、父親はラブラドールを引き留める。5才くらいの男の子がごくうを撫でようとする。お父さんと一緒に撫で始めたとき、雨がポツポツと落ちてきた。

子供たちを濡らせてはいけないと思ったのか、父親は子供たちとラブラドールと急ぎ足で去って行った。近くのようだ。

見送りながら、目の前の閉店しているカラオケ屋の軒先を、雨宿りに借りることにした。しばらくすると、雨が止んできた。

「ごくう、早く帰ろう」

急ぎ足で歩いて行くが、その内、西の空の雲が晴れ、一番星が出ている。ごくうは目ざとい。すばやく横断歩道を渡り、散歩を続けようとする。横断歩道を渡ると、黙々と歩く高齢の女性に出会った。もう挨拶しない人に戻っていた。

追従するように歩いていると、高齢の女性は規則的にさっさと歩いて行く。マーキングするごくうはたちまちの内に置いてきぼりにされた。いつもの交差点に向かおうとしたとき、ごくうが鼻泣きしながら向かって行く。目の前にがたいのしっかりした中年男性がいた。出会うと、いつもごくうを可愛がってくれる。

自分でも犬を飼っているが、ごくうは小さいので関心があるのか、自分の飼い犬と比較しながらごくうを可愛がる。

「うちのは素っ気ないから」

昼間は庭に放し飼いしているそうだ。夏などは水を用意するのを苦労すると訴えていた。

「気を使うんよ」

がたいのしっかりした中年男性は、ごくうを可愛がりながら、いろいろと苦労話をする。

話しが終わったと思ったのか、ごくうは男性から遠ざかる方向に頭を向けた。こうなると、ごくうは思い通り歩こうとする。中年男性に別れを告げて、歩き出した。もう雲は東に去り、二番星も姿を現していた。

ごくうは落ち着きもなく、彷徨うように散歩する。やがて散歩道を思い出したのか、家に向かって帰りだした。途中、レオ君と出会い、エールの交換のように互いに挨拶する。もう月齢も15.7、満月になるので、散歩時に見ることはない。