狩猟と銃

小堀ダイスケ 猟銃研究家・狩猟ライター

■ 狩猟に使われる銃の種類

空気銃

狩猟に使われる銃は,「空気銃」「散弾銃」「ライフル銃」の大きく3種類に分けられる.空気銃とは,その名の通り圧縮空気の力によって弾を発射する銃のことで,弾に対し約200気圧前後の圧力を掛け,銃口初速約800〜900 ft/s前後で飛ばす.英語ではAir Rifleと呼ばれ,銃身内にはライフリング(施条)が刻まれており,そこに弾が食い込んで回転しながら飛んでいく.カモ類など大型鳥類に対する有効射程距離は,最新のプレチャージ式であれば100 m,弾の最大到達距離は約300mだ.海外などではエアガンと呼ばれることもあるが,言うまでもなく,国内でホビー用玩具として売られているエアソフトガンとは全くの別物である.使える弾は単弾のみで,散弾を使うことは禁止されており,国内法では弾倉内の5発と薬室内(銃身根幹部)の1発,合計6発が装弾数の上限となっている.
空気銃は命中精度が高く,最新式であれば,距離50mで5発を発射した弾痕が直径20 mm以内にまとまる物もめずらしくはない.ただし,この優れた命中精度を発揮させるためには,銃に載せるスコープという光学照準器の運用が不可欠となる.これは映画などにもよく登場する,十字線(レティクル)越しに狙う望遠鏡だが,こうした狙撃では視野が狭くなるため,基本的には獲物が静止している状態が望ましい.つまり空気銃とは,木にとまっていたり水面に浮いている「居鳥」などをピンポイントで狙うための銃であり,飛んでいる鳥を撃ち落とすことはできない,ということになる.

空気銃の口径

通常,空気銃に使用する弾の材質は鉛で,4.5 mm,5.0 mm,5.5 mm,6.35 mm,7.62 mmの5種類の口径(直径)がある.口径が大きくなるほど獲物に対する威力は高まるが,弾が重い分,弾道が落下する割合も大きくなり,直進性(低伸性)に欠けるという特徴がある.また,口径の大きな弾は獲物の肉を必要以上に傷つけてしまうため,狙う対象によって使い分けることが重要だ.例えば,スズメやムクドリ,ヒヨドリといった小型の鳥には4.5 mm,キジバトやコジュケイなど中型の鳥には5.0 mm〜5.5 mm,カモ類やキジ,カワウなど大型鳥類には6.35 mm〜7.62 mm,といった具合である.中でも最大口径の7.62 mmは鳥類だけではなく中〜大型獣類にも有効で,罠にかかったシカやイノシシの止め刺し用にも使える.頭や耳の後ろなど急所を撃つ必要はあるが,散弾銃やライフル銃に比べ,獲物の肉をあまり傷めずにより多く取ることが可能だ.さらに空気銃は発射音が小さいため,民家の近くに罠を仕掛けた場合など,余計な気を遣わずに済むという利点もある.散弾銃などでドカーンと大きな音を鳴らしてしまうと,場合によっては通報され不要なトラブルを招く原因にもなりかねないからだ.

空気銃の形式

空気を圧縮する方法としては,前進するピストンの力でシリンダー内の空気を圧縮しながら押し出す「スプリング式」,1発撃つごとにシリンダー内の空気を手動で圧縮する「マルチポンプ式」,液化炭酸ガスボンベを本体に挿入し,気化したガスを使う「炭酸ガス式」,あらかじめシリンダー内に200気圧程度の圧縮空気を入れておき,1発ごとに少しずつ放出させる「プレチャージ式」の4種類がある.
マルチポンプ式と炭酸ガス式は,国内の製造メーカーがなくなってしまったため修理が難しく,初心者にはあまりお勧めできない.銃砲店ではまれに中古品を見かけるが,購入には慎重な検討が必要かもしれない.
スプリング式は基本的に単発銃だがそのかわり価格が安く,銃以外に充填ポンプなどの装備品も必要ないため,気軽に運用できる空気銃だといえる.しかし,大型の鉄製ピストンを内蔵しているため重量が重く,スプリングのコッキングにもある程度の腕力が必要となるため,女性にはあまり向かないだろう.
いっぽう,プレチャージ式は銃本体の重量が軽く,あらかじめ圧縮空気を入れておけば手元の操作だけで最大6発までの連射が可能だ.空気の充填にはアクアラングボンベから移し替える方法と,ハンドポンプを使う方法とがあり,ボンベがあれば手軽だが,重くかさばる物なので運搬には自動車が必要となる.ハンドポンプでの充填には多少の力が必要だが,コツさえつかめれば女性でも不可能ではないはずだ.性能面ではプレチャージ式にかなう空気銃はなく,他の追随を許さないと言っても過言ではない.だが欠点は価格の高さで,最新式の物では数10万円以上する銃も多く,普通は気軽に購入できないのが悩ましいところだ.
詳しくは後述するが,空気銃を所持するには教習射撃(実技試験)を受ける必要がなく,住所地の公安委員会が開催する猟銃等講習会を受けて考査(筆記試験)に合格すれば,すぐに所持許可申請ができる.所持後は弾の保管庫が必要ない(銃の保管庫は必要)ため,銃本体や装備品以外の初期投資が安く済み,弾代も1発約5円から8円程度と安い.その手軽さゆえ,ここ数年,空気銃の所持者数はますます増加傾向となっているようだ.

散弾銃

火薬の爆発による圧力を利用し,粒状に成形された複数の金属製散弾を発射するのが散弾銃だ.英語ではShot Gunと呼ばれ,銃身腔内にライフリングはなく平滑で,点ではなく「面」で獲物をとらえる.したがって動いている標的を得意とし,おもに上空を飛ぶ鳥を撃ち落とすような猟法に使われることが多い.
一般的な散弾の有効射程距離は40 m,スラッグという単弾を使用した際の有効射程距離は50〜100 m,最大到達距離は散弾の大きさにより約200〜300 m,スラッグは約700 m前後だ.ちなみに射撃競技ではクレー射撃に使用されるが,元々は飛翔するハトを撃ち落とすための射撃練習が競技のルーツとなっている.

散弾銃の口径

散弾銃の口径はイギリス式のGauge(ゲージ)という単位で表し,日本語では「番」と言う.銃刀法の上限では12番が最大の口径となり,国内では410番,20番,12番の3種類の口径が流通している.銃砲店ではまれに16番や28番といった物も見かけるが,実包の入手がきわめて困難となるため,銃の購入には注意が必要かもしれない.
ちなみに,戦前のイギリスなどでは船の上に大型の散弾銃を備え付け,大量の散弾を発射していちどに数10羽のカモなどを撃ち落とす「パントガン」と呼ばれる銃もあった.この場合,1番(約100 mm)という大口径も存在したようだが,あくまでも船に固定するのが前提の散弾銃であり,人間が持って撃つことはできない.
12番の口径は,重さ12分の1ポンドの鉛を球形に成形した時の直径で,約18.5 mmほどだ.20番は約16 mmと12番にくらべ2 mmほど小さく,その分銃の重量や反動が軽いため,女性ハンターにも人気の口径だ.これが410番になると11.4 mmほどで,一般的な散弾銃の中ではもっとも反動が軽くなる.しかし,410番は12番の半分程度の散弾しか充填できないため,中型以下の鳥類までしか狙えないのが実情だ.また,410番だけは口径表記の単位が例外で,アメリカ式の0.410インチ(約10.4 mm)なので,本来ならCaliberと言うきなのだが,慣習として「よんひゃくとうばん」と呼ばれている.
散弾実包の薬莢はプラスチック製で,発射と同時に薬室内で膨張し,ガスシールの役目を果たす.50年ほど前までは厚紙や真鍮でできた薬莢もあったが,現在はすたれてしまった.
散弾には多くの種類があり,弾粒の直径によって最大15種類以上に分けられる.もっとも大きい物がスラッグで,口径12番なら約17 mm,つまり単弾だ.実質的に散弾ではないが,発射する銃自体は散弾銃なので,あくまでも散弾の一種として扱われる.スラッグは大型獣類などに対して使用する弾で,50 m前後であればシカなどを倒す威力を持っており,後述するライフル銃では威力があり過ぎる場合などに使われることが多い.
次に大きな散弾が00B(ダブルオーバック)で,1粒の直径が約8.6 mmほどだ.口径12番ならこれがひとつの実包に6〜9個入っており,国内では六粒(ろくりゅう)や九粒(きゅうりゅう)弾と呼ばれている.おもに至近距離を走り抜けるイノシシなどに対して使用されるが,よほど急所に当たらない限り即倒させることは難しく,獲物を半矢にしてしまう可能性が高い.結果的に手負いの獲物を追跡することにもつながりやすく,これはベテランハンター向きの弾だといえるだろう.
前述以外の一般的な散弾は11種類に分けられ,その中でいちばん大きい1号弾は直径約4.5 mm,口径12番の実包なら80粒から100粒ほど入っている.もっとも小さな散弾は10号弾で直径約1.75 mm,同じく口径12番なら2600粒から2800粒も入っているため,同じ散弾でもまったく違う物であることが分かるだろう.これは対象の獲物や射撃距離によって使い分けることを意味し,1号弾や2号弾はカモやカワウなど大型鳥類の遠距離射撃およびウサギなどの中型獣類に,3号弾から5号弾はキジ,ヤマドリ,カラスなど,7号弾から8号弾はキジバトやコジュケイなど,9号弾や10号弾はスズメなどを捕獲する際に使う.ちなみに,クレー射撃競技で使う散弾はルールによって決っており,トラップ射撃には7.5号弾,スキート射撃には9号弾しか使うことができない.

散弾銃の形式

散弾銃の装弾数は国内法で弾倉内2発が上限とされており,薬室内の1発と合計すると,1回の装填で3発までの発射が認められている.銃の形式としては,「元折れ式」「スライド式」「レバー式」「ボルト式」「自動式」などがあり,元折れ式や一部のボルト式以外は独立した弾倉を備えているため,最大3発の発射が可能だ.スライド式は手動操作で,自動式は反動や発射ガス利用により自動で装填と排莢を繰り返し,連射することができる.また,元折れ式は独立した弾倉を持たないため,銃身が何本あるかがそのまま装弾数ということになる.銃身が1本のみの「単身元折れ」の場合,薬室に1発しか装填できないため単発,上下に2本の銃身が並んだ「上下二連」や,左右に並んだ「水平二連」なら2連発だ.上下二連や水平二連の場合,初矢(1発目)と二の矢(2発目)を別々の銃身から撃つため,それぞれの銃身でチョークの選択を変えられるという利点がある.
チョークとは絞りの意で,銃身の先端部分を若干狭くすることで,散弾が空中で広がるパターンを制御するシステムのことである.口径12番の場合,チョークがなければ銃口部の直径は口径そのままの18.5 mmで,これをシリンダーや平筒と言う.おもに単弾のスラッグを撃つ場合に使うが,散弾を撃つと段階でパターンが散開してしまうため,遠距離の獲物に命中させるのは難しい.そこで,銃口部を0.25 mmずつ絞り込み,18.25 mmの「インプルーブドシリンダーチョーク」,18.0 mmの「モデファイドチョーク」,17.75 mmの「インプルーブドモデファイドチョーク」,17.0 mmの「フルチョーク」と4段階にチョークを分ける.日本語ではそれぞれ1/4絞り,1/2絞り,3/4絞り,全絞りと言うが,チョークが狭くなるほど散弾のパターンは広がらず,密度を保ったままで飛んでいくというわけだ.
チョークの選択は,固定式の場合は銃身ごと交換するか,交換式チョークなら銃口部に独立したパイプ状のチョークをネジ込んで取り替える.狩猟では,最大のシリンダーと最小のフルチョークにおけるたった1.5 mmの差でも,これが大きな違いとなる.例えば,足元から飛び立ったキジを10 m〜15 m以内の距離で撃つ場合,5号〜6号散弾と1/2絞りもしくは3/4絞りが望ましい.しかし,40 mほどの上空を飛ぶカモを撃墜するには,1号〜2号散弾と全絞りの組み合せでなければ難しいのだ.
このように,狙う獲物と射撃距離によって,銃の形式や散弾の種類,さらにチョークの組み合せを選択するのが,散弾銃の正しい運用方法なのである.

ハーフライフルスラッグ銃

散弾銃の中でも,銃身長の半分未満にのみライフリングが施されている物を,特に「ハーフライフルスラッグ銃」と呼ぶ.これは,銃身長の半分以上に渡ってライフリングのある猟銃をライフル銃とする銃刀法から生まれた,日本特有の銃種である.スラッグをプラスチック製の被いで包んだ専用の「サボットスラッグ弾」を使うことで,有効射程距離を150mほどまで伸ばすことができる.対象となる獲物はシカやイノシシなどの大型獣類で,状況によってはスコープも必要だ.
元々は,アメリカで法的に狩猟ライフルが使えない州があり,そうしたハンターに向けて作られた銃なので,本来なら銃身の全域にライフリングが施されている.それを日本向けにライフリングを半分削り落として使用するため,銃身の根元から半分までライフリングのある「元残し」と,銃身先端から半分までライフリングのある「先残し」がある.どちらを選ぶかはハンターの好み次第なのだが,現在の主流は元残しが多いようだ.
後述するが,国内では散弾銃を10年間継続所持しなければ狩猟用ライフル銃が所持できないため,それまでの期間,ライフル銃の代替品として使われることが多い.形式としてはボルト式が一般的だが,スライド式や自動式などでもハーフライフルの替銃身と交換することで,ハーフライフルスラッグ銃にすることが可能だ.
口径も12番と20番の両方があり,獲物に対する威力を考えた場合,12番を選ぶハンターが多いようだ.しかし,20番の方が弾の重量が軽い分,弾道の低伸性が高く,また反動も軽いため,女性ハンターに人気がある.
一般的な散弾銃とスラッグの組み合せでも大物猟は可能だが,北海道など,遠距離での狙撃を想定した場合,ハーフライフルスラッグ銃とサボットスラッグ弾が持つ意義は大きいだろう.

ライフル銃

狩猟に使われる3種類の銃の中で,もっとも威力が大きく,射程距離も長いのがライフル銃だ.大型獣類の捕獲に使われ,一般的な30口径なら有効射程距離300〜500 m,最大到達距離は4000 m以上にも達する.銃身長の全域に渡ってライフリングがほどこされ,弾頭は鉛芯のまわりを銅で成形した(純銅製も存在する)物を使う.命中精度が高く,距離100 mで3発を発射した弾痕が直径30 mm以内にまとまるのが普通だ.
火薬の爆発力によって単弾を発射する,という点ではハーフライフルスラッグ銃と同じだが,使われる火薬の性質がまったく違う.ライフル実包の火薬は散弾銃の物にくらべ圧力が上がるため,共用することはできない.また,散弾銃のようにプラスチック製の薬莢では爆圧に耐えられないため,ライフル実包の薬莢はすべて真鍮製(共産圏の一部には鉄製もある)である.

ライフル銃の口径 

ライフル銃の口径には数多くの種類が存在し,また同じ口径であっても薬莢の長さや太さが違うことで別の実包として区別される.アメリカなどでは個人単位で新たな実包を開発する者も少なからず存在するため,その種類は無限大と言っても過言ではない.
そんな中,国内で狩猟用として認められている口径は原則的に6 mmから10 mmまでで,もっとも多いのが7.62 mm,アメリカ式の呼び方では.30 Caliber(30口径),つまり0.30インチである.一般的に狩猟で使われる実包の種類をざっと挙げると,6 mm PPC,6 mm BR,.243 Winchester,.270 Winchester,7 mm Remington Magnum,.30 Carabine,.30-30 Winchester,.308 Winchester,.30-06 Springfield,.300 Winchester Short Magnum,.338 Winchester Magnum,etc….まだ他にもたくさんあるのだが,普通ならこれだけでも頭が混乱するだろう.
そもそも,口径表記にミリとインチが混在しており,しかも.308 Winchesterなどは30口径であるにもかかわらず,銃身腔内に刻まれたライフリングの谷径である.308という数値をあえて表示している.さらに,.300 Winchester Magnumも同じ30口径なのだが,こちらは小数点以下に0を付け足すことで,より強力なイメージを演出しているわけだ.例えるなら,健康食品などの有効成分量を1gではなくあえて1000mgと表記するのと同じことで,まさにネーミングの妙と言えるだろう.
口径の次に来る数字の意味も様々で,.30-30 Winchesterの場合,口径が.30で,開発当初の黒色火薬の量が30グレインだった(現在は違う)から,ということに由来し,.30-06 Springfieldの06は,1906年にアメリカ軍が採用したから,という理由による.また,Magnumという言葉は,イギリスで巨大な酒瓶をマグナムボトルと呼んでいたことから由来しており,大きな薬莢で多量の火薬が入る,比較的威力の強い実包に対してつけられるようになった.しかし,これにも明確な基準はなく,既存の製品を大型化し,威力を増した実包に対する商品名として使われることが多いようだ.
つまり,ライフルの口径表示や実包名には決まったルールがなく,開発者やメーカーの意向で思い思いにつけられている,というのが現状だ.実際問題,個々のネーミングに固執する必要はなく,それよりも重要なのは,代表的な実包の特性をしっかりと理解しておくことなのである.例えば,.243 Winchester(以下.243 Win)と.338 Winchester Magnum(以下.338 Win)では,威力も有効射程距離も全く違う..243 Winは,直径6.2 mm,重量80グレイン(約5 g)の弾頭を銃口初速3300 ft/sで飛ばすが,.338 Winは,直径8.6 mm,重量200グレイン(約13 g)の弾頭を銃口初速2900 ft/sで撃ち出す.軽い弾頭を高速で飛ばす.243Winは,弾道の低伸性に優れており,200 m程度まではほぼ真っすぐに飛んで行く.命中精度も高く,有効射程距離内であれば,理論上,獲物を外すことはまずあり得ないと言っても過言ではない実包だ.しかし実際は,弾頭が軽い分,風の影響を受けやすく,開けた猟場などでは思わぬ失中を招く場合も少なくない.また,獲物に命中しても,急所を外すと半矢となる可能性が高く,射手にも正確な狙撃能力が要求される.
一方,弾頭の重い.338 Winは,早い段階で弾道が落下してしまうため,100 m以上の遠射はかなり難しい.そのかわり,獲物に対する威力は凄まじく,ヒグマなどの大型猛獣を確実に止めるだけのパンチ力を持っている.
したがって,シカやイノシシなどの肉をあまり傷めずに取りたいいわゆるミートハンターなら.243 Win,ヒグマ猟を専門にやるようなハンターには.338 Winが向いている,と言えるだろう.国内での一般的な大物猟では,もっとも中間的な実包と言える.308 Winchester,もしくは.30-06 Springfieldを使うハンターが多いようだ.

ライフル銃の形式

ライフル銃の形式は,散弾銃とほぼ同じだと言ってもいいだろう.しかし,散弾銃では一般的な上下二連や水平二連は少数しかなく,一部の超高級品に見られるのみだ.ほとんどがボルト式と自動式で,銃刀法で定められた装弾数の上限は弾倉内5発と薬室内1発の合計6発だ.ライフル銃は遠距離狙撃をするための銃なので,通常はスコープを搭載することが多い.
 自動式よりもボルト式の方が命中精度が高い,などと言われることもあるが,実際はあまり関係なく,自動式でも命中精度の高いライフル銃は多数存在する.しかし,構造上,ボルト式は太い銃身や厚い機関部を使うことが可能で,銃の質量が大きくなれば発射時の振動が一定に保たれ,弾道も一定となるため,より高い命中精度を求めるならボルト式の方が向いている,とは言えるかもしれない.結果的に,究極の命中精度を追求したカスタムライフルなどはほとんどがボルト式で,重量も5 kgをゆうに超える物が多い.一方,自動式は一定の命中精度を保ちつつも,3〜4 kg程度と軽い物が多く,加えて自動連射が可能なため,国内での大物猟には万能の形式だ.

■ 銃を所持するために必要な手続きとコスト

銃を所持する

銃に関することを細かく定めた法律,「銃砲刀剣類所持等取締法」略して銃刀法の第一章第三条に,こんなことが書かれている.「何人も,次の各号のいずれかに該当する場合を除いては,銃砲又は刀剣類を所持してはならない」つまり,我々日本国民は,銃を所持することをそもそも禁止されている,ということだ.
しかし,銃猟を行おうとする場合や,わな猟の止め刺しを銃でやろうとするなら,銃が必要になる.そこで,「次の各号のいずれかに該当する場合を除いては」という部分に鑑み,銃の所持許可申請をするわけだ.
「次の各号」というのはたくさんあるのだが,その中でも特にハンターに関係があるのは,「狩猟,有害鳥獣駆除又は標的射撃の用途に供するため,猟銃又は空気銃を所持しようとする者」という部分だろう.狩猟や射撃を行う,という確固たる目的のある者に対しては,公安委員会(実際の窓口は住所地を管轄する警察の生活安全課)から銃の所持許可が下りる.これはとりもなおさず,銃刀法上,銃の所持は例外事項であるということで,ここが自動車の運転免許などと大きく異なる点だ.自動車の場合,免許を取得すれば,それは車を運転する権利を有したことになり,運転するしないはその人の自由である.だが銃の場合,狩猟や射撃に使う必要があって許可を受けているわけだがら,実際に使っていないと許可を取り消されることもあるわけだ.狩猟の世界では,ペーパーハンターは原則的に存在しないのである.
また,運転免許なら区分に応じて色々な車に乗れるし,誰かの車を借りることもできる.
しかし,銃はその人だけに対して所持許可が下りるので,銃の貸し借りはできない.これを「1銃1許可制」と言い,別の銃が必要な場合はその都度,最初から所持許可申請の手続きをしなければならない.

欠格事由

欠格事由とは,銃刀法で定められた,銃の所持許可が受けられない者についての規定である.以下に代表的なところだけを抜粋してみた.

1.猟銃については20歳,空気銃については18歳に満たない者
2.精神病者,麻薬,大麻若しくは覚醒剤の中毒者又は心身耗弱者
3.住居の定まらない者
4.銃砲刀剣類を不法に所持して罰金刑以上の刑に処せられ,その刑の執行を終わり,又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過していない者
5.集団的に,又は常習的に暴力的不法行為,その他の罪に当たる追放な行為で国家公安委員会規則で定めるものを行うおそれがあると認められるに足りる相当な理由がある者
6.破産手続き開始の決定を受けて復権を得ない者

まず,1.の年齢制限で空気銃は18歳から許可が下りることになっているが,第一種および二種の狩猟免許取得は20歳からなので,これは標的射撃に限られる.2.は医師の診断書を提出して,欠格事由に相当しないことを証明する.3.〜5.は実際に警察官が自宅を訪問し,かつ,過去の犯罪歴をデータベースから調査され,会社などにも聞き込みが入る.近所の人から「争うような大声が聞こえた」などの情報があったり,会社の同僚などから「最近様子がおかしい」などの話があると,許可が下りない場合もあるので注意が必要だ.意外なのは6.かもしれないが,現状で自己破産をしている人には許可が下りないため,そうではないことを証明する「身分証明書」という書類を提出しなければならない.

猟銃等講習会

まずは所轄署の生活安全課に出向いて,手数料6,800円を支払い,「猟銃等講習会」の申し込みをする.書類は,警視庁や各都道府県警のホームページからダウンロードが可能だ.
担当者にもよるが,ここで,「あなたはなぜ銃を所持したいんですか?」と聞かれる可能性もある.これはある意味当然のことで,銃刀法で禁止されているにもかかわらず,あえて銃の所持許可が欲しいと言っているのだから,明確な返答が必要だ.言うまでもなく,ここは「狩猟をするためです」と答えるべきだろう.さらに,わな猟の止め刺しに使うのか,空気銃猟をやりたいのか,散弾銃を使いたいのか,所持したい銃とその目的をはっきりと伝えられればなお良い.
猟銃等講習会の申し込みが受理されると,「猟銃等取扱読本」という冊子が手渡される.当日はこれをテキストにして講習が行われ,最後に考査(テスト)を受けるわけだが,隅から隅までくまなく熟読し,完全に記憶しなければ合格は難しい.
講習は午前からはじまり昼休憩をはさんで午後16時頃までで,その後,1時間の考査が行われる.問題は50問,○×の2択式で45問以上正解が合格ラインだ.内容は銃刀法に関することや銃の運用方法,人や銃に対する欠格事由事項,所持許可更新の時期など,多岐にわたる.数字にまつわる事柄も多く,所持できる銃の最低限の全長や銃身長,最大の装弾数,各銃種の最大射程距離など,覚えなければならない数字がたくさんある.また,「以上」「未満」「超えるもの」など,前後の言葉によって同じ数値でも意味が変わってくるため,単なる丸暗記ではなく完全な理解が必要だ.考査の結果は合否のみが通知され,合格者には「講習修了証明書」が即日手渡されるが,得点数は伝えられず,問題用紙を持ち帰ることもできない.
気になる合格率だが,筆者のまわりで実際にあった例では,「5名中1名合格」「7名中3名合格」「18名中6名合格」という結果だった.最高でも約45 %,低い場合は実に20%ということになり,かなり狭き門であることは間違いない.今は実用的な参考書や問題集なども出版されているため,それらをうまく利用するべきだろう.

教習射撃

猟銃等講習会の考査に合格したら,空気銃だけを所持する場合,この時点で所持許可申請ができる運転免許に例えるなら原付免許と同じで,学科試験のみ,ということになる.
しかし,散弾銃を所持する場合,射撃場の備え付け銃を使って実際にクレー射撃を行う「教習射撃」という実技試験を受ける必要がある.教習射撃では,一時的とはいえ本物の銃を手にする(所持する)わけだから,その人が銃を所持しても大丈夫かどうかの身辺調査が警察によって行われる.これを教習射撃認定といい,申し込みに8,900円がかかり,医師の診断書が必要になる.
身辺調査の結果に問題がなければ,数ヶ月で「教習資格認定証」が発行される.この時点で,教習射撃に使う弾を買うための「猟銃用火薬類譲受許可証」が必要になり,これに2,400円がかかる.
次に,射撃場に予約を入れ,教習射撃を受ける.費用は射撃場にもよるが3万円ほど,トラップ射撃とスキート射撃の2種目から選べ,トラップなら25枚中2枚,スキートなら3枚のクレーに命中させれば合格となる.もちろんいきなり撃つわけではなく,最初に座学を行なって,銃の分解結合,安全な取り扱いなどについての講習を受ける.ここでは本物の銃を扱うわけだから,射撃指導員の言うことをしっかり聞いて真剣にやらなければ危険だ.
考査に合格したら「教習終了証明書」が発行される.これをもらったら,あとは所持許可申請をするだけだ.

所持許可申請

前述の通り,銃の所持は免許ではないため,申請時にはあらかじめ所持する銃が決まっていなければならない.この時点でガンロッカーと,散弾銃なら装弾ロッカーも必要で,だいたい4〜5万円ほど.
すべての書類が揃ったら生活安全課に出向き,10,500円を支払って所持許可申請をする.
ここで2回目の身辺調査が入ることになるが,すでに教習資格認定の時点でクリアしているわけだから,たいていはスムースに行くはずだ.さらに診断書ももう一度必要になるため,教習射撃認定の時と合わせて2回分の料金がかかることになる.診断書の料金は病院によってまちまちだが,一般的には5,000円程度のようだ.
申請から35日以内に所持許可が下りるはずなので,警察で「猟銃空気銃所持許可証」を受け取り,それを持って銃砲店に行き,銃を引き渡してもらう.次に,14日間以内に警察に銃を持参し,許可を受けた銃と相違ないか,全長や銃番号の確認を受ける.ここで所持許可証に「確認」の印鑑が押され,すべての手続きが完了だ.ここまでにかかる日数は,都道府県によってケースバイケースだが,おおよそ半年間以上はかかるはずだ.
さらに,狩猟目的でライフル銃を所持しようとする場合,猟銃を10年間継続して所持している者にのみ申請資格が与えられる.銃刀法上,猟銃というのは火薬を使う銃(装薬銃)のことであり,おかしな話だが,狩猟に使う空気銃であっても法的には猟銃と見なされないので注意が必要だ.したがって,将来的にライフル銃を所持するつもりなら,空気銃だけではなく,なるべく早い段階で散弾銃を所持しておいた方が良いだろう.
所持許可は3年ごとに更新しなければならず,更新には「経験者講習会」と,猟銃なら「技能講習」を受講する必要がある.最初に受けた猟銃等講習会と経験者講習会との違いは,考査がないということだ.1日かけて講習を受ければ講習修了証明書が発行され,空気銃ならこの時点で更新の手続きができる.
技能講習は最初に受けた教習射撃と同じく,射撃場で実際に射撃をし,考査もある.
銃という物に慣れてしまった結果,安全な取り扱いに留意できなくなってしまうことを防止するのが目的だ.これに合格すると,「技能講習修了証明書」が発行され,散弾銃やライフル銃の所持許可更新申請が可能となる.

■ 狩猟免許の取得方法

法定猟具を使って狩猟をしようとする者は,狩猟免許を取得しなければならない.狩猟免許には,「わな猟免許」「網猟免許」「第二種銃猟免許」「第一種銃猟免許」の4つの種目があり,受験料は1種目あたり5,200円だ.
わな猟免許のみの場合,獲物を止めるには銃猟免許保持者に依頼するか,銃以外の方法で止める必要がある.網猟は鳥類に限定されているため,ナイフなどで止め刺しをするのが一般的であり,通常,他に法定猟具を使うことはない.第二種銃猟免許は空気銃のみを使って狩猟を行うための免許だが,第一種銃猟免許があれば,空気銃と猟銃(散弾銃およびライフル銃)の両方を使って狩猟をすることが可能だ.
注意しなければいけないのは,狩猟免許と銃の所持許可は全く別の制度である,ということだ.狩猟免許は都道府県の管轄だが,銃を所持するには公安委員会の許可が別途必要なため,銃猟免許の他に銃の所持許可を受けなければならない.それについては別項で解説しているが,銃の所持許可が何重もの厳しいハードルをクリアしなくてはならないのに比べると,狩猟免許試験の方は合格率90%以上と高い場合が多い.ただし,以下の条件に当てはまる者には狩猟免許試験の受験資格がないので,注意が必要だ.

1.試験当日に網猟免許及びわな猟免許にあっては18歳に,第一種銃猟免許及び第二種銃猟免許にあっては20歳にそれぞれ満たない者
2.精神障害又は発作による意識障害をもたらし,その他の狩猟を適正に行うことに支障を及ぼすおそれがある病気として環境省令で定めるものにかかっている者
3.麻薬,大麻,あへん又は覚醒剤の中毒者
4.自己の行為の是非を判別し,又はその判別に従って行動する能力がなく,又は著しく低い者
5.鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律又は同法に基づく命令の規定に違反して,罰金以上の刑に処せられ,その執行を終わり,又は執行を受けることがなくなった日から3年を経過しない者
6.法第52条第2項第1号の規定により狩猟免許を取り消され,その取り消しの日から3年を経過しない者

狩猟免許試験の流れ

狩猟免許は都道府県が認定する国家試験なので,住所地の都道府県で受験することになる.試験の日程や会場については,各都道府県のホームページで確認することが出来る.申し込みは事前予約制で,都道府県庁の窓口に直接出向くか,都道府県猟友会を通じて申し込む.都道府県猟友会の連絡先は,上部総括団体である大日本猟友会のホームページから確認が可能だ.
試験の内容は「知識試験」「適性試験」「技能試験」の3つに分かれており,まずはペーパーテストで知識試験が行われる.狩猟および鳥獣保護管理に関する法律や,猟具の取り扱いなどについて30問が出題され,90分以内に21問以上正解すれば合格となる.合否は即日発表され,合格者は次の段階に進むことが出来る.
次の適正試験では,視力,聴力,運動能力などのテストが行われる.視力は銃猟免許なら両目で0.7,わなと網猟免許なら両目で0.5以上が必要だ.もちろん矯正視力でも構わないので,その場合は自動車運転免許証とおなじように「眼鏡等使用」という文言が狩猟免許状に追記される.ちなみに片目しか見えない者でも,他眼の視力が前述の数値以上あり,かつ視野が左右150度以上あれば問題ない.
聴力の試験は,10mの距離で90dbのブザー音が聞こえれば合格だ.判定法としては,受験者と試験官が対峙し,音が聞こえたら手を挙げる.さらにシンプルなのは運動能力の試験で,片足立ちをしたり,両手を挙げて手を開いたり閉じたりする.健康な肉体さえあれば,ここまでの試験はそう難しくないだろう.
最も大変なのが技能試験だが,これは免許の種類によって内容が変わってくる.わなと網猟の場合,いくつかの猟具が並べられ,どれが合法でどれが違法なのかを答えなければならない.例えば,同じく獲物の足を捉えるタイプのわなでも,くくりわなは合法的な法定猟具であり,とらばさみは禁止猟具であるため,それらを見分ける能力が要求されるのだ.種類判別の後は,試験官の前で実際にわなや網の架設を行って,技能試験は終了だ.
銃猟免許の試験では,模擬銃を使用して銃の取り扱いなどを行う.第二種では空気銃,第一種では空気銃と散弾銃の構え方や分解結合ができるかどうか,試験官の前で実演をする.模擬銃と言えども,試験中にうっかり矢先(銃口)を人に向けてしまったり,何気なく引き金に指をかけてしまうと減点されるため,本物の銃と同じ緊張感でのぞまなければならない.
さらに,銃猟免許の適性試験には,「距離の目測」というテストが行われる.猟場で銃を撃つ際,自分が撃った弾の最大到達距離を把握し,その範囲内に危険がないことを確認する必要があるためだ.第二種では300m,30m,10mを,第一種では300m,50m,30m,10mの距離をそれぞれ目測で言い当てなければならない.実際の試験では屋外に出て,試験官から「あそこの信号までは何メートルありますか?」などと聞かれるので,その距離を答えることになる.

鳥獣判別試験

すべての狩猟免許試験で行われるのが,鳥獣判別試験だ.狩猟による捕獲が認められている動物を狩猟鳥獣と呼び,それに指定されているのは鳥類28種と獣類20種の合計48種のみ.言うまでもなく,それ以外の動物を捕獲すれば法律違反となるため,ハンターにとって狩猟鳥獣の判別は重要なスキルなのだ.
試験の方法は,鳥獣の姿が描かれたイラストを使い,5秒以内に狩猟鳥獣か否かを答える.例えば,マガモの姿が描かれたイラストなら「獲れます」と答え,それがもしオシドリなら,「獲れません」と答えなければばらない.もしも非狩猟鳥獣を捕獲した場合,1年以下の懲役または50万円以下の罰金が課せられることになるため,慎重な判断が必要なのである.

事前講習会

狩猟免許試験には事前講習会という制度があり,これを受けることで合格率が飛躍的に向上する.講習会は都道府県猟友会が開催するもので,ほとんどの場合,試験と同じ会場で,同じ猟具や鳥獣のイラストを使い,同じテキストで予習が行われる.ある意味,いたれりつくせりとも言える制度だが,実際問題,これを受けなければ合格は難しいかもしれない.
申し込みは都道府県猟友会で受け付けており,費用は免許の種類や地域にもよるがおよそ5,000円前後,試験と同時に申し込むのが一般的だ.狩猟免許を取得するためには,一般的に事前講習会と試験,合計2日間の日程が必要ということになる.

猟友会

猟友会は,上部組織から「大日本猟友会」「都道府県猟友会」「地元猟友会(支部)」の3つに分かれており,我々個人ハンターが所属するのはいちばん下の地元猟友会になる.地元猟友会というのは任意団体だが,それを管理している都道府県猟友会と,全てを総括している大日本猟友会のふたつは一般社団法人だ.
猟友会の設立目的として,ホームページに以下の憲章が掲げられている.「狩猟道徳の向上,野生鳥獣の保護,有害鳥獣駆除及び狩猟の適正化を図り,もって狩猟の健全な発達と生活環境の改善に資すること」さらに活動内容としては,「野生鳥獣の保護増殖事業,狩猟事故・違反防止対策事業,狩猟共済事業などを行う」とある.
猟友会費は各団体によって異なるので一概には言えないが,会費は前述した3団体すべてに納入しなければならない.通常,第一種銃猟で総額40,000円ほどかかり,これには狩猟税,3団体分の猟友会費,共済,ハンター保険,各種手数料などが含まれている.

狩猟者登録

ハンターを目指すのであれば,各種狩猟免許の取得と,銃を使う場合はさらに所持許可が必要だというのは前述した通りだ.それらに加え,実際に狩猟を行うには,毎年の猟期(原則的には11月15日から2月15日まで)ごとに,自分が狩猟をしたい都道府県に対し「狩猟者登録」という手続きを行わなければならない.わなおよび網猟が8,200円,第二種銃猟が5,500円,第一種銃猟では16,500円がかかり,狩猟税という形で各都道府県に納められる.登録されると,「狩猟者登録証」と「狩猟者バッジ」が配布され,猟場では常に携帯しなければならない.
また,狩猟者登録をするには,万が一の事故に備えて3千万円以上の損害賠償能力が必要となるが,具体的には,以下のいずれかの書類の提出を求められる.

1.当該年度の一般社団法人大日本猟友会の共済事業の被共済者であることの証明書
2.損害保険会社の損害保険契約の被保険者であることの証明書(保険証書の写し又は付保証明書)
3.資産に関する証明書(金融機関の預金残高証明書等)

つまり,3千万円以上の資産がない場合,大日本猟友会の共済か,民間の損害保険に入らなければ狩猟ができない,ということだ.猟友会に入会すると,同時に共済に加入したことになり,事故の場合は最大4千万円の補償が受けられる.さらに任意のハンター保険を追加すれば,最大1億6千万円まで補償されるため,たいていのハンターは猟友会に入会することになるわけだ.

火薬類無許可譲受票

銃猟の場合,狩猟用の火薬や実包が必要になるが,それらを買うための書類が火薬類無許可譲受票だ.猟友会員には狩猟者登録と同時に配布されるが,非会員の場合,所轄警察署から有料で発行してもらうことになる.
この書類を銃砲店などに提示すれば,散弾実包300発,ライフル実包50発,銃用雷管50個,銃用火薬500gまでを無許可で買うことが出来る.狩猟期間中に使い切れず,あまってしまった実包や火薬を残火薬類と呼び,これらは射撃場で標的射撃に使うなどして消費しなければならない.

■ 銃のエネルギーと獲物に対する殺傷能力

空気銃の威力

通常,エアライフルの威力は,銃口初速ft/sと銃口エネルギーft/lbsで表される.銃口から撃ち出された弾の速度は,発射された直後から空気抵抗によって落ちて行く.当然,それに比例してエネルギーも落ちるので,獲物に命中した瞬間の数値,つまり「残存エネルギー」というものが重要となる.一般的な5.5 mmのプレチャージ式空気銃の場合,銃口初速が900 ft/s前後,銃口エネルギーが30ft/lbs前後だ.これが30 m先では,速度800 ft/s前後,エネルギー22 ft/lbs前後となり,50 m先では速度700 ft/s前後,エネルギー18 ft/lbs前後まで落ちる.
カモやキジなど,大型鳥類に対する致死エネルギーは7ft/lbsだと言われており,50m先の18ft/lbsというのは,理論上,2羽分のカモを仕留められる威力ということになるが,もちろん,実際には不可能である.頭部や首などに命中すれば即死するが,鳥の身体の側面を広く被う羽の骨格は固く,角度によっては弾をはじいてしまう可能性もある.また,実際の猟場には強い風が吹いている場合もあり,獲物に弾が届くまでの間には想像以上に威力が落ちることも考えられる.
特にカモの場合,翼に損傷がなければ,例え空気銃弾が体を貫通していても簡単に飛び去ってしまう.半矢で獲物を逃すのは可能な限り避けるべきであり,そのためには確実に急所を撃ち抜く必要があるのだ.

散弾銃の威力

散弾銃の威力は,空気銃やライフル銃など,単弾を発射する銃よりも考え方がやや複雑だ.単純に散弾1粒あたりのエネルギーだけでは比較にならず,獲物に対して何粒の散弾が命中したかによって致死率が変わってくるからだ.そこで重要となるのが散弾のパターンであり,前述したチョークを使い分けることで,獲物により多くの散弾を命中させる必要がある.
一般的な12番散弾銃で,鉛製5号散弾200粒を発射した際の残存エネルギーは,30m地点で1粒あたり約4 ft/lbs,50 m地点では約2 ft/lbsと,空気銃よりもかなり低い.しかし,適正なチョークを使えば,30 m地点で70 cm以内に約100粒以上の散弾をまとめることが出来るため,散弾パターンの中心に獲物をとらえれば,かなり多くの散弾を命中させられる可能性が高い.仮に10粒の散弾が獲物に命中したとすると,単純計算で40 ft/lbs以上のエネルギーということになり,これは空気銃の銃口エネルギーをはるかに上回る数値だ.散弾銃は,いちどに複数の弾を当てることで,獲物を捕獲するための銃なのである.

スラッグ弾の場合,12番なら銃口初速約1200 ft/s,銃口エネルギーは約1400 ft/lbs,ハーフライフルスラッグ銃からサボットスラッグを撃つと,銃口初速約1400ft/s,銃口エネルギーは約1800 ft/lbsにものぼる.これでもライフル銃に比べたら弱いと言えるが,一般的なライフル実包である.308 Winchesuterの弾頭が通常は160グレイン程度であるのに対し,スラッグの弾頭は400グレイン以上もある.重い弾頭が持つパンチ力には凄まじいものがあり,近距離であれば,.30口径のライフル銃よりも時に12番スラッグの方が獲物の捕獲率が上がる,ということも少なくない.事実,アラスカで500kg級のグリズリーベアーと対峙する可能性の高いハンティングガイドなどは,3インチマグナムという,通常より強力な12番スラッグを常備している.これは,猛り狂いながら突進して来るグリズリーを少しでも早くストップさせるために,状況によってはライフルよりも頼りになるということを経験的に知っているからだ.銃の威力を数値で表すことは可能でも,獲物に対する殺傷能力とは必ずしも一致しない,ということを示す良い例である.

ライフル銃の威力

ライフル銃の威力は,銃口初速と弾頭重量の数値のみで表されることが多い.例えば,国内でもっとも一般的な実包である,.308 Winchesuterの場合,弾頭重量150グレインなら銃口初速約2800 ft/s,銃口エネルギー約2600 ft/lbsだ.これが168グレインになると約2600 ft/sと約2700 ft/lbs,185グレインでは約2500 ft/sと約2580 ft/lbsになる.銃口初速にはかなりの開きがあるが,銃口エネルギーにはあまり大差がない,ということが分かるだろう.
それよりも重要なのは,弾頭重量による弾道曲線の違いと,弾頭の重量や形状による,獲物への威力伝達の特性だ.弾頭重量が軽ければ,その分,弾道曲線は直線に近く低伸性が高くなる.これはとりもなおさず,より遠くまで弾頭が落下せずに飛んで行くということであり,獲物への距離にかかわらず,狙点を一定に保てるということに他ならない.だが重い弾頭の場合,撃ち出された弾頭は早い段階でどんどん落下してゆく.つまり,獲物への距離が遠くなるほど「上を狙う」必要があり,瞬時に獲物との距離を判断するなど,ハンターには狙撃上のテクニックが要求されるわけだ.

ではなぜ重い弾頭を使う必要があるかと言えば,やはり獲物に対する威力の伝達率の違いによるところが大きい.銃口エネルギーだけを見れば,軽い弾頭よりも重い弾頭の方が数値上は若干低いかもしれない.しかし,一定の距離内であれば,残存エネルギーを高く保ったまま獲物に伝えることが出来るのだ.言わばボクシングにおけるパンチのようなもので,軽いグローブで素早いパンチを浴びせるか,ゆっくりとだが重いグローブで強烈な一撃をお見舞いするか,これはハンター各自の狩猟スタイルや考え方によるところが大きい.
通常,ライフル弾頭の形状は,空気抵抗を減らすために先端が尖っており,鉛の芯(コア)に銅をかぶせた構造になっている.完全に胴で被われている物をフルメタルジャケットと呼び,精度の高い物が作れるため標的射撃用に使われることが多いが,命中時にあまり変形せずそのまま貫通してしまうことが多いため,狩猟には向いていない.ちなみに,ハーグ条約により各国軍隊が使用出来る弾頭は,このフルメタルジャケットのみと決められている.貫通するということは,対象物に充分なエネルギーを伝えられないということであり,戦争の場合,人道的にはその方が望ましい,というわけだ.
逆に言えば,狩猟にはより変形しやすい弾頭の方が向いている,ということになる.そこで,命中時に変形しやすいよう,鉛の芯を弾頭の先端部に露出させたソフトポイントと呼ばれる弾頭を使う.柔らかい鉛が潰れることで弾頭がマッシュルーム状となり,獲物に対してより効率的にエネルギーを伝えることが出来るのだ.北海道では,オオワシやオジロワシなどの鉛中毒を防ぐため,中心部まで銅で出来ている弾頭を使わなければならないが,マッシュルーム状に変形しやすい構造になっている.

弾道と弾の材質

銃から発射されたすべての弾は,銃口を飛び出すと同時に落下をはじめる.これは,超高速で撃ち出されるライフル弾頭でも同じことで,直進し続けるという弾はない.しかし,射手は直線上で標的を見ているので,弾を命中させるためには,放物線を描く弾道と真っすぐな照準線とを交差させる必要がある.弾道と照準線の交差点はふたつあり,射手側の方からそれぞれ「第一狙点」と「第二狙点」と呼ぶ.
通常,銃の照準器は銃身側の「照星」と,機関部側の「照門」のふたつを目視で合わせることで,標的を狙う構造になっている.照星は照門よりも低い位置にあるため,標的を目視するには銃身を少し持ち上げる形となる.スコープの場合,外見上は銃身と平行に設置されているように見えるが,内部にエレクターチューブという部品が入っており,これが上下左右に可動する仕組みになっている.いずれにせよ,標的を狙うと銃が若干上を向いた状態で発射することになり,弾はまず上方に飛んで行くわけだ.そこからゆるやかに上昇しつつ,上死点を経過した後は,再びゆるやかに降下して行き,最後は地面に落下する.その間,照準線と交差する地点がふたつあるのは前述の通りだが,空気銃の場合,第一狙点は銃口から8m前後と近すぎるため,50mほどの第二狙点で命中するよう,照準器を調整する.空気銃に比べて初速の早いスラッグ銃やライフル銃の場合,低伸性が高く弾道の放物線も緩やかなので,第一狙点を50m〜100mに設定するのが一般的だ.
弾の材質は,通常,空気銃弾や散弾は無垢の鉛で出来ており,ライフル弾頭は芯が鉛製でまわりが銅で被われている.北海道や他の都道府県の一部では,狩猟に鉛弾を使用することが禁止されているため,ライフル銃には純銅製の弾頭を,散弾銃にはビスマスやタングステン,またはソフトスチール製の散弾を使用しなければならない.これは,獲物の残滓内に残留した鉛を,他の動物が食べることによって起こる鉛中毒を防ぐためだが,特に北海道の場合,狩猟を目的としたすべてのライフル弾頭と,直径7 mmをこえる散弾は所持すら禁止である.
そんな中,実猟の現場では,しばしば「非鉛弾は威力がない」というような話を耳にするが,これには少々誤解がある.非鉛散弾は鉛に比べて0.7〜0.9倍と比重が軽いため,同じ号数の散弾を使った場合,獲物に対する威力が弱まるように感じるのかもしれない.しかし,非鉛散弾実包には,鉛散弾実包より3割ほど多くの粒数が詰められており,重量が同じであれば,ふたつ上の号数とほぼ同数の散弾が飛んで行く.しかも,鉛に比べて2倍から最大約8倍ほども硬いため,発射時の変形が極めて少なく,散弾のパターンが均一になるという傾向があるのだ.これはとりもなおさず,獲物をより広い面で確実に捉えられる,ということに他ならず,結果的に捕獲率の向上につながると言えるだろう.
また,銅製ライフル弾頭の場合,鉛弾頭に比べて初速が若干上がるという傾向がある.結果的に命中精度が高まる場合も多く,狩猟以外でも,標的射撃に好んで使われるケースもあるほどだ.獲物に対する威力の点でも,命中時,銅弾頭はマッシュルーム状に変形するよう作られており,先端に埋め込まれたアルミ製のチップにより変形率を高めた銅弾頭などもあるため,エネルギーを効率よく伝達できる.
良いことずくめのような非鉛弾だが,問題があるとすれば,やはり価格の高さかもしれない.一般的な鉛弾に比べて数倍以上も高価なため,北海道以外ではなかなか浸透しないのが実情だ.だがこれも,今以上にハンターが非鉛弾の価値や使用方法を理解し,それがさらに広まれば,1発あたりのコストも下がって行くはずである.

■ 周囲の地形と安全想定

バックストップ

銃から撃ち出された弾が獲物を外れた場合,また,命中しても貫通してしまえば,弾はそのまま飛んで行ってしまうことになる.空気銃弾は約300 m,12番スラッグ弾は約700 m,30口径ライフル弾に至っては実に4000 mもの最大到達距離(35度前後の仰角で発射した場合)があるため,これは大変危険だ.しかし,獲物の背後に山の斜面などがあれば,そこで弾が止まることで事故を未然に防げる.これをバックストップと呼び,獲物に向かって銃を撃つ際,ハンターが必ず確認しなければならない重要なポイントだ.逆に言うと,山の稜線上で獲物の背後に何もないような場合は,撃ってはいけないということになる.
バックストップのあるなしにかかわらず,「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」では,可猟地域であっても発砲を禁止されている場所があるため,注意が必要だ.例えば,公園や墓地など人の集まる場所や,公道上で銃を撃ってはならない.特に公道に関しては決まりが厳しく,弾が公道の上空を通過することも禁止である.
また,上空を飛ぶ鳥に向かって散弾銃を撃つ場合,見える範囲内に民家がなかったとしても,弾の落下地点付近に何らかの人工施設があるような場合は,発砲を控えるべきだ.これは,事前に周囲の地形を理解していなければならないということであり,特に知らない土地に行く際は,充分なリサーチが必要となるだろう.
獲物の姿を確認したら,まずはバックストップがあるかどうかを確認し,弾の行く先を想像してからでなければ発砲は許されない.ハンターは,自分が撃った弾の最後まで責任を負わなければならないのだ.

銃猟禁止区域と鳥獣保護区

銃から撃ち出された弾が獲物を外れた場合,また,命中しても貫通してしまえば,弾はそのまま飛んで行ってしまうことになる.空気銃弾は約300 m,12番スラッグ弾は約700 m,30口径ライフル弾に至っては実に4000 mもの最大到達距離(35度前後の仰角で発射した場合)があるため,これは大変危険だ.しかし,獲物の背後に山の斜面などがあれば,そこで弾が止まることで事故を未然に防げる.これをバックストップと呼び,獲物に向かって銃を撃つ際,ハンターが必ず確認しなければならない重要なポイントだ.逆に言うと,山の稜線上で獲物の背後に何もないような場合は,撃ってはいけないということになる.
バックストップのあるなしにかかわらず,「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」では,可猟地域であっても発砲を禁止されている場所があるため,注意が必要だ.例えば,公園や墓地など人の集まる場所や,公道上で銃を撃ってはならない.特に公道に関しては決まりが厳しく,弾が公道の上空を通過することも禁止である.
また,上空を飛ぶ鳥に向かって散弾銃を撃つ場合,見える範囲内に民家がなかったとしても,弾の落下地点付近に何らかの人工施設があるような場合は,発砲を控えるべきだ.これは,事前に周囲の地形を理解していなければならないということであり,特に知らない土地に行く際は,充分なリサーチが必要となるだろう.
獲物の姿を確認したら,まずはバックストップがあるかどうかを確認し,弾の行く先を想像してからでなければ発砲は許されない.ハンターは,自分が撃った弾の最後まで責任を負わなければならないのだ.


銃猟禁止区域と鳥獣保護区

銃猟禁止区域は特定猟具使用禁止区域(銃)と表記される場合もあり,ハンターからは「じゅうきん」などと呼ばれている.狩猟可能な地域ではあるが,銃を使用することが禁止されている場所のことで,鳥獣保護区等位置図(ハンターマップ)上では青に塗られており,現場には要所ごとに赤い看板が立てられている.狩猟をするには罠か網を使うことになり,獲物の止め刺しを行う時でも銃の使用は禁止なので注意が必要だ.
ただし,一部地域では,罠にかかった獲物の止め刺しを行う場合のみ例外的に銃の使用が認められているところもある.前述の通り,周囲には銃猟禁止区域の看板が立っていることも多く,銃声が聞こえれば周辺住民の誤解を招きかねないため,そういったケースでは事前の周知が重要となるだろう.
鳥獣保護区では原則的に一切の狩猟が禁止で,ハンターマップ上では赤く塗られている.しかし,ここでも例外として,シカなど特定の対象獣にのみ狩猟が許されている場所もある.この場合,銃を持って鳥獣保護区に立ち入ること自体が周囲の誤解を招く可能性もあり,事前にしっかりと確認しておくべきだ.
また,発砲した場所が可猟地域内でも,飛んで行った弾が銃猟禁止区域や鳥獣保護区に入ってしまうことは禁止されている.したがって,矢先の方向がどこまで可猟地域であるのかを良く認識し,かつ,自分の銃から発射される弾の最大到達距離を考えなければならない.そのためには,猟期がはじまる前から何度も猟場に通って,充分なリサーチを行う必要がある.そうすることで,どこにどんな獲物がいるのかも自ずと分かって来るし,様々な準備も可能になるだろう.狩猟というものは,解禁と同時にはじまるわけではなく,普段からの行動次第で猟果も大きく変わって来るものなのだ.

■ 銃の盗難防止と管理

ガンロッカー

銃という物は,言うまでもなく使い方を誤れば大変に危険な道具だ.ハンターは,自分が所持する銃を常に自己の支配下に置き,盗難防止につとめなければならない.
具体的には,自宅に保管庫(ガンロッカー)を設置し,銃はその中に入れて施錠,実包や火薬類は別途装弾ロッカーに施錠保管をする.銃刀法では,銃の保管庫として使用出来るロッカーの基準が定められており,厚さ1 mm以上の鉄板を使用することなど,いくつかの規定がある.銃砲店で販売されている物であれば問題ないが,事務用ロッカーなどを改造して使う場合は確認が必要だろう.
ガンロッカー類は原則的に壁に固定しなければならないが,賃貸住宅などでそれが困難な場合,人の手で運べないよう重りを入れるなどの措置を取らなければならない.また,長期出張の場合などは,銃砲店に銃の保管を一時的に委託することも可能だ.
銃を運搬する際,電車やバスなど公共交通機関を使う場合は,しっかりとしたケースに入れ,常に体から離さずに持ち歩く.自動車ならトランクに入れることになるが,例え施錠が可能でも,ガンロッカーの代わりとは認められない.したがって,帰宅後はすみやかに自宅のガンロッカーに入れなければならず,疲れているからといって例えひと晩でもそのまま放置しておけば銃刀法違反になってしまうので注意が必要だ.また逆に,猟に出発する前夜から自動車のトランクに入れておくのも違反となるため,充分気をつけたいところだ.

分解保管

銃は分解可能な構造になっており,手入れなどがやりやすい状態にまで分解することを「通常分解」という.ガンロッカーに保管する場合や運搬する際などは,通常分解もしくはその手前の状態にまで分解しておかなければならない.発射に必要な部品を取り外すことで,銃を使用不可能な状態にしておくためだ.
具体的には,上下二連式や水平二連式では先台,自動式なら先台キャップ,ボルト式ならボルトを取り外す.取り外した部品はガンロッカー以外の別の金庫などにしまっておけば,万が一,銃本体が盗難にあっても悪用を防ぐことができる.
運搬時も同様で,取り外した部品を銃ケースではなく別のバッグなどに入れておき,銃を奪われた場合に備えておくべきだ.構造上,まれに通常分解が困難な銃もあるが,その場合でも,開放した排莢口に鉄製のワイヤーを回して施錠するなど,可能な限りの悪用防止策をほどこしておきたい.
 

■ 過去の事故例とそこから学ぶべき安全な銃の運用法

誤射死亡事故

2013年11月24日.あの日のことを,筆者は今でも鮮明に覚えている.いつものように新聞をめくっていると,「山林で男性撃たれ死亡,猪と誤認」というタイトルが目に飛び込んで来た.本文を読んでみると,事故の現場はまさに筆者の地元,栃木県だった.それだけでも大いにショックなのだが,読み進めて行くうち,全身から血の気が引いて,一瞬,めまいがした.なぜなら,事故を起こした加害者は,筆者の良く知っている先輩ハンターだったからだ.
仮にAさんとしよう.彼は,関東北部のある里山へ,7人のグループでイノシシの巻き猟に来ていた.自分のいる位置から約20 mほど下,笹ヤブの中にイノシシが動く気配を感じたAさんは,山の斜面から撃ち下ろす形でライフル銃を発砲した.事故当時,笹ヤブは1m以上の高さで密集していたそうで,低く伏せて移動するイノシシの姿は見えなかったはずだ.筆者は事故の5年後に現場へ出向き,Aさんがいた場所に実際に立ってみたが,あの距離と位置関係であれば,人間でも膝をついてしまえば全く見えないだろう.
発砲後,笹ヤブの中で何かが倒れたような気配を感じ,急いで斜面を下りてみると,そこには79歳の男性が倒れていた.残念ながら,ほぼ即死状態だったという.信じ難いことだが,Aさんがイノシシだと思ったものは,笹ヤブの中にしゃがんでいた人間だったのである.
その日,被害男性は笹を取りに来ていたそうだが,現場を見るまで,どうしてイノシシ猟をするような山奥まで行ったのだろうかと,筆者はずっと不思議に思っていた.しかし,被害男性がいた地点は決して山奥ではなく,舗装道路と山林の境目をわずか数mほど入っただけの場所だった.現在,現場の笹ヤブはほぼ刈り取られており,付近の様子が鮮明に見えるが,被害男性のすぐ背後には舗装道路があり,なんと,道路を渡った先には大きな工場の倉庫があった.もしも運良く被害男性に当たらなかったとしても,撃ち下しの状態から銃が少し上に向いていれば,弾は道路を越え,工場に向かって飛んで行ったはずだ.つまり,どんな状況であれ,この場所で発砲すべきではなかった,ということになる.
それでもAさんは撃ってしまった.事故当時,彼は62歳だったが,おそらく猟歴もかなり長かったはずだ.多くの経験を積んだベテランでさえ,たった一瞬,判断を誤っただけで,間違いを起こしてしまうことがあるのだ.
この痛ましい事故から我々が学ぶべきは,銃を持って山に入る場合,事前に周囲の状況をよく調べ,発砲の有無を決めておくべきだった,ということだ.ここでは,この方向には,この状況では絶対に撃たない,ということを,自分自身にしっかりと言い聞かせておく必要があったのだ.特にこの現場の場合,撃ち下しの角度が少し違っただけで前述の通り弾は道路に飛び出してしまう.ライフル銃はおろか,空気銃でさえ撃ってはいけない状況だったのである.
また,何をおいても,獲物の姿が完全に見えない状況では絶対に撃ってはならない,ということだ.姿が見えなければ,動物か人間かの区別などつくはずがないし,仮に動物だったとしても,それが狩猟鳥獣である保証はまったくない.獲物を捕りたい,という猟欲と,きっと獲物であるはずだ,という一方的な思い込みが重なったとき,事故は起きてしまう.まずは獲物の姿をしっかりと確認し,バックストップの有無を見てから,引き金を引くべきなのである.
「安全狩猟」などと,口で言うだけなら簡単である.銃を手にする以上,狩猟事故というものをリアルに想像し,いつも肝に銘じておかなければ意味がない.もし自分が事故を起こした場合,被害者やその家族,そして自分と家族がどうなるか,ということをよく考える.弾を装填するたびに,そうした想像力を持ち続けなければならないのだ.

空撃ち

狩猟や射撃をやっていると,「暴発事故」という言葉をよく耳にする.その言葉からは,銃が勝手に弾を発射した,といったようなイメージを受ける.だが実際問題,引き金を引いてもいない銃から弾が発射される,ということはまず考えられない.
もちろん,弾が装填されている銃をコンクリートの地面に落としたりすれば,暴発することもあり得るかもしれない.しかし,人が手で銃を保持している状態での暴発事故とは,まったく意味合いが違うはずだ.ほとんどの場合,何らかの理由により,事故を起こした本人が自ら引き金を「引いている」のだ.撃つ気があろうとなかろうと,弾が入っている状態で引き金を引けば,銃は発砲してしまう.これは「暴発」などではなく,まぎれもない「誤射」なのである.
ではいったいどうすれば,誤射をふせぐことができるのだろうか.当然ながら,いちばん大切なのは脱包することだ.弾さえ入っていなければ銃にはなんの危険もないが,人間のやることに絶対はない,というのもまた事実だ.脱包したつもりでも,銃に弾が残ってしまう可能性も否定はできない.
ここで問題となるのが,「空撃ち」である.射撃を終了し,脱包も確認した上で,撃鉄ばねのヘタリを防止するために引き金を引くというハンターは少なくない.だが,もしこの時点で弾が入っていれば,大事故につながるのは確実である.専用の空撃ちケースを使うという方法もあるが,それにより,空撃ちするクセがついてしまうのは考えものだ.たまたま空撃ちケースが手元にない場合もあるし,撃鉄を起こしたままにしておきたくないという思いから,とりあえずそのまま空撃ちをする.しつこいようだが,ここで弾が入っていれば完全にアウトである.
そもそも,現代の銃に空撃ちはまったく必要ない.確かに,大昔の銃であれば,撃鉄を起こしたままにしておけばバネがヘタリ,肝心な時に撃てなくなってしまう可能性があったかもしれない.しかし,今は鋼材も焼き入れも格段に進歩しており,撃鉄のバネなど,仮に一生涯起こしておいたところで何の問題もないのだ.
もちろん,それでも銃の寿命を考え,可能な限り撃鉄を下ろしておくに越したことはない,という考え方も一部にはあるだろう.だがそれも,万が一の誤射事故の可能性と,天秤にかけて考えるべき問題ではないだろうか.極論すれば,例えバネが折れたところで,交換すればいいだけの話である.
事故につながる可能性を確実につぶす,という行為は,絶対に挑戦する価値がある.思い切って空撃ちの習慣をやめて,「標的や獲物に向けたとき以外,絶対に引き金を引かない」という習慣を身につければ,誤射事故は未然に防げるはずだ.

矢先の方向と引き金

銃口の向いている方向を「矢先」という.狩猟には弓矢の用語がいまだに残っているが,中でもハンターが常に忘れてはいけないのが矢先という言葉である.
ハンターたるもの,矢先を故意に人へ向けることはないだろう.だが,ふとした不注意によって,危険な方向に矢先が向いてしまうことは充分あり得る.常に矢先への注意を怠ってはならないが,万が一の場合でも,引き金に指が掛かっていなければ事故の可能性は激減する.
獲物を目視し,安全を確認したとき以外,引き金には絶対に指を触れてはならない.具体的には,利き手の人差し指を真っすぐにのばすか,銃柄(じゅうは)に回り込ませてしっかりと握る.引き金に指が不要に触れないよう,射撃場などで常に練習しておくことが重要だ.

安全装置

ひとくちに安全装置といっても,いくつかのタイプが存在する.上下二連式など,一般的な猟銃に多いのが,引き金の後ろを支え棒のようにロックする構造の物だ.シンプルで故障は少ないが,残念ながらこれは信頼性に欠ける.起きた撃鉄を支えるのは逆鉤(シアー)という部品なので,いくら引き金が固定されていても,強いショックなどでシアーが外れてしまえば暴発につながってしまうのだ.
逆鉤や撃鉄,さらには撃針をロックするという構造の安全装置もあるが,一部の自動式散弾銃やライフル銃にのみ装備されているというのが実情だ.安全装置を決して過信せず,撃つ時以外は必ず脱包し,不用意に引き金には指をかけず,常に矢先の方向へ気を配る.事故を起こさないためには,ひとつひとつ,原理原則にのっとった行動が重要なのである.

■ 銃砲店に行く

これから銃猟をはじめる者にとって,最初に行くべき場所は銃砲店だ.銃砲店は,申請に必要な書類を揃えてくれたり,いつどこに行って何をすれば良いか,所持許可申請に関するすべてのことを教えてくれる.
銃というのはお金があっても所持許可がなければ買えない物なので,銃砲店がお客さんに銃を売るためには,まず所持許可を取ってもらわねばならない.銃砲店にとって,所持許可申請のアドバイスも仕事の一環であり,たいていのお店では親切丁寧に対応してくれるはずだ.
具体的には,最初に受けなければならない猟銃等講習会のスケジュールや開催場所,教習射撃の申し込み,猟友会の窓口業務なども行っているところが多い.考査の出題傾向などの情報が集まっている場合もあり,模擬問題集も銃砲店で手に入る.所轄警察署の担当者がどんな人で,申請の際に何を言われたかなど,インターネットでは決して出てこない生の情報もあるはずだ.また,どんな銃があって,値段はいくらなのか,将来所持する銃を少しずつ選定しておく必要もある.
さらに,自分と同世代のハンターや,近い地域の先輩ハンターと出会えるのも銃砲店ならではだ.たいていの銃砲店にはちょっとした応接スペースのような場所があり,イスとテーブルが用意してあるものだ.常連客がお茶を飲みながら談笑していることも多く,近付き難い雰囲気があるかもしれないが,いちど打ち解けてしまえば様々な情報が入手出来る.特に初心者にとっては,自分のやりたい狩猟のスタイルを模索するいいチャンスとなるだろう.
ハンターにとって,銃砲店はベースキャンプのような存在であり,所持許可取得後,長い付き合いがはじまる.相性の合う銃砲店が見つかれば,充実した狩猟生活の一助となるはずだ.

■ 銃が使えない状況での獲物に対する止め刺し法

こん棒

銃猟禁止区域内で罠にかかった獲物を止める場合,こん棒やナイフ,電気止め刺し機などの道具を使う.こん棒は箱罠には使えないが,くくり罠の場合でも,獲物がよほど小さくなければ使うべきではない.イノシシの場合,くくり輪のかかりが浅ければ外れて突進してくるため,大ケガにつながる可能性が高い.また,シカであっても,言うまでもなくオスの角はとても危険であり,ワイヤーの可動範囲にはなるべく近付いてはいけない.こん棒と言っても,木の棒などでは打撃力が弱く,鉄パイプを使うことが多いが,小さな個体でも脳天を確実に叩かなければ倒れない.正確に狙いを定めて振り下ろす必要があり,足場の悪い猟場ではかなり難しいため,使用には細心の注意が必要だ.

ナイフ

箱罠にかかった獲物や,くくり罠でも保定具を使って獲物の動きを封じ込めれば,ナイフで止めることも出来る.箱罠の場合,鉄パイプなどを獲物の背後から箱罠の格子に挿していき,どんどん追いつめて端に寄せていく.背中の上,腹の下などから複数の鉄パイプを挿し,完全に身動きが出来ない状態になったら,脇の下から心臓の方向に長めのナイフを刺して止める.
くくり罠にかかった獲物に対しては保定具を使うが,激しく暴れる獲物を抑え込むには,かなりの経験と技術が必要となる.また,いずれの場合でもナイフを刺したら素早く引き抜く必要があり,刺したままの状態で獲物が動き,ナイフが弾かれると大変危険だ.ナイフでの止め刺しは血抜きも同時に出来るのがメリットだが,失敗した時の危険性が高いため,初心者は避けるべきだ.

電気止め刺し器

電気止め刺し器は,箱罠にもくくり罠にも使用可能で力もいらないことから,初心者からベテランまで,また女性にも使える便利な道具だ.箱罠の場合,罠の鉄部にアースを取って1本の電極で刺すタイプと,2本の電極を刺すタイプがある.2本タイプは両手に1本ずつ持たなければならないため,多少のコツが必要だが,アースを取る手間が省ける.
くくり罠用には,1本棒の先端に2本の電極が付いているタイプが便利で,槍のような感覚で使える.どのタイプも,小型のモバイルバッテリーとインバーターが連結されており,獲物に刺せば重量にもよるが数十秒ほどで絶命させることが可能だ.うまく感電させられれば,刺している間は完全に硬直するため,獲物が暴れることもなく,危険も少ない.刺さった電極を抜くと,獲物はドサリと崩れ落ちるので,すばやく心臓にナイフを刺し,放血を行う.


止め刺し道具の運搬

どんな止め刺し道具も,運搬には細心の注意を払う必要がある.銃と違い,それぞれの道具には許可がないため,所持自体には何の制限もない.しかし,刃長が6cmを超えるナイフは,正当な理由なく運搬すると銃刀法違反となり,刃長がそれ以下であっても,警察官の判断次第で軽犯罪法違反に問われる可能性が高い.また,鉄パイプや電気止め刺し機も同じく軽犯罪法違反となる可能性が高く,不要な運搬は避けるべきだ.
もちろん,狩猟期間中に有効な狩猟者登録証や有害鳥獣駆除従事者者などと狩猟者バッジを身につけ,罠の見回りに行く途中や帰路であれば全く問題ない.狩猟行為の途中であれば,止め刺し道具を運搬する正当な理由となるからだ.ただし,狩猟を終えたらすみやかに自宅内に持ち込み,自動車などに載せたままにしておくのは避けるようにしたい.

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