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ごくうが行く:ご婦人の心を和ませた。

ごくうの散歩時間と散歩コースが同期すれば、挨拶しない高齢の婦人に出会う。ご婦人の家の付近であるが、1ブロックの角を何回か回るように歩いている。かなりよく出会う。ごくうはご婦人には関心を示さない。ご婦人も少し見るだけでペースを崩さず、黙々と歩いて行く。

昨年、始めて1度だけ挨拶した。しかし、その後は元に戻り、こちらは軽い会釈をするが、ご婦人は会釈さえしない。近所の人(手を振るシルバー)と話しているところに遭遇したが、他の人とは話すようだ。

ごくうは新しい団地の裏道を覚えると、2日に1回はその団地への裏道を行っては折り返す。団地からお大師堂を回って帰路につく。特に寒かったとき、ごくうは歩きを止めて見上げてくる。眼差しが「ダッコ」と言っている。そのように願われれば、素直にダッコする。

ごくうをダッコしたまま、ご婦人の家の近くに差し掛かった。ちょうどご婦人が角を回るところだった。ご婦人はごくうを見て、

「まあ、ダッコされてる。」

呆れたように笑っている。

翌日もごくうは新団地への道を選んだ。同じようにお大師堂を回り、まっすぐ歩いて行く。交差点まで来ると、ご婦人がちょうどコーナーを回るところだった。ごくうが歩いているのを見ると、

「今日は歩いている。」

微笑みをこぼしながら歩き去って行く。

3日後、またごくうは新団地への道を選んだ。時間帯も同じだ。案の定、ご婦人と遭遇した。ごくうは関心を示さない。寒くもないので、いつものように快活に歩く。

「まあ、シャカシャカ歩いている。」

「今日は、元気じゃね」

言葉を残してご婦人はペースを落とさず歩き去る。

家の帰ると、ごくうは足を洗い、口を濯ぎ、身体をタオルで拭いて、ダッシュする。ガムが飛んでくる。ごくうはガムを捉えて噛み始める。ごくうを見守る妻にすぐに報告。「シャカシャカ歩いている、ってよ。」妻は打ち身も忘れて小笑いする。