【初演の感想】桑田信治さん「『言葉』そのものが作品世界を紡ぎ出す」|#39『ピース・ピース』札幌演劇シーズン2024-冬
桑田信治さん(TGR審査員)
話が進み、本作における演者の役割分担が判ってくるにつれ、僕は物語に引き込まれていきました。
初演のことにパトスは、暖色系の控えめな照明にイス3脚だけのシンプルな舞台。離れて立つ語り(ナレーション)と、母親と、娘。(特に序盤は)大仰な感情表現も少なく、母と娘は演者としてそこに存在していますがセリフは控えめ。娘の一人称で進む物語は、ひたすら淡々とした「語り」がその多くを引き受けます。
強いて言うならスタイルとしては朗読劇に近いのかも知れませんが、セリフ(言葉)と感情(演技)をあえて分離させているかのような。もとより舞台作品は脳内で補完する要素が強いものですが、「語り」の比重が大きいので、娘の心象風景も含めて作品世界が「言葉」の中により強く立ち上がっていきます。(それゆえ僕は観劇後に、この作品を戯曲ではなくぜひ「小説」で読みたいと思ったのでした。)
ひとつめの物語では、妄執とも言える母親のある「想い」に気づいた「私」が、自身を肯定することで母親の囚われた心を解放してゆく——。静かで、それでいて激しい母娘の感情が描かれます。
ふたつめの物語では、気弱な母親を疎み嫌っていた娘が、やがて胸を張って母親を紹介するようになるさまが描かれます。「おばあちゃんとおなじこと」しか言えなかった娘が、「恥ずかしくなんかない」と思えるようになる。母親は変わったのでしょうか? いえ、僕にはそうとも思えません。変わったのはむしろ……。
みっつめは、「魔法使いの村」で生まれたという母親と「私」の物語。僕は幼い頃「お母さんはいつ寝ているのだろう」と思っていて、そんな母親の万能感を比喩的に描いた作品かなと思ったら、どうやら彼女は本当の魔法使いらしいのです。——しかし、ファンタジー要素たっぷりに滑り出した物語ですがやがて「私」は厳しい現実に直面します。
一見、三者三様の母娘関係を描いているようにも見える本作ですが、そこに通底するのは母親との関係の中で自我意識を確立していく「私」の姿です。「小説で読みたいと思った」と前述しましたが、本作は必ずしも小説的というだけではありません。弦巻作品のウェルメイドさは演者が届ける「言葉」の中にこそ絶妙なバランスで存在していて、のちに入手した待望の「小説版ピース・ピース」は期待通りのものでしたが、やはり舞台に接してこそ、この作品の真価がわかるとあらためて感じました。
『冬』の札幌演劇シーズンが終わると、北国は遅い春を待つ時季に入ります。巣立ちの季節を目前に、再演『ピース・ピース』は私たちにどんな想いを抱かせてくれるのでしょうか。
弦巻楽団#39『ピース・ピース』
舞台には3人の女優。かわるがわるそれぞれが「母」について語り、少し奇妙な、しかしありふれた母と娘の姿が描かれる。
彼女たちの口から語られる「母」の姿は、『冷たい女』、『弱い女』、そして——。
「母」について語り、同時に「母」を演じる3人の女優。
母として、時に娘としてそこに現れる彼女たちの姿から、母から娘へ引き継がれる祈り、願い、あるいは呪縛を描きます。モノローグのような、ダイアローグのような、そこにあるのは不思議な心の安らぎ。
出演
赤川楓
佐久間優香
佐藤寧珠
日時
2024年1月27日(土)〜2月3日(土)
会場
生活支援型文化施設コンカリーニョ
札幌市西区八軒1条西1丁目 ザ・タワープレイス1F(JR琴似駅直結)
TEL 011-615-4859
→Googleマップを開く
料金
前売・当日ともに
一般:3,000円
U-25:2,000円
高校生以下:1,500円
その他お得な回数券もあり! 詳細は札幌演劇シーズン公式サイトをご確認ください。
スタッフ
作・演出:弦巻啓太
照明:手嶋浩二郎
音響:山口愛由美
舞台美術:藤沢レオ
楽曲提供:橋本啓一
宣伝美術:むらかみなお
制作:佐久間泉真 ほか
主催:札幌演劇シーズン実行委員会、演劇創造都市札幌プロジェクト、北海道演劇財団、コンカリーニョ、BLOCH、札幌市教育文化会館(札幌市芸術文化財団)、北海道立道民活動センター(道民活動振興センター)、北海道文化財団、ノヴェロ、札幌市
後援:札幌市教育委員会、北海道新聞社、朝日新聞北海道支社、毎日新聞北海道支社、読売新聞北海道支社、日本経済新聞社札幌支社、HBC北海道放送、STV札幌テレビ放送、HTB北海道テレビ、UHB北海道文化放送、TVhテレビ北海道、STVラジオ、AIR-G’エフエム北海道、FMノースウェーブ、FMアップル、三角山放送局、北海道
連携:札幌国際芸術祭実行委員会
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