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全てが自由な世界で、何を纏うのか。

いまだにFAVRICの会場から心が離れない

バーチャル世界のファッション

いわゆるバーチャル世界において衣服というものは大抵の場合、自由に脱いだり着たりすることのできない、いわば身体と一体化したものです。
「チャンネル登録者が〇〇人になったから新衣装実装」、というお決まり事があるように、あるいは新衣装の実装が熱狂を起こすように、バーチャル世界において衣装というものは着替えるだけで大きな話題となるくらいに着替えることが困難な物なのです。
また、バーチャル世界におけるファッションは大きく二つにわけられます。一つは現実世界では中々着ることのできないような衣装。一つは現実世界にもそのままあるような衣装です。

※下記添付、現実世界では中々着ることのできないような衣装の例(月ノ美兎)と、現実世界にそのままあるような衣装(樋口楓)。

バーチャル世界のファッション、アパレルとは容易に着替えることができないものであり、その形態は現実世界では中々着ることのできないようなものから現実世界のアパレルをそのままバーチャル世界にダウンロードしたようなものまで、実に様々です。現実世界でも生肉ドレスなど奇抜な衣装はありましたが、たとえばMaison FAVRICデザインのYuNiさんの衣装などは現実世界では絶対に実現不可能でしょう。バーチャル世界においては様々な物理法則や世の理を超越したアパレルデザインをすることが可能なのです。
そう考えると、バーチャル世界が今後進展してくならファッションデザイナーの仕事の幅も今後はより一層その表現の幅を広げていくのかなって思います。FAVRICはさながら、その未来に向けた嚆矢だったのでしょう。

FAshion×ViRtual×musIC

FAVRICという単語はファッションとバーチャルとミュージックを掛け合わせた単語です。その名の通り、FAVRICはバーチャル存在たちによるファッションショー&ミュージックフェスといった感じで進行しました。
まずはミライアカリさんによるDJパート。このDJパートで会場はこの上なく温まったのでとても良かったですね。
そして、次にランウェイ。ランウェイですよランウェイ。最初はモデル全員が一斉にランウェイを歩くんですけど、あのときの感動たるや。心の準備をする間もなく、バーチャルなモデルたちが颯爽とランウェイを歩き抜けて行く。それまで正面に設置された画面の中でしか私たちのいる現実世界に姿を見せなかったバーチャル世界の住人が、なんと私たちの横を通り抜けた。私はあのとき、あのランウェイを颯爽と歩いていった彼女たちの横顔を今後何度も思い出すでしょう。実に革命的でした。それまで平面の中の存在だった彼女たちは、あの幕張メッセ9ホールでは左右上下だけではなく、前後の世界までもを行き来していたのです。いやー、今思い返しても実にすごい空間でしたね。
そして、ランウェイのあとはライブパート。最初は全員でロキ。ロキはほんとうに絢爛豪華という言葉が似合う様相でしたね。現地では一方向からの視点しか見れなかったので帰宅後翌日にタイムシフトを確認したんですけど、ほんとうに絢爛豪華でした。ロキはよく聴いてる曲なのでもう完全にブチ上がっちゃいましたしね。
※下記、私がよく聴いてるロキのカバー。

お次は電脳少女シロさんによるダンスロボットダンス。ダンスロボットダンスといえば、昨年春頃のバーチャルYouTuber黎明期のMAD群が思い起こされます。ダンスロボットダンスはある意味、ファンとの距離が近いⅤ文化の象徴の曲のような気もしますね。
続いて電脳少女シロさんとアイドル部によるダダダダ天使。ダダダダ天使もわりかしⅤのMADが作られた曲だと思います。どちらもナユタン星人さんの作詞作曲で、とてもコールとかオタク棒を振り回したりがやりやすい曲でしたね。ロキ、ダンスロボットダンス、ダダダダ天使の三曲のおかげでライブ現地初参加だった私もライブでの要領が掴めてきました。選曲した方にダダダ大感謝。
さて、次はアイドル部オンリーでお願いマッスル。この曲の最中にアイドル研修用ジャージ01が爆ぜて中からいつもの個性的な衣装が出現した演出には思わず強く膝を打ちそうになりました。サイリウムを握って立っていたから当然膝は打ちませんでしたけどね。
その後はもこ田めめめさんとピンキー・ホップ・ヘップバーンさん(以下、PPH)によるワールドエンド・ダンスホール。作詞作曲のwowakaさんの訃報はまだ記憶に新しく、サイリウムを振りながらにして少しじんわりしてました。
そして、お次はPPHさんによるP!NG PONG QUESTとアイドル活動、MZMさんによる千年愛とDiver×Diverとhero_、YuNiさんによる透明声彩とウタオウヨ、ウタオウヨ。PPHさんの衣装はランウェイを歩いていたときはサイドに肩のアタッチメントがついていてバーチャルでしか無しえない自立して宙に浮く衣装で印象的でしたね。MZMさんは他の出演者に比べるとかなり現実的な衣装でしたね。それに比べるとYuNiさんの衣装はバーチャルを服に詰め込んだようなデザインでしたね。炎がめらめらと燃え上がる衣装。パンフレットの説明書きを読み、私は思わず感嘆の息を吐きました。たしかに、私含め人は着る服に影響されます。たとえば新しい服を着たときは背筋が伸びて、ミュージカル映画の主人公のようなステップで何の変哲もない道を歩いてしまう。逆に、服が汚れたりしてしまったときは一挙に心が萎えてしまう。ハイブランドを身に着けているときや、最高にいけてる服を着ているときは自分の中に力強い自信がメラメラと湧いてくる。新しい靴、ボトムス、トップス。なんでも服は私たちの内面に影響を及ぼします。その服による変化をバーチャルならではの表現方法で顕現させた。実にバーチャルならではで、本当にすごいセンスだと思いました。すごい。
YuNiさんの次はKMNZです。KMNZが歌うのはAugmentationとVR。VRは昨年リリースされたオリジナル曲で、私も購入してiPhoneに入れて何度も何度も聴いていた曲なのでとっても思い入れがありました。二人の衣装のコンセプトは天候を操る服。着物という伝統的な装いがバーチャルの世界で近未来的な風を纏って現れた衣装でした。
そして、樋口楓さんの登場。
私は樋口楓さんのファンなので、樋口楓さんに関する記述が多くなってしまうのはあらかじめご容赦願いたい。樋口楓さんが歌ったのはMaple Dancerと響鳴の二曲。どちらもオリジナル曲で、Maple Dancerの方はファンメイドの曲です。(10月2日にMaple Dancerは100万再生を達成しました!おめでとう!)
※下記、Maple Dancerと響鳴のリンク。

Maple Dancerはエフェクトも無く、黒い空間に樋口楓さんが立って歌っていました。そう、まるで本当にそこにいるかのように。そして、次の曲、響鳴を歌い出すと、なんと樋口楓さんの黒い服は赤や様々な色の混ざり合った姿になったのです。これはどういうことかと驚いていると、樋口さんの口から「みんなの声を着れる」服であるとの説明がなされました。その瞬間、私の身体は歓喜に震え、手にしたサイリウムをより一層強く振り、掛け声をより大きく出すようになりました。声援を着る服、ここまで樋口楓にばっちし合った服があるのでしょうか。(以降、オタク特有の長文語りが始まるよ)

樋口楓とは、にじさんじ所属のバーチャルライバーです。それも、にじさんじ「公式」ライバーと銘打たれていたころの最初期メンバー、つまり、一期生です。あの今以上に先の見えない、道がこの先もあるかもわからない黎明期の中の黎明期の季節。そんな時期に目覚めの息吹とともに活動を始めたのが樋口楓というバーチャルライバーです。そんな暗中模索どころか五里霧中で何も見えないようなところを力強く歩いて行ったのが樋口楓です。しかし、樋口楓は決して一人で前に進むことはしませんでした。同じにじさんじの同期と一緒に、にじさんじ外のバーチャルYouTuberとも一緒に、そして何より、ファンと一緒にその先が何も見えないような空間を突き進んできたのが樋口楓です。そして、いつしか樋口楓は歌系バーチャルYouTuberとしてその名を馳せるようになりました。しかし、ただの歌系バーチャルYouTuberではありません。オリジナル曲の持ち歌が異様に多い歌系バーチャルYouTuberなのです。しかも、そのオリジナル曲の殆どはファンメイドのものなのです。樋口楓とは、ファンによる応援でここまでのし上がってきたバーチャルYouTuberなのです。そんな樋口楓さんが声援を着られる服を身に纏う。これほどエモいことってありますでしょうか?樋口楓さんは、まさしくファンからの声援をその身に纏って活動してきたバーチャルYouTuberなのです。
そして、ファンからの声援によって生きるのは樋口楓さんだけに限らず、他のにじさんじライバーやバーチャルYouTuberたちでも同じことです。しかし、気をつけなければいけません。私たちファンからの声援で服を情熱の赤に染めたり、多様性の虹色に染めることができる一方で、心無い罵倒でその服を醜い色に染めてしまうことも私たちにはできてしまうのです。この樋口楓さんの衣装は、そのことまでも表現しているように感じました。Fantasista Utamaroさん、すごいなあ。本当にすごい。
余談ですが、オタク系にしては良い感じのデザインだなあって思ってたR4Gっていうブランドをディレクションしているらしいですね、ファンタジスタ歌磨呂さん。今度R4Gでお買い物しようと思います。

以上で樋口さんに関するオタク語りは終わりです。FAVRICの衣装で一番考えさせられたのはFantasista Utamaroさんデザインの樋口楓さんの衣装だったのは間違いないです。バーチャルYouTuberも人間で、人間であるならば喜怒哀楽があって、傷つく心もあって。私たち視聴者・ファンはもっとそのことを意識するべきなのかもしれませんね。
さて、樋口さんの次は花譜さん。花譜さんが歌ったのはきみがいいねくれたらとPlastic Loveと魔女です。花譜さんの衣装は変形して、バーチャルの中でも有機的なバーチャルではなく無機的なバーチャルで意外にも新鮮でしたね。バーチャルYouTuberって、意外とああいうメカメカしたのが少ない気がします。他のバーチャル衣装が物理的に不可能な衣装だったとするならば、花譜さんの衣装は科学技術的に現実世界では不可能な衣装だったのでしょう。
花譜さんの次はEGOISTさん。EGOISTさんに関しては渋谷のタワレコ前を走ってるアドトラを見たことくらいしか私との接点が無かったんですけど、いやー圧巻されましたね。最後の咲かせや咲かせでは背後のモニターに出演者いが勢ぞろいして閉幕。実に良い締めくくりでした!
そして、お決まりのアンコールのコールの後にはRookies Runway。ルーキーズランウェイは無限にパンディに視線を奪われていました。このルーキーズランウェイ、なんと開演後も編集作業を行っていたようで、いやはやお疲れ様でした!FAVRICにはとっても良い体験をさせていただきました。大感謝です。

声も、姿も、性別も、全てが自由な世界で。

人間、産まれた時点で多くのことが決まってしまいます。声や姿や性別はその最たるものでしょう。しかし、全ての人が自分の声が好きなわけではありません。全ての人が自分の姿に満足しているわけではありません。全ての人が自分の性別が本当の自分の性別だと思っているわけではありません。
ボイストレーニング、整形手術、性別適合手術。声や姿や性別を変える手段が無いわけではありません。しかし、どれも簡単な方法でありません。親や周囲からの視線などの所謂世間体、金銭面、勇気。たとえ、なりたい自分のビジョンがあったとしても、そこに辿り着くことは決して容易なことではないのです。ああ、どうして身体は一つしか無いのだろう。二つ身体があればなりたい自分にもなれたのに。そんな風に嘆いた人もいたことでしょう。
私は、それらを一挙に解決するのがバーチャルリアリティだと思っています。デザインを依頼して、バーチャルYouTuberとして活動を始めるのは、なりたい自分になる方法です。既に存在する姿を選んで活動を始めるのは現実世界では不可能な親を選んで産まれてくるということなのかもしれません。
現実世界では不可能な炎を纏う衣装を着ることができるように、バーチャル世界では声も姿も、性別ですら自由に決められるのです。社長にも、国王にも、皇帝にも宇宙人にも犬にも猫にも何にでもなれるのがバーチャル空間です。バーチャル空間において、人は服を選ぶように身体を着替えることもできます。そう考えると、もしかしたらバーチャル空間におけるファッションとは衣服を着替えることを指すのみならず、身体そのものを取り替えたり変形させることも指す言葉になるかもしれないと私は思うのです。

バーチャル世界におけるファッションという単語の意味がどうなっていくのか。FAVRICというファッションショーが今後どのような展開を見せていくのか。
私は本当に楽しみでなりません。


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