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ごくうが行く:ジョギング女子

梅雨であろうと、ごくうは散歩に出かける。雨が強く降っても散歩に出かける。幸い小降りだ。ごくうは時間が来たので、ワンと吠え、キュンキュンと鼻泣きをして急かせる。

準備をして出かけると、いつも散歩するコースから中学校の上に上がっていくコースを選んだ。マークすべき所はマークし、いつものように軽快に散歩していく。今日は公民館への下るコースを選んだ。

坂の角を曲がると、小さな黒い犬がリードを付けたまま坂を上がってくる。雨が少し降っているが、お構いなしのようだ。一直線にごくうに向かって歩いてくる。

「ナンパのチワワだ。」

ごくうは怯んでいる。後ろから飼い主が慌てたように追いかけてきていた。しかし、一度しか会っていないが、ごくうを思い出して、リードを掴んだが、そのままチワワがごくうに迫っているのを黙認している。小雨の中でチワワにごくうは押され気味である。

チワワは納得したのか、飼い主と一緒に坂を上がっていった。ごくうは何事も無かったようにマークに余念が無い。坂を下ると、右側に、ごくうを可愛がってくれた老齢者の家がある。老齢者は戸惑い気味にごくうを可愛がってくれる。ある日、散歩で出会ったが、ごくうを横目で見ているだけで、可愛がろうとはしない。その老齢者は背後で消え、気がかりだった。

その老齢者の家の斜め前によく出会うおねえさんがいる。家の前の歩道で数度出会っている。おねえさんはごくうを見るとすごく可愛がってくれる。ごくうも応じるが、しかしすぐ歩き始める。心得たもので、おねえさんもバイバイと手を振って分かれる。

* * *

コロナが流行しだしてからランニングやジョギングが流行っている。ごくうの散歩でも数人に出会うことがある。おねえさんは前からジョギングを日課としている。正にジョギング女子である。ごくうの散歩時間と同期する季節にはよく出会う。おねえさんは黒髪ならぬ品良くミルキーベージュに染めて幾分長めの髪をなびかせて走り近づいてくる。ごくうと出会うと、ごくうの顎下を撫でると、走り去っていく。

家の前では、老齢者の消息を聞くのには躊躇がある。ジョギングで出会ったとき、聞こうと思いながら機会を窺うが、なかなかおとずれない。

ジョギング女子は髪を後ろにポニーテール風に束ねている。日頃から化粧しているようには見えないが、一段と軽快な様子で、ごくうを強めに可愛がる。ごくうも身体をくねらせて応じる。ごくうを可愛がり終えると、走り去っていく。今日は後ろから追いつかれたので、同じ方向に向かって歩く。ごくうはマーキングしながら歩き、ジョギング女子は夕焼けの西空に向かって走り去る。

「やはり老齢者の消息は聞けないな。」

頭の中で反芻しながら、ごくうを伴って、西空に別れを告げ、南に向かって歩き出した。