【対談】塚本奈緒美×相馬日奈『セプテンバー』で母娘を演じた二人が語る「娘の気遣いの物語」|#39『ピース・ピース』
2024年1月27日(土)〜2月3日(土)に上演される弦巻楽団#39『ピース・ピース』。札幌劇場祭TGR2022で大賞&俳優賞をダブル受賞した本作を、早くも札幌演劇シーズンで再演します。
2022年の初演は、翌年に上演が決まっていた新作公演『セプテンバー』執筆のための"実験的公演"として創作されました。
3篇の「母と娘の物語」によって構成される『ピース・ピース』ですが、『セプテンバー』は4篇目の「母と娘の物語」とも言える作品です。
『ピース・ピース』初演で描かれた断片が、どのようにして『セプテンバー』とつながっていったのか。
この度、『セプテンバー』で母を演じた塚本奈緒美さんと、娘を演じた楽団員の相馬日奈に、『ピース・ピース』との共通点や相違点についてお話しいただきました。
『セプテンバー』をご覧になった方はぜひ作品を思い出しながらご読みください。
(聞き手=佐久間泉真)
塚本奈緒美
俳優。声優。ナレーター。『セプテンバー』では、主人公・明日香の母、あかりを演じた。
相馬日奈
俳優。弦巻楽団劇団員。『セプテンバー』では、主人公・明日香を演じた。
しなやかで、軽やかな『ピース・ピース』
—— 『ピース・ピース』初演(2022年)は、翌年の新作『セプテンバー』(2023年)の執筆にあたっての"実験的公演"として上演されました。お二人は『ピース・ピース』初演(2022年11月)は観ましたか?
塚本奈緒美(以下、塚本) 観ました。面白かったです。私がこれまで観てきた弦巻楽団の作品の中では、初めてのタイプの作品でした。自分も出演したい!って思いました。
三人の俳優が母と娘をかわるがわる演じる演出が、演劇作品として面白い試みだと思ったし、空気感が素敵だなと、好みだなと思って、自分もやってみたいな!って。
お話はわりと淡々と進んでいくんだけど、しなやかさがあるというか…。
相馬日奈(以下、相馬) 「しなやかさ」っていうの分かります。
当時私は別の団体の公演に出演していたので、本番を観たとき、あまりに素晴らしい作品で、それに関われなかったことが悔しかったです。母と娘のやり取りが、本当にそこで生まれているように感じました。
他の弦巻楽団の作品と比較すると、なおみんさんも出ていた『オンリー・ユー』(2021年11月)にも同じものを感じました。その場でリアルに生まれている掛け合いが、同じ役者として悔しかった。
相馬 クラシックな雰囲気のある作品ですよね。多分「母と娘」というテーマがそうさせてるんだろうなって私は思っていて。
「こんなお母さんいたら嫌だな」って思う母も出てきたし、「こんなお母さんいたらいいな」って思う母もいたけど、でも、全体的に、どんなにグロい感情がそこに渦巻いてたとしても上品に保たれていて。
それは多分、弦巻さんの「母」に対する想いがそうさせてるのかな。
塚本 うんうん。なんかこう、ふわっと立ち上がって、全体を掴む前にまた煙みたいに消えていくような作品で、軽やかで、観ていて気持ちよかったな。
—— その後、2023年9月に『セプテンバー』で共演することになった二人。塚本さんは母(=あかり)、相馬さんは娘(=明日香)の役でした。
相馬 なおみんさんの娘役をやるのは感慨深かった! なおみんさんと初めて会ったのは2016年の『果実』でした。私、めっちゃ覚えてるんですけど、もう可愛すぎて吸い込まれそうになったんですよ。
そんな、私の中でヒロイン的な存在が、キラキラ輝いている人が自分のお母さんになるということに、ワクワクと緊張がありました。
塚本 私は、「ついに私も母役か〜」という感慨深さは実は特になく(笑)
「母を演じよう」というより、こういう背景を持ったこういう考えの人間をやる、という感じですね。
脚本上は、結構過激な行動をしたり(学校に乗り込んできたり)するので、本当にこんなお母さんいるのかな、くらいに思ったんだけど、ご覧になったお客さんからは、「ああいうお母さんいるよね」とか「自分のお母さんのことを思った」とか言っていただけて嬉しかったです。
—— 母(あかり)の人物像については、物語後半に登場するモノローグが印象的でした。『ピース・ピース』を彷彿とさせる語り口ですね。
相馬 あのモノローグを聞いて、私は、あかりは謙遜しすぎだなって思いました。あかりも過去演劇部に所属していて、演劇に対する情熱はあったはず。でもあかりには「母」の存在が大きくて、その言葉が呪縛になって「自分は打ち込むことができない」って思い込むようになってしまう。
その呪縛が、明日香への愛情につながったんだと思います。明日香になら打ち込める、情熱を捧げられる。そうして、どんどん娘をコントロールするようになってしまった。
塚本 そうですね。いま思えば、『セプテンバー』はその人のモノローグによってその人自身の人生が語られていくけれど、『ピース・ピース』では、母を語るのは娘なんですね。
『ピース・ピース』の母は、自分で自分のことを語らない。
相馬 ほんとだ、逆だ。
—— 母と娘の関係性について、稽古中はどんな話をしましたか。
相馬 あかりは、母と娘というよりは、友達みたいな関係になろうとしていたんじゃないか、とか話しました。
お母さんが緊迫して迫ってきても、明日香は「対お母さん」として返事をするんじゃなくて、あえて「友達」として接した方が、お母さんのためになる。それが、お母さんを喜ばせるというか、気遣いというか。
塚本 それは弦巻さんからも逐一言われていました。あかりは「友達親子」になりたい。母親というよりは、友達でいたい。
—— 「娘と友達のような関係でいたい」という母の思いに娘は気づいていて、気遣いとして「そう接してあげている」。ここは『セプテンバー』と『ピース・ピース』の両作品の、母娘の関係の共通点かもしれないですね。
塚本 そういう、母に対する娘の思いってさ、結構あると思う。今回、札幌演劇シーズンの参加団体がお互いの脚本を読む企画があったでしょ。OrgofAの飛世ちゃんが『ピース・ピース』の脚本を読んだ感想にも同じような話があって。
塚本 私すごいわかるんです、その気持ち。私も、母がお花好きなので、幼稚園の時の夢がお花屋だったんです。
もちろん私もお花は好きだったんですけれど、たしか将来の夢を聞かれた時に「なおちゃんお花好きだから、花屋さんがいいっしょ」みたいな感じで言われたような気がするんです。
それで将来の夢をお花屋さんってしたのは、母の望む私でいれば母も嬉しいだろうなと思ってたところはありました。
実際は母もただ軽い気持ちで言っただけで、私の夢は何でも良かったと思うけど。
思い返すと、母だけじゃなく父に対してもそういう部分はあります。私の家族は私と父だけがB型なんだけど、それを父が嬉しそうにしていて。B型同盟、みたいな。だから他のみんなが父に文句とか言ってる時も、私は味方でいるぞ! と使命感を感じたり。
相馬 なおみんさんは、ご家族の仲が良いですよね。私の家族はそんなに仲良くないんですけど、そういう部分は共通することが多いです。
私の母は猫が嫌いで、だから私も母を喜ばせたくて「私も猫嫌い」って言っていました。
私は成人してからも自分は猫嫌いなんだって思い込んでいて、動物番組を見たこともなかったんです。最近になって私は動物が好きなんだってようやく気づいた。
相馬 『ピース・ピース』には3組の母娘が出てきます。それぞれ違う親子です。でも、なおみんさんのエピソードにつながる部分もあれば、私の母とのエピソードにつながるところもあるのが面白い。
これから作品を観る方も、どんな親子の形であれ、どこかに通じるものがあるんじゃないかなと思います!
弦巻楽団#39『ピース・ピース』
舞台には3人の女優。かわるがわるそれぞれが「母」について語り、少し奇妙な、しかしありふれた母と娘の姿が描かれる。
彼女たちの口から語られる「母」の姿は、『冷たい女』、『弱い女』、そして——。
「母」について語り、同時に「母」を演じる3人の女優。
母として、時に娘としてそこに現れる彼女たちの姿から、母から娘へ引き継がれる祈り、願い、あるいは呪縛を描きます。モノローグのような、ダイアローグのような、そこにあるのは不思議な心の安らぎ。
出演
赤川楓
佐久間優香
佐藤寧珠
日時
2024年1月27日(土)〜2月3日(土)
会場
生活支援型文化施設コンカリーニョ
札幌市西区八軒1条西1丁目 ザ・タワープレイス1F(JR琴似駅直結)
TEL 011-615-4859
→Googleマップを開く
料金
前売・当日ともに
一般:3,000円
U-25:2,000円
高校生以下:1,500円
その他お得な回数券もあり! 詳細は札幌演劇シーズン公式サイトをご確認ください。
スタッフ
作・演出:弦巻啓太
照明:手嶋浩二郎
音響:山口愛由美
舞台美術:藤沢レオ
楽曲提供:橋本啓一
宣伝美術:むらかみなお
制作:佐久間泉真 ほか
主催:札幌演劇シーズン実行委員会、演劇創造都市札幌プロジェクト、北海道演劇財団、コンカリーニョ、BLOCH、札幌市教育文化会館(札幌市芸術文化財団)、北海道立道民活動センター(道民活動振興センター)、北海道文化財団、ノヴェロ、札幌市
後援:札幌市教育委員会、北海道新聞社、朝日新聞北海道支社、毎日新聞北海道支社、読売新聞北海道支社、日本経済新聞社札幌支社、HBC北海道放送、STV札幌テレビ放送、HTB北海道テレビ、UHB北海道文化放送、TVhテレビ北海道、STVラジオ、AIR-G’エフエム北海道、FMノースウェーブ、FMアップル、三角山放送局、北海道
連携:札幌国際芸術祭実行委員会
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