電気を使用した捕獲個体の処理

末松謙一 株式会社末松電子製作所 代表取締役社長

■ 電気止め刺し器とは

電気による止め刺しの背景

2019年現在,全国の鳥獣被害は依然として高い水準(図1)であり,全国の農業者の営農意欲の低減や,それに起因する離農などにより耕作放棄地の増加など,その影響は全国的に深刻な状況となった.農業を地場産業としている全国の各市町村においては,農業農村の基盤を強化するためにも,獣害対策は農村の重要な課題である.また,東日本大震災や福島第一原発事故により避難した多くのエリアでは,営農再開を進める際に獣害対策が必須ともなっている.農作物被害を軽減する為の被害防止技術は,近年の研究や各種公的予算を使用した防護柵の導入,民間企業による獣害対策資機材の開発,導入数の増加により,被害防止技術として進展し確立しつつある.一方でイノシシやシカをはじめとした加害獣は増加傾向にあり,被害防止対策を推し進めながら加害獣の個体数管理を行っていく事が重要となっている.

2013年(平成25年),農林水産省と環境省はイノシシとニホンジカについて,10年後の2023年度(平成35年度)までに個体数を半減させる目標を掲げた.具体的には本州以南のニホンジカ(2013年の生息数推定値は261万頭)を半減,イノシシ(2013年の生息数推定値は88万頭)を50万頭まで減少させることを目標とした.しかしながら,中山間地域や島嶼(とうしょ)など獣害が多発する地域では,人口減少による担い手の減少も深刻であり,今後の捕獲や獣害対策の担い手育成も求められている.そのため,地域主体で効果的な被害対策や加害獣の捕獲が実施可能な体制の構築と,公共政策として個体数管理や被害防除の支援が可能な自治体の体制を構築し,効果的な被害防止と加害獣の捕獲を進める必要がある.
加害獣の捕獲は,各都道府県により期間が定められた狩猟と,おおよその都道府県で通年捕獲が可能な(対象獣含め各都道府県による)有害捕獲によって進められている.いずれの捕獲においても,大きな担い手となっているのは猟友会である.しかしながら,猟友会においても少子高齢化の影響で狩猟免許保持者が年々減少し,高齢化も著しい(図2).

そこで,環境省及び各地方自治体は,新たな捕獲従事者の担い手増加のために,比較的容易に取得可能なわな猟免許の取得を推進し,新たな担い手を増やす取り組みを行っている(図3).現状では,捕獲従事者の担い手育成や,捕獲に必要な資機材(はこ罠,くくり罠)の導入,捕獲報奨金の支払いなどに各種予算が活用され捕獲の推進がなされている(図4).

捕獲作業そのものは各種取り組みにより進められているが,捕獲されたあとの加害獣の処理においては,捕獲従事者の多くがナイフや銃による殺処分を行っており,新たに箱罠免許を取得した経験の浅い作業者や各種自治体における担当者にとっては,これらの殺処分における作業が技術的,精神的な不安に加えて,作業時間や共同作業者の確保など捕獲推進を進める上でのボトルネックとなっている.新たに捕獲従事者として免許を取得した罠猟免許保持者が罠を仕掛けて対象獣が捕獲できた場合,それらの処分のために自治体担当者を通じて地域の猟友会に作業を依頼するケースも多いが,そもそも猟友会メンバーの高齢化や会員の減少により,捕獲数の急増に対して実際の処分作業が追いつかず,問題となっている.また,捕獲された場所や処分作業の時間によっては銃が使用できない場合もあり,ナイフ等での止め刺ししか選択肢が無いという場合も出てくる.
そこで近年,捕獲された加害獣に対し電気を使用した止め刺し作業が少しずつ広がってきている.電気による止め刺しにおいては,プラス極とマイナス極を直接または間接的に加害獣に当て,加害獣の体内に電気エネルギーを投入し,その作用によって止め刺し作業を行うものである.この方法は,銃やナイフと違い加害獣の流血もほとんど伴わず,比較的短時間で処理も終わることから,止め刺し作業を行う捕獲従事者にとって,肉体的,心理的負担を大幅に解消でき,捕獲作業の初心者でも比較的容易に作業を行うことができる.また,電気を使用するうえでの安全使用に配慮する必要はあるが,銃やナイフを使用する際の事故や捕獲獣から受ける事故などの可能性は低く抑えられることから,捕獲推進によって新規捕獲従事者が増える中,ボトルネックとなっている止め刺し作業において,重宝される止め刺し方法となりつつある.

電気止め刺し器の現状

2019年現在,電気止め刺し器においてはいくつかの製品が散見されるようになってきている.インターネットで検索すると,獣害対策関連メーカーや捕獲用具関連メーカーなどが開発/製造した電気止め刺し器や捕獲に関わる活動を行っている個人の方々が自作した電気止め刺し器,それらを使用した際の動画や電気止め刺し器の使用方法などの情報を得ることができる.販売されている製品は,1基数万円のものから10万円程度のものなど様々である.また,農作物被害が深刻で有害捕獲に積極的な各都道府県の農業試験場などの公的試験研究機関が電気止め刺し器の開発に携わったり,その使用方法や試験レポートを発表したりするなど官民問わず積極的な取り組みがなされていることから捕獲現場における需要度の高さが伺える.
電気止め刺し器は,大半がイノシシ,ニホンジカの捕獲後の処理に使用されている.しかしながら需要としては,サルや小型獣(アライグマ,ハクビシン,ヌートリア,タヌキなど)への使用も広がっている.サルが及ぼす農作物被害金額は,全国的に見ればイノシシやニホンジカに比べ少ないが,生息している地域が局所的であり,サルの生息数が増加した地域では,甚大な農作物被害が生じている.そのため,その地域の自治体が主体となってサルの適正な捕獲と処理を行い,個体数管理を行うが,捕獲されたサルを処理する段階は猟友会にとっても心理的負担が大きく,できればやりたくない作業であることが推察される.そのような場合においても電気による止め刺しは,作業の心理的負担を軽減でき,サルの捕獲後の処理においても需要が高まっている.
小型獣(アライグマ,ハクビシン,ヌートリア,タヌキなど)においては,主に小型の箱罠を仕掛けて捕獲活動が行われている.小型獣用の箱罠も様々なメーカーが販売を行っている.小型の箱罠で捕獲された小型獣の処分は麻酔や炭酸ガスを使用した処分が主流だが,電気による止め刺し方法も可能であり,処理方法の選択肢として増えることでよりその状況に適した処理方法が選べるようになってきている.
電気による止め刺し作業が可能な電気止め刺し器は,動物に電気を流して死に至らしめる道具である.動物の適用範囲は広く,小さな動物をはじめ80 kg近くある大きなイノシシなどにおいても効果がある.それは人に適用した場合でも同様である.各種加害獣を止め刺し可能な電気止め刺し器をもし人に使用すれば,同じように死に至らしめることができてしまう.よって,電気止め刺し器を使用する捕獲従事者または会社/各種団体においては,その使用方法や電気の知識,リスクの理解などの座学的な知識と,安全な使用及び管理が必要になってくる.
電気止め刺し器の使用が徐々に普及してきているが,2019年現在においては,機材そのものに対する明確な法律もなく,製品に対する性能基準を定めたものや規格なども無い状況である.またその使用についても銃のように厳格ではなく,捕獲免許があれば使用でき,使用方法や手順等も捕獲従事者である使用者に委ねられているのが現状である.現時点では,電気止め刺し器の使用における人的被害が発生した事故は無いが,今後電気止め刺し器が普及するにつれて電気によるケガや死亡事故が発生する可能性は否定できない.電気止め刺し器に対する製品基準の策定や事故を起こさないための明確な使用方法などの策定が待たれるところである.

電気止め刺し器の原理

電気止め刺し器の原理は電気の知識がある人にとっては至極単純なものである.現在販売されている電気止め刺し器のほとんどは出力として交流100 Vに近い電気出力を作り出し,対象獣に適用させて使用するものである.主に出力を作り出す電源部と対象獣に突き刺す支柱部で構成され,支柱部の先端部分は対象獣に挿入し通電させるための尖った針状金属物で構成される.対象獣に電気を流すためには,プラス極とマイナス極の2極とも対象獣に接触させる必要がある.
主に電気止め刺し器は2つのタイプに分かれる.一つ目は,2本の通電用支柱で構成され,先の尖った通電電極を2つ持ち,2本の支柱で対象獣に差し込む2本刺しタイプである.このタイプでは2本の通電電極間に通電するため,2本とも対象獣に刺し込み通電させて使用する.二つ目は通電支柱が1本のみで,もう片方の電極はワニ口クリップになっている1本刺しタイプである.このタイプでは箱罠などの通電可能な金属檻により捕獲された場合が想定されており,1本の電極は対象獣に刺し込み,もう一方のワニ口クリップは,箱罠の金属部分に接続して使用する.その際電気は,電極,対象獣,箱罠,ワニ口クリップと流れていく.箱罠で捕獲された対象獣は,箱罠の金属格子部分に接触しているため,箱罠そのものを電気の流れる経路に使用して通電させている.この場合,箱罠が金属製とはいえ塗装の状況やサビの状況,箱罠の構造によっては電気の流れが悪い場合があるため,通電に適した状態か否かを見極める必要がある.また,対象獣が箱罠に接触しているとはいえ,接触具合や乾燥の程度によっては電気の流れが悪い場合もあるため,注意が必要である.
電源部については,多くの電気止め刺し器において多少の差はあるものの,バッテリーとインバーターで構成されている.バッテリー部は,鉛蓄電池やカード型のリチウムイオンバッテリーなどがあり,直流の充放電が可能なタイプである.使用される電圧は様々ではあるが,12 Vのものが多く,市販品でもありふれているものが採用されている.インバーターとは直流電力を交流電力に変換する装置の事であり,バッテリーから出力される直流電力を交流電力に変換して出力して通電支柱に流す.インバーターに入力される直流電力の電圧値には許容範囲があり,バッテリーの出力電圧値がその範囲内である必要がある.インバーターには,定格の最大出力電力値(W)が決められており,その値を超えて出力されると熱などにより故障する可能性があるため,ヒューズ等で故障を防ぐ仕組みが備わっている事が望ましい.インバーターの出力電圧は,交流100 Vのものが一般的で,そもそもインバーターはその用途として,バッテリーと組み合わせることで屋外でも家庭用交流100 Vを使用するために販売されているものである.従って対象獣に流す電気は,家庭用交流100 Vの電気とほぼ同等なものなのである.

電気の特性

電気には大きく分けて直流と交流がある.直流は電極から電極へ流れる電気の方向,電圧値,電流値が時間によって変化せず一定である.交流は時間とともに周期的に流れる向きが変化し,その電圧値は時間とともに周期的に大きさとその正負が変化する(図5).交流の代表的な波形は正弦波であり,日本における家庭用の交流100 Vが代表的なものである.普段の家庭生活に必要な交流100 Vでは周期的に流れる向きが変化するが,日本においては60 Hz(西日本),50 Hz(東日本)と決められている.交流電源のこれらの周期,電圧値などはその国によって様々であり,周期ではおおよそ50〜60 Hz,電圧値でおおよそ100 V〜240 Vである.

直流電源の代表的なものは乾電池やバッテリーである.これらは必ずプラス極とマイナス極が存在し,電極間に接続した通電物(負荷)に対してプラス極からマイナス極方向へと電気が流れる.この時,負荷に対する電圧値(プラス極とマイナス極間の電位差)をV(V: ボルト),負荷に流れる電流値をI(A: アンペア)としてV=R×Iと示すことができ,これは2極間の電位差Vは流れる電流Iに比例することを意味する.この時の比例係数Rは負荷の材質,形状,温度などによって定まり,電気抵抗(electric resistance)あるいは単に抵抗(resistance)と呼ばれる.よって同じ負荷に対して接続する電源電圧を大きくすると,その値に比例して電流値も増える.これは最も基本的なオームの法則である.また,負荷に対して1Vの電圧をかけた時に1A流れた時の抵抗値Rを1Ωと定められている.
抵抗値Rは電気を流す物体の素材などによって決まっている.例えば鉄や銅,アルミニウムといったよく使用される金属では,1 mあたり室温の環境で概算では,鉄:100 nΩ,銅:10.7 nΩ,アルミニウム:28.2 nΩとなっている(nはナノ: 10のマイナス9乗).抵抗値の単位であるΩ(オーム)は電気の流れにくさを表しており,値が大きければ電気を流しにくく,小さいほど電気をよく流すものといえる.仮に同じ電圧を同じ径の鉄線,銅線,アルミニウム線に印加した場合,その線に流れる電流の大きさは,銅>アルミニウム>鉄となり,抵抗値の値から銅は鉄の約10倍近くの大きな電流が流れる(印加とは,電気回路に電源や別の回路から電圧や信号を与える事).各種送電線等に銅線が使用されている理由の1つとして,電気抵抗が小さく送電ロスが他の素材に比べて少ないことがある.
電力W(ワット)は,単位時間に電流がする仕事(量)を表し,電圧Vの電源から電流Iが流れているとき電力Wは,W=V×Iで表される.身の回りの家庭用電気器具などにおいてその製品がどの程度電力を消費するのかという表示で,最大消費電力○○ Wといった表示がなされている.例えば,100 Wの電球と60 Wの電球では,値の大きい100 Wのほうがたくさんの電流を要し消費電力が大きく,その分60 Wに比べて明るく光るのが一般的である.
電力量J(ジュール)は,電力を時間で積分したものである.国際単位系ではJ(ジュール)が用いられるが,電力の単位としてW(ワット)が用いられるため,電力量の単位としてのジュールはワット秒(Ws)と呼ばれることが多い.1 Jと1 Wsは等価である.例えば,直流で電流Iが時間tにした仕事(電力量)をW,電圧をV,電力をPとすれば,W=P×t=V×I×t(Ws)となる.実生活の中では,ワット時(Wh)やキロワット時(kWh)が用いられ,電気料金の計算の際の単位として用いられている.
電気による止め刺しは,この電気エネルギーを対象獣に投入して処理を行うものである.電気による止め刺しの効果には,どのくらいの電流を流し,どのくらいの電力を消費し,どのくらいの時間連続通電が可能かなどの電気機器的特性と,対象獣の電気の流れやすさなどが関係してくる.また,対象獣の体重,大きさ,電極を差し込む深さ,箱罠のサビや塗装,現場の湿度,地面の乾燥状況などによって対象獣の電気の流れにくさR(抵抗値)が大きくなったり,小さくなったりと現場環境によって様々であるため,電気止め刺し器にて十分な効果を求めるには電気が流れやすい環境か否かを見極める能力も重要になってくる.
加害獣による農作物被害を減らす取り組みとして,増えすぎた加害獣を個体数管理するために捕獲活動が行われており,その加害獣を効率的に止め刺しするための方法として電気が用いられている.獣害対策の分野で電気を応用した資機材としては電気柵が挙げられる.電気止め刺し器と同様に電気出力を応用して加害獣の田畑への侵入を防ぐ装置である.同じように電気出力を応用しているが,その特性は全く別物である.
電気止め刺し器の出力では交流100 Vに近いものを使用していることに対し,電気柵の出力は,一般に「パルス」と呼ばれる形の出力波形である.電気柵の出力はおおよそ3000分の1秒(機種や製造メーカーによって異なる)という短い時間で通電し,これを1秒おきに繰り返すような出力波形である(図6).よって3000分の2999秒は,何も電気出力していない.また,その出力特性は電圧値で1万 Vほどと非常に高電圧である.電気的な出力エネルギーは,その瞬間値は大きいが,電力量(Ws)で比較すると出力時間tが非常に小さいため,電気止め刺し器のものと比較しても非常に小さな消費電力量である.それ故に,電気柵の出力は1万 Vという高電圧にも関わらず,触れても一瞬の電撃を痛みとして感じるが動物を死に至らしめることは無く,ひとが触れても安全な電気である.一方で,電気止め刺し器の出力は交流100 Vに近い波形で電圧値は100 Vという値だが,とめどなく連続した電気が流れ続けるため出力時間tも大きく,電力量(Ws)は大きなものとなり,動物を死に至らしめる事ができる.

■ 電気止め刺し器の使用方法

電気止め刺し器は箱罠やくくり罠で捕獲された加害獣を電気エネルギーで死に至らしめる道具であるが,使用方法を間違うと事故につながる可能性もあり,正しい使い方を行う必要がある.

道具の準備

現場に行く前に必要な準備品が揃っているか,機材は正常に動作するか,バッテリー残量は十分か,通電電極にサビや変形は無いかなどを確認する.
準備品としては,ゴム手袋,ゴム長靴,補定用具(ロープやワイヤーなど),水(必要に応じて),放血用ナイフ(必要に応じて),カメラ(必要に応じて)など,様々な状況を想定した準備が必要となる.

作業前の準備と確認

現場に着いたら作業を行う前に,準備と確認を行う.
・天気は降雨や降雪状態でないか,作業者の体が濡れていないかを確認する.降雨中の作業は非常に危険である.
・長袖長ズボンは着用しているか,ゴム手袋ゴム長靴は着用しているか,万が一を想定し,装備を確認する.
・加害獣の保定状況を確認する.箱罠やくくり罠等で捕獲されている加害獣が,ロープやワイヤー等の保定具によって,きちんと保定(動けない状態)されているかの確認を行う.
・作業スペースの確認,作業を行うに際して邪魔になるものは無いか確認を行う.
・電気止め刺し器の組立及び動作確認,機器が正常に動作するかの最終確認を行う.

止め刺し作業

電気止め刺し器を使用して実際に止め刺し作業を行う.1極式及び2極式双方において,両手を使って通電支柱をしっかりと持ち,加害獣に向けて電極針をしっかりと刺し込む.差し込むと同時に通電を開始し,通電状態の加害獣をしっかりと見極める.電極針の差し込み位置には対象獣によって諸説あるが,神経の集まった首筋や足の付け根などを狙うと効果が高い.有効な通電ができている場合は,全身が硬直したようにピンと伸び,鳴き声も発声しない.電極針の差し込みが浅かったり,通電状況が悪く有効な通電ができていなかったりする場合は,動いたり悲鳴をあげたりする.この場合は一度電極針を抜き,通電状況を良くして再度差し込む.通電時間は機材の性能,通電状況,獣種,個体の大きさなどに大きく左右されるが,おおよそ10〜20秒程度の通電で気絶状態に陥ることが多い.正確には個々の対象獣の表情を見極めて判断する必要がある.
捕獲した加害獣をジビエ利用する場合は,気絶状態で通電を止め,血抜きの処理をすることが望ましい.通電を続けると心臓が止まってうまく血抜きができないこともある.また,対象獣の体内においては,通電した箇所周辺の肉が通電による発熱でジビエ利用に適さない状態になることもある.ジビエ利用をする際は,気絶状態か否かを見極める技術が必要となる.
加害獣を埋設等の処分をする場合には,もう少し長い時間通電したり,数回に分けて確実に止め刺したりときちんと死亡状態を確認したうえで運搬処理をすることが望ましい.気絶状態では復活することもあるためである.

■ 電気止め刺し器の安全な使用

電気止め刺し器は捕獲された対象獣を止め刺す場合において便利な機材ではあるが,ひとが感電してしまうと非常に危険なため,安全に注意した使用が最も大事である.安全に使用するためのポイントは次のとおりである.

天候

電気止め刺し器を使用する際は雨中での作業は厳禁である.一般的に水は電気をよく通す.電気の流れは目に見えないため,どのような経路で作業者が感電するか想像ができない.雨が降っている状態は身の回りのいたるところに電気を通しやすい導電体が浮遊しているようなものである.電気止め刺し器の支柱部においては,電極部分は金属等の通電素材,支柱部分はプラスチックやFRP等の電気を通しにくい絶縁体で構成されているものがほとんどである.しかし,それらの表面が水に濡れてしまえば,電極から伝って表面の水にも電気が流れる可能性がある.箱罠で捕獲された加害獣に電気止め刺し器を使用する場合は,箱罠の金属部分にも電気を流すことになるが,雨が降り,水たまりなどができれば,電気的に箱罠と水たまりは繋がってしまう.ゴム長靴を履いているとはいえ,そのような水たまりに足を突っ込んで作業することは非常に危険なことである.また機材そのものも防水でないことがほとんどのため,電気止め刺し器を使用する際は,雨の中での作業は厳禁である.
反対に,晴れが続き乾燥した状態での止め刺し作業では,電気の流れが悪いことがある.2極式で加害獣の体内に直接電気を流す場合は問題ないが,箱罠等で1極式を使用する場合は注意が必要である.1極式による通電では,体内に挿入された電極から加害獣の体内に電気が流れ,箱罠との接触点から箱罠に流れていく.接触点の電気の通りは,乾燥状態に比べて多少濡れている方が電気の通りが良いため,あまりにも乾燥している場合は少量の水を加害獣にかけて作業を行うこともある.電気止め刺し器を使用する場合は,現場が湿っているのか,乾燥しているのかといった湿度に関しても注意が必要である.

服装

電気は目に見えないため,どのような経路をたどってひとの体に流れるかわからない.作業を行う際には電気を流しにくいゴム手袋とゴム長靴着用が必須である.万が一機材の故障等が生じた際にも,手に持った機材からの感電を防ぐことができる.箱罠で使用する際は,箱罠そのものを電気経路として使用するが,箱罠は地面に通じているため何かの拍子に足元から感電する可能性もある.ゴム長靴着用した状態であれば足元からの感電を防ぐことができる.また,極力肌を露出しないように,長袖,長ズボンの作業着着用も大事である.肌に直接電極が触れてしまうことを防ぎ,万が一の感電においても露出した状態に比べて被害を和らげる効果もある.加えて野生動物が行き来する場所のため,ダニなどに刺されることによる感染症を防ぐ効果も大きい.電気止め刺し作業を行う場合の服装は,作業者が感電することを防止するという観点の装備が必要である.

保定

電気止め刺し器を使用する前準備として,捕獲された加害獣がきちんと保定されていること(加害獣が身動きの取れない状態である事)を確認することが大事である.自由に動ける状態の加害獣に対して電気止め刺し器を使用することは危険極まりない.捕獲された加害獣は興奮状態にある場合も多い.その突進を受けるとひとたまりもなく,ケガだけでは済まないことも充分ありうる.さらに動く加害獣めがけて電気止め刺し器の支柱部を差し込む作業は難しく,うまく刺さらないこともあり,仮にうまく差し込むことができたとしても,同時に電気を流さないと動きを止めることはできない.従って,保定が充分ではない状態の作業はケガのリスクもさることながら,機材の破損,電気止め刺し器の電極部分に作業者自身が触れてしまう可能性も考えられ,非常に危険である.くくり罠にて捕獲された加害獣は,ワイヤーの長さを半径とした円状のスペースを自由に動き回ることが可能である.そのような場合は,止め刺し作業の前にまずは保定作業が必須である.保定には,ロープやワイヤー,鼻くくりなど,市販されている専用資材もあり,止め刺し作業の際は機材と一緒に保定用具は必ず持参すべきである.

作業環境の確認

電気止め刺し器を使用する際は,加害獣に一定の距離まで近づき支柱部を差し込む必要があるが,現場はくくり罠や箱罠を設置した場所になることから,必ずしも平坦で作業に適した環境とは限らない.むしろ,斜面であったり,藪や竹林だったり,木や草の生い茂った場所で作業を行わなければならない.電気止め刺し器の支柱部は通常1〜1.5 m程度のものが多いため,それらを振り回しながら問題なく作業を行うには,一定の作業スペースの確保が必要である.作業の邪魔になる藪や草が生い茂った状態で無理に作業をすると事故につながる可能性が高い.従って作業前にそれらの環境整備をきちんと行う事が大事である.また,斜面での作業は特に注意が必要である.通電支柱を手に持った状態で,足を滑らせたり,転倒したりすると非常に危険である.斜面での作業においては十分な足場を確保して作業に当たる必要がある.

機材要件

電気止め刺し器そのものに対する要件も安全に使用するためには重要である.電気止め刺し器の基本的な構成はバッテリーとインバーターであるが,単純に接続しただけでは危険な道具となる可能性が高い.
-通電のON/OFFスイッチ機能-
電気止め刺し器を操作する場合,1極式/2極式に関わらず,支柱部を両手で持ち加害獣への刺し込み作業を行う.通電を開始するスイッチは,支柱部の取手部分にあることが大事である.そうすることで,作業者のタイミングで通電を開始することができる.もし支柱部にそのようなスイッチが無く電源部にスイッチがある場合,通電ONの状態で支柱部を振り回して止め刺し作業を行うことになる.通電状態の支柱部を振り回す行為は非常に危険で,対象外の物体に電極が触れただけで電気が流れてしまう.さらには,通電を切りたい場合も支柱部から一度手を離し,電源部のスイッチを操作することになるため,万が一,人が触れてしまった場合にすぐに通電をOFFにすることができない.ひとが触れてしまった場合,これは致命的で,通電時間が長ければ長いほど命を落とす可能性は高くなる.従って作業者自身が手元でスイッチを操作できることは非常に重要なことである.

-通電状態であることを知らせるブザー音やランプ機能-

電気の流れは目には見えないため,今電気が流れているのか,流れていないのかを音や光などで知らせる機能が必要である.捕獲された加害獣の止め刺し作業は多くの場合,ふたり以上の作業者で行われるが,ひとりの作業者が電気止め刺し器を操作して作業する場合,もう一方の作業者には通電状態なのか否かを知る由は無い.そのため,通電状態にある場合は同時にブザー音が鳴る,又は通電ランプが光るなど,通電状態に連動したお知らせ機能が必要である.作業者自身も今の操作で電気が流れているかどうかの確認ができる.見えない電気の状態を「見える化」することは非常に大事である.

-絶縁体による支柱部構成-

電気止め刺し器の支柱部では,塩ビパイプやFRP製のパイプなどが一般的には使用されている.止め刺し作業を行う際に,うまく刺さらなかったり,対象獣が興奮して暴れたりすると,保定をした状態でも稀に支柱が破損することがある.だからといって強度のある鉄パイプなどを支柱部に採用するのは非常に危険である.電気を通しやすい金属物で構成すると,支柱部先端の電極針と支柱部が電気的につながってしまう可能性が高い.そうなると,支柱部全体が電極と同じになり,その支柱部を振り回して作業を行うことで事故につながる可能性が高い.支柱部分は操作する取っ手部分も含めて絶縁素材で構成することが大事である.

-ショート防止機能-

電気止め刺し器の多くは家庭用交流100 Vと同じ程度の電気出力を行っている.対象獣の電気抵抗値が大きければ,流れる電流値は小さく,効きが悪い状態になる.逆に電気抵抗値が小さい場合,流れる電流値はそれなりに大きくなり,効果が確認できる.仮に,電気抵抗値が限りなく0に近い小さな値の場合はとてつもなく大きな電流値となる.例えば鉄や銅などの抵抗値の低い金属物である.このような通電電極同士が鉄や銅でつながってしまった状態を「ショート状態」といい,その状態では大きな電流が流れる.機器の容量あるいは性能があるので,無限に大きな電流が流れるわけではない.しかし,ショート状態があまりにも続いてしまうと,電流の熱で機器が故障したり配線が焼き切れたりするまでは継続的に想定以上の大きな電流が流れ続けてしまう.ショート防止機能とは,このような状態を検知して通電をOFFにする機能である.このような機能としてよく用いられるのはヒューズである.電気止め刺し器を箱罠で使用する際には,通電電極部分が箱罠に触れると,異常な大電流が流れるためそれらを検知して止まる機能があることが望ましい.2極式の場合は,2本の電極同士が直接接触するとショート状態になり,大電流が流れて機材の破損に繋がってしまう.それらを防止するためにもショート防止機能があることが望ましい.

-バッテリー残量表示機能―

止め刺し作業は捕獲の現場で行われるため山際や山林の中で行うことが多いが,いざ止め刺し作業を行う際にバッテリー切れでは役に立たず,その場合は準備をやり直して臨むことになる.従って,使用する機材のバッテリー残量がどの程度なのかを確認できる機能は実務上必要である.また,バッテリーが満充電に対して現在何パーセントの残量なのか,満充電状態で使用可能時間はどの程度なのか,というようなバッテリー残量や持続可能時間の情報が必要である.

■ 電気止め刺し器の利点と弱点

電気止め刺し器の利点

これまでは捕獲された加害獣を止め刺す場合には猟銃やナイフ/槍などの刃物が使用されてきた.そんな止め刺し作業において,電気による止め刺しはハードルが低く,比較的簡単に操作が可能である.銃やナイフを使用する場合,使用するための技術習得に時間がかかること,銃の所持に関しては年々規制が厳しくなっていることもあり,初心者が使用する場合は非常にハードルが高い.罠免許を取得したばかりの新人狩猟者が箱罠を使用して加害獣を捕獲した場合は,まだ銃の所持もできないため,ナイフ等で止め刺しをする以外に方法が無い.ナイフでの止め刺しにも経験が必要で,きちんと止め刺すには肉体的,精神的負担が大きい.電気による止め刺しは加害獣の流血もほとんどなく,精神的な負担も軽減される.初心者においても電気止め刺し器は使用しやすく,且つ短時間で作業が終わるため効率化にもつながる.これまでの止め刺し方法と比較して,電気止め刺し器を使用した場合の利点は,心理的/肉体的負担の軽減と作業時間の短縮である.

電気止め刺し器の弱点

電気止め刺し器は電気を使用して加害獣を死に至らしめる道具であるため,もし,ひとに対して使用した場合も同様に命を落としてしまう.使用する際にはそのリスクを十分に理解して,安全に使用する必要がある.また,水は電気を良く通すため,雨の中での使用は厳禁である.よって,電気止め刺し器による方法はあくまで一つの選択肢と捉え,その他の止め刺し方法も習熟しておくことが望ましい.電気止め刺し器の利点や弱点を理解し,現場の状況に応じた適切な止め刺し方法を選択できるようになることが理想である.

<製品紹介>

【電気止め刺し器各種】

【電気柵各種】


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