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サン=サーンスとドビュッシー



【サン=サーンスとフォーレ】

フランス国民音楽協会という組織が1871年に設立され、約20年間、第一期の活発な活動を見せた。サン=サーンス、フォーレ、ドビュッシー、ラヴェルといったフランスの偉大な作曲家たちが加入した組織で、フランスの後期ロマン派あるいはロマン派末期の時代を飾った人々が、そこにいた。

カミーユ・サン=サーンス(1835-1921)は非常に天才的な人で、早くから音楽のみならず詩人としても際立っており、多方面における優れた才能を示し、周囲の人々を驚かせていた。

多くの作品を残したが、よく知られている組曲「動物の謝肉祭」の全14曲中の第13曲のチェロ独奏曲「白鳥」は、しばしば演奏されるところでり、『瀕死の白鳥』というその悲しくも美しい姿をチェロの響きで表現している名曲中の名曲であろう。

また、三幕物の歌劇「サムソンとデリラ」からの第三幕中のバレー音楽「バッカナール」は、木管、金管の両楽器が華麗に鳴り響く颯爽たる曲調で心地よい響きを持っている。

サン=サーンスは母親への愛着が強く、そのためか妻との関係がもう一歩うまくいかなかったと言われている。生まれた子供も二人亡くし、深い悲しみを味わっている。母親がなくなってからは、気持ちを紛らせるためか、諸外国へ旅をし、色々な国の音に出会って自らの音楽を深めていった。

サン=サーンスと親交のあったガブリエル・フォーレ(1845-1924)は、「レクイエム」を作曲し、モーツァルトやヴェルディのものと合わせて、三大レクイエムの称賛を得ている。

フォーレ自身が語っているように、この曲は死者のためのミサ曲(鎮魂歌)というよりも、死者の霊が神のもとへ旅立ち、そこで永遠の安らぎを得るという、言わば、頌栄歌の意味合いのほうが強く、従って、悲しい響き、涙を流して死者の魂を鎮めるという曲調がそれほど感じられない。

モーツアルトのものとは異なる音調を奏でているのだ。サン=サーンスは家庭で面白くないことがあると、フォーレの家に逃げ込んでそこをまるで我が家のようにして過ごすことがあったという伝聞があるが、それほど、二人は気心の知れた仲だったということだろう。面白いエピソードである。
 
【ドビュッシーとラヴェル】

フランスの印象派音楽というジャンルで語られることの多いクロード・ドビュッシー(1862-1918)は、『ベルガマスク組曲』の中にあるピアノ曲「月の光」などで知られるように、確かにその音楽性は印象派の絵画に近いものがあると言えるかもしれない。

ドビュッシーのピアノ曲の中に「アラベスク」があるが、初期作品群の中でも、美しい響きを奏でており、この曲のファンも多い。

ドビュッシーは決して恵まれた環境で育ったわけではないが、多くの僥倖に助けられ、フランス音楽界を代表する大家に成長していく。気難しい性格のためか、家庭生活ではトラブル続きで、女性関係も複雑なところがあった。

それでも海の情景を表した標題音楽の管弦楽曲「海」(交響詩)などは当初、賛否が分かれたものの、20世紀音楽の金字塔となった。フランスの紙幣に彼の画像が印刷されているのを見ても、フランス人のみならず、世界中の人々がドビュッシー音楽に魅せられているのが分かる。

モーリス・ラヴェル(1875-1937)という作曲家が、「ボレロ」という曲をバレー音楽として世に出したのは1928年のことだった。

ほとんど誰でもが、耳にしたことのある「しつこい」繰り返しの続く曲であるが、世界中の人気をさらった超人気曲である。

催眠術か何かにかけられてしまうような催眠的反復がこの「ボレロ」の一大特徴である。因みに、ラヴェルは生涯を独身で通し、心から敬愛するバスク人(スペイン)の母親が死んだ後は、非常に精神的な動揺を来たし、不安定な状況の中で暮らした。

そうした中で奇跡的名曲として晩年、発表したのが「ボレロ」であった。後半部に至るほど大音量で迫る「ボレロ」はスペイン的熱情なのであろうか。
 
【愛の挨拶】

イギリスのエドワード・エルガー(1857-1934)は「威風堂々」の名曲で知られているが、見落とせないのは、婚約者に書いた「愛の挨拶」である。

自身カトリック信者であったエルガーが宗派を超えて、プロテスタントのアリスと結婚に踏み切ることは容易なことではなかった。しかし、この曲の所為(せい)か、非常な効果を生んだのかどうか知らないが、とにかく二人は無事に結ばれた。優美な曲想であり、アリスは間違いなくうっとりとしたことでだろう。

19世紀末から20世紀へと、大きく時代が変わる転換期の中の、後期ロマン派の作曲家たちの姿が、個人的にも社会的にも試練の多いものであったことは頷(うなず)けるが、変わらないのは、男女の間の愛である。そのように、エルガーは「愛の挨拶」の中で強調しているようだ。

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