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3ヶ月間の稽古場公演「間奏曲」に取り組む理由:劇団員の自立について(佐久間)

いつも弦巻楽団を応援いただきありがとうございます。楽団員の佐久間泉真です。

僕たちは現在、「間奏曲」と題した稽古場公演企画を行っています。2024年1月〜3月末にかけて、週1〜2回のペースで計18回の公演を予定しています。

演目は、劇団代表・弦巻啓太が2015年に執筆した『四月になれば彼女は彼は』。岸田國士が1925年に発表した『紙風船』を稽古する二人の劇団員のお話です。

あらすじ
劇団の稽古場で、男と女、二人の役者が稽古をしている。脚本は岸田國士の『紙風船』。二人は次回公演のキャスティングオーディションを兼ねた「試演会」で、その戯曲を上演しようとしている。
戯曲を読む。声に出す。相手に向かう。試行錯誤しながら稽古を繰り返す二人。
やがて稽古する二人の姿に、別の人間が重なってくる。それは『紙風船』の夫か、妻か。それとも。
「演じる」とは何か。「台詞」に滲み出てくるものは、自分の人生か、役の人生か——。

出演者は、発起人の佐久間のほか、呼びかけに応えた劇団員4名(相馬日奈、阿部邦彦、イノッチ、柳田裕美)。二人芝居ですので、日によって組み合わせを変えながら上演しています。音や照明などの操作は、その日に出演していない劇団員が行います。

特徴は、「弦巻楽団」と冠しているのに、代表の弦巻啓太が稽古に関わっていないことです。
企画立案から稽古、本番にいたるまで、代表は一度も稽古場に現れていません。

先日7回目の公演が終わり、まだ半分にも満たないのですが、ここでこれまでの活動を振り返りながら、どうして劇団員だけの自主公演「間奏曲」を取り組もうと思ったのか、その理由と経緯をご紹介します。

「間奏曲」の実施を検討しはじめたのは2023年2月。当時僕は、2つの課題を感じていました。

1、もっとたくさん公演したい

「間奏曲」を企画した最もシンプルな理由は、もっと劇団員が演劇公演に出演する回数を増やしたいと思ったからです。

最初に劇団員に提案した2023年2月時点での「間奏曲」のコンセプトは、次のとおり。

レパートリーであること
週末だけの単発ではなく、長期間にかけて何度も繰り返し上演できる演目を持つ。機会があればいつでも上演できるような演目とする。

コンパクトであること
2〜3人の劇団員が数人いればすぐできる、20〜60分の短編。1回の公演にかかるコストをできるだけ抑える。

ポータブルであること
劇場に限らず、どこでも上演可能である。

弦巻楽団は、年に3〜5回の劇場公演を行っています。札幌の同規模の劇団と比べると少なくはない数なのですが、全ての劇団員が全ての公演に出演しているわけではありません。キャスティングは演目に合わせて、その多くが客演の俳優によって上演されることが多い劇団です。

実際、佐久間個人が入団してからの出演ステージ数は、2021年4回(『オンリー・ユー』2回、『死にたいヤツら』2回)、2022年6回(『動員挿話』2回、『ナイトスイミング』4回)、2023年16回(『ヴェニスの商人』4回、『セプテンバー』10回、『死と乙女』2回)です。

1年365日ある中で、演劇公演を通じてお客様と出会うことができる機会が十数回しか作れていない! それこそが俳優としての喜びなのに!
僕は、もっと増やしたいと思いました。弦巻楽団の演劇が観られる機会をもっと増やしたい。場数を踏みたい。

しかし、制作的な観点からも、コストや人員を考慮すると、これ以上劇場公演を増やすことはあまり現実的ではありません。そこで実現できそうな範囲で考えたのが、少人数・短時間で、場所を選ばずに上演できる公演でした。

考えに共感してくれたメンバーで、2023年4月から脚本選びが始まりました。

条件にかなう脚本を探し、いくつも読み合わせ、岸田國士『紙風船』に辿り着き、さらに検討を重ね、議論し、結果として弦巻啓太の脚本となりました。二人芝居、上演時間60分、必要な道具は椅子・机・持ち運び可能ないくつかの小道具のみです。

メンバーは全員、日中は仕事をしているので、開演は無理のない時間帯(20:00)にしました。音・照明・フロントスタッフも自分たちで操作できるように、できるだけシンプルな仕組みにしました。

9月の本公演『セプテンバー』、12月「秋の大文化祭!」がありましたが、稽古場が空いている日を見つけて、コツコツと稽古をし、1月から公演を行うことができました。
1月は札幌演劇シーズン『ピース・ピース』の公演が決まっていましたが、劇団員は誰も出演していなかったので、時期的にもちょうどよかったです。


2、「劇団員の自立」を考えたい

出演公演の回数を増やしたい、とは別の、もう一つ大きな理由があります。

テーマは、「劇団員の自立」です。

弦巻楽団は、代表の弦巻が2003年に立ち上げました。最初は固定の劇団員を持たない「弦巻啓太と様々な演劇人とのコラボレーション」をコンセプトとしたプロデュースユニット(?)のような形態でした。
次第に劇団員が増え、減り、再募集してはゼロになり、紆余曲折ありながら、いまは代表含め12人の団員で活動しています。

現メンバーで最も団員歴の長い相馬日奈と木村愛香音は2016年に入団しています。弦巻楽団第1回公演は2003年ですので、それから2015年までの12年間の活動を知っている団員はいません。

代表は、前の劇団時代から数えると30年近く演劇活動していますが、相馬や佐久間は演劇部時代から数えても10年ちょっとです。
代表と、それ以外の劇団員との間には、演劇歴としても、劇団歴としても、大きなキャリアの差があるのです。

にしては(?)代表はかなり僕たちを自由に放牧してくれている劇団だと感じています。完全な放任主義というわけではありませんが、劇団員個人の選択を応援してくれています。

それでも、20年近くのキャリアの差は、意識的にも無意識的にも、代表とそれ以外の劇団員との関係性に小さくない影響を及ぼしていると思います。
それは、トップダウン、上下関係、権力構造のようなものです。

俳優と脚本・演出家、という役割の違いも大きいと思います。
経験の少ない俳優と、経験豊富な演出家がものづくりを共にするとき、演出家が意図してそのようなメッセージを発していなかったとしても、俳優は「この人の言うことを聞かなきゃ」とつい思ってしまうことがあります。
それは怒ると怖い代表を恐れているからではなく、むしろ代表に責任を背負ってもらうための「甘え」に近い状態です。寄りかかっているのです。

作品づくりにおいてだけでなく、公演の制作や広報においても、ひいては弦巻楽団が2013年から開講している演技講座の運営についても同じことが言えます。

気がつけば、何をするにも、代表=演出家のオーダー待ちになってしまう。
演出家の顔色を伺い、演出家から「正解」をもらうことを目的とした演技を選択してしまう。
自分のやりたいこと、何を目指して入団を希望したのか当初の目標を見失い、ただ日々のルーティンをこなすだけになってしまう。

僕は、代表とその他の劇団員とのユニークな関係性が、いつかこんな状態を加速させてしまい、クリエイティブな集団ではなくなってしまうのではないかと危惧しました。

劇団員が代表に寄りかからずに、自立して演劇と向き合わなくては。

代表のオーダーやリクエストをただこなすのではなく。
ひとりひとりの劇団員が主体性を持って、自分のいまの力量・現在地を見つめ直すことができないか。
与えられる環境を享受するだけでなく、自ら考え行動し続ける演劇人として活動できないか。

ほんの些細な危機感です。劇団員みんな代表のことを嫌っていませんし、(たぶん、きっと)恐怖に怯えてもいません。むしろ脚本家・演出家としての弦巻啓太を強く信頼しています。
でも、僕も含めて、そんな恵まれた環境にちょっと甘えてんじゃないのか。甘えすぎてんじゃないのか。

そんな思いから、劇団員の自主企画「間奏曲」を提案しました。

2023年1月か2月、代表に「代表・演出家のいない場で、役者だけで稽古して公演をしてみたい」と伝えると、快く稽古場を使わせてくれました。稽古の進め方について悩んだときは、ちょっぴりだけ相談もしました。

弦巻楽団は、劇団員がかなり自由に活動できる劇団だと思います。


公演は3月末まで続きます

前述のような課題意識を持って企画した「間奏曲」。
稽古は、演技について考え直すこと、そして演劇づくりを楽しむことをテーマとしました。

普段の弦巻演出ではやらないような方法で稽古をしたこともありました。
これまで演出家から言われてきた"ダメ出し"の意図や解釈について議論したこともありました。
弦巻楽団の劇団員として演劇活動を続けることのモチベーションやその変化について話し合うこともありました。
演出家が不在なので、作品の方向性について意見がぶつかり、ピリついた瞬間もありました。

できあがった作品は、俳優の思考や感情の変化がダイレクトに互いに影響し合う、とても有機的なものになったと思います。
組み合わせによって見えてくるものが全然違う、演劇の奥深さを体験できる作品になったと思います。

毎回本番が終わりお客様をお見送りした後は、1時間くらい振り返りの時間を持っています。今日の公演はどうだったか。俳優はどう感じていたか、見ていてどうだったか。ブラッシュアップを続けています。

脚本選びを含めると、2023年4月から1年間にわたるプロジェクトです。
この短期間で課題がきれいに解決されるとは思いません。
しかし、劇団員が自分の演技や演劇との向き合い方を見つめ直す、良いきっかけになったと思います。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

いま弦巻楽団の稽古場で何が行われているのか、もしご都合のつく方はぜひ目撃していただけると嬉しいです。

一緒に演劇を楽しみましょう!



【公演情報】間奏曲#2『四月になれば彼女は彼は』

本公演とは違う、ちょっと危ないアイディア、趣味性の高い表現、実験的なトライをどんどん行なう場として、弦巻楽団の若手劇団員が自主的に立ち上げた企画。2009年の#1『こんにちは、母さん』から15年の時を経て復活。
今回は、持続可能な演劇との向き合い方と、劇団員としての創作方法を再考すべく、演出家不在の稽古を重ね3ヶ月間にわたる稽古場公演を実施する。
演目は、弦巻啓太が若手演出家コンクール2014で最優秀賞を受賞した作品『四月になれば彼女は彼は』。

あらすじ
劇団の稽古場で、男と女、二人の役者が稽古をしている。脚本は岸田國士の『紙風船』。二人は次回公演のキャスティングオーディションを兼ねた「試演会」で、その戯曲を上演しようとしている。
戯曲を読む。声に出す。相手に向かう。試行錯誤しながら稽古を繰り返す二人。
やがて稽古する二人の姿に、別の人間が重なってくる。それは『紙風船』の夫か、妻か。それとも。
「演じる」とは何か。「台詞」に滲み出てくるものは、自分の人生か、役の人生か——。


出演

相馬日奈
阿部邦彦
佐久間泉真
柳田裕美
イノッチ

※二人芝居。組み合わせは回によって変わります。

日時

2024年1月〜3月

2/18(日) 20:00【阿部邦彦×柳田裕美】
2/21(水) 20:00【佐久間泉真×柳田裕美】
2/25(日) 20:00【阿部邦彦×相馬日奈】
2/28(水) 20:00【イノッチ×相馬日奈】
3/6(水) 20:00【佐久間泉真×相馬日奈】
3/9(土) 20:00【イノッチ×柳田裕美】
3/10(日) 20:00【阿部邦彦×相馬日奈】
3/15(金) 20:00【佐久間泉真×柳田裕美】
3/17(日) 20:00【阿部邦彦×柳田裕美】
3/29(金) 20:00【イノッチ×柳田裕美】
3/31(日) 20:00【佐久間泉真×相馬日奈】

※開場は開演の20分前。
※上演時間は約60分を予定。

会場

あけぼのアート&コミュニティセンター 8号室
札幌市中央区南11条西9丁目4-1/地下鉄南北線中島公園駅より徒歩15分
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料金

予約・当日共通/日時指定/税込
一般 1,000円
高校生以下 500円

※各回10席限定。
※高校生以下は、当日年齢を確認できるものを提示。

ご予約はこちらから

スタッフ

脚本:弦巻啓太
制作:佐久間泉真
主催:一般社団法人劇団弦巻楽団

お問い合わせ
一般社団法人劇団弦巻楽団(担当:佐久間泉真)
メール:info@tsurumaki-gakudan.com

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