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【対談】 藤沢レオ×弦巻啓太「椅子を共有する三人芝居」を語る|#39『ピース・ピース』

2024年1月27日(土)〜2月3日(土)に上演される弦巻楽団#39『ピース・ピース』。札幌劇場祭TGR2022で大賞&俳優賞をダブル受賞した本作を、早くも札幌演劇シーズンで再演します。

初演との大きな違いとして、北海道を拠点に活動する金属工芸家・彫刻家の藤沢レオさんの舞台美術が加わります。

作品の重要な要素として登場する「椅子」。これがレオさんによりどのように生まれ変わるのか。美術のコンセプトについて、劇団代表の弦巻啓太と対談していただきました。



藤沢レオ

金属工芸家・彫刻家。北海道苫小牧市の樽前山麓にて活動を行う。弦巻楽団とのコラボレーションは4度目。

過去公演でのコラボレーション
2016年・2020年『果実』、2018年『センチメンタル』



「母」と「娘」と「読み手」の三人芝居

弦巻 レオさんには先日、脚本と初演の映像をお渡ししました。ぜひ感想を教えてください。どんな風に見ましたか?

藤沢 先に脚本を読んだんですけど、第一印象としては「これどうやって終わるの?」と思いました。

弦巻 確かに、そうですよね。

藤沢 その後に映像を見て、「あぁなるほど、こうなるのか」と。

物語は、弦巻さんらしく笑いの要素が入っていながらも、誰にでも重なる部分をしっかりと描いているなと感じました。感情移入できる。


#37 1/2『ピース・ピース』初演(2022年11月、ことにパトス)


弦巻 レオさんには過去作品でも舞台美術をお願いしましたが、これまでの『果実』(2016年2020年)や『センチメンタル』(2018年)と、今回の『ピース・ピース』との違いは何か感じましたか。

藤沢 一番分かりやすく違うのは、オムニバス形式であることですよね。小さな物語が繋がってる作品です。

内容としては、隠れてる影の部分というか、見た目は幸せそうな彼女たちの、心に抱えてるものが描かれている部分が面白いですよね。人間が隠しているものをわざわざ掘り出して、告白させるみたいな。

告白しているのは「娘」です。でも、「娘」が告白しているんですけど、それによって露わになるのは「母」なんですよね。

それはお互いにとってとても辛い作業なんだろうなと感じました。「娘」も辛い。「母」も辛い。

弦巻 すごい嬉しい指摘です。娘が母について語る、芝居の形態としては結構ありがちというか、決して突飛なことをしてるつもりはないんですけれど、 自分のこれまでの劇作のスタイルに色々思うところがあって。

会話を書くことに抵抗があったんです。だから独白形式の「小説」として書いて、むしろこうじゃないと書けないなと思って。それをそのまま役者に渡して、芝居にしていったという感じです。

もっと普通の三人芝居にしたり、あるいは一人芝居にしたりすることもできたと思うんです。でも『ピース・ピース』は、二人芝居+「読み手」という形式で作られています。

藤沢 「読み手」は1人だけメタな視点から読んでて、母娘2人の様子を眺めている。2人は読まれたものに対して動いたり声を出したりする。メタな視点と地の視点が、分かれたまま展開していくので、本当に小説をそのまま見ているような感覚ですよね。

そもそも、「読み手」がナレーターの役割を持つので、母娘が全部演じなくてもいいわけですよね。

弦巻 そうなんです。でもそうすることで、お客さんが自身の中にある、母の像だったり、娘だった時の自分だったり、そういうプライベートな部分を重ね合わせやすくしたかったというねらいがありました。


#37 1/2『ピース・ピース』初演(2022年11月、ことにパトス)


弦巻 レオさん自身には、何か「母」というものに対するイメージはありますか。

藤沢 僕自身は母の影響をすごく強く受けていると思います。母自体の影響というよりは、母の死の影響ですね。

僕が20代のとき、くも膜下で突然死しました。そこから、僕のアーティスト生活が始まってるんですよね。だから、母が死ななければ、母の死を体験しなければ、僕は多分アート活動には進んでないんですよね。

だからといって美化するわけではないですけれど、その出来事が今の僕を形成しているのは間違いないです。

母のことを思い出してみても、そんなに思い出すことは実はないんです。亡くなったのは僕が20代後半のときなので、たくさん会話はしていたはずなんですけど、 そんなに多く思い出せないんですよね。

母は、人を助けていく人生だったんです。本当、人のことばっかやってたんですよ。もちろん家庭も大事にしてましたけど、 いつも誰かの手伝いしてるなって思っていました。そういう部分は、僕も影響受けていると思いますね。


「椅子」の存在感

弦巻 初演は2022年11月にことにパトスという小さな空間で上演されました。今回の再演は、コンカリーニョという大きな劇場になります。そこで、作品の重要な要素である「椅子」を、レオさんに新たに作っていただきたくお願いしました。

イメージとして最初に持ったものはありますか。言葉というか、コンセプトというか。

藤沢 僕は普段も椅子を作ることはあるんですけど、やっぱ椅子ってすごい難しいんですね。椅子自体が1つの存在でもあるし、座れるという機能も必要だし、自分の地が出やすいものだと思います。だから、最初は困りましたよ。

弦巻 困った(笑)

藤沢 コンセプトは弦巻さんの脚本そのものなので、それに対して、どういうボリュームの椅子が必要かを決めるのが悩ましいところですね。

あくまで役者を見せるべきなのか、モノとして椅子が存在すべきなのか。

弦巻 どちらの方向も考えてくださっていて、僕が「どっちも良いな」と言って決めあぐねてしまっています。

モノとしての存在感があった方が良いのか、あくまで舞台美術、役者が座れる機能を持つものとしてあった方が良いのか。それによって作品の見え方が変わってきますよね。
そこから考えてくださってるのは、非常に嬉しいです。

藤沢 この作品にはレイヤーが2つありますよね。「母娘の2人」と「読み手と演じ手」、ここは全然違う世界です。

それをつなげているのが椅子ですよね。3人は椅子だけを共有してつながっている。でも、それぞれは違う世界だから……難しいですね(笑)

レオさんによる「椅子」イメージ図。


社会構造まで見えてくる

弦巻 最近感じてることや今興味があること、作品作りに影響受けていることなどがあれば教えてください。

藤沢 今年は色んなことを始めてしまった年でした。これまで通りのアーティストの活動をしながら、北大で学生として文化人類学をちゃんと学び始めました。札幌市立大では講師として、教育にも関わるようになった。全部に興味があるから、忙しいんですよね。

その中でも一番影響受けているのは、文化人類学を学び始めたことですかね。社会の見え方がどんどん変わっていくんです。この学問領域は、こういう風に世界を捉えているんだ、って。

元々僕が見ていた世界の捉え方とそんなに大きく違わないんですけれど、やっぱり学び始めるとその解像度がすごく上がっていくんですよね。ある出来事について、一度に多角的に見ることができる。

社会のあらゆる場面で、どうしてこういう会話が成立しているのか考えてみると、言葉づかいや関係性は、社会構造によって位置付けられていくことが分かる。その社会構造は一体誰が作ったんだろう、そこに僕たちも参加しているんだろうか、と気になり始めて。

弦巻 分かります。先日上演した『死と乙女』(2023年12月)という作品も、チリ・クーデターを背景とした作品でした。当時の社会構造をしっかりと理解して、その上で演技を組み立てていかなければいけないと感じ、北海道大学から専門家の先生をお呼びしてレクチャーしていただいたりしました。

演劇の良いところは、人間だけを見ているのに、その社会構造まで見えてくることだと思うんですよね。

『ピース・ピース』も、ある家庭のパターンを作り手が0から100まできっちり具現化するというよりは、どういう母と娘なのか、お客さんも含めて一緒に模索できるように作られています。

演劇の原体験というか、他の芸術にはない演劇の面白さ、特色を感じていただける作品になったら良いなと思っています。

ずいぶん話がずれてしまいました。椅子楽しみにしています!

藤沢 ありがとうございました。よろしくお願いします。





弦巻楽団#39『ピース・ピース』

舞台には3人の女優。かわるがわるそれぞれが「母」について語り、少し奇妙な、しかしありふれた母と娘の姿が描かれる。
彼女たちの口から語られる「母」の姿は、『冷たい女』、『弱い女』、そして——。
「母」について語り、同時に「母」を演じる3人の女優。
母として、時に娘としてそこに現れる彼女たちの姿から、母から娘へ引き継がれる祈り、願い、あるいは呪縛を描きます。モノローグのような、ダイアローグのような、そこにあるのは不思議な心の安らぎ。

脚本・演出 弦巻啓太からのメッセージ
自分はあと数年で50歳になります。これまでたくさん脚本を書いてきました。これまで鍛えてきた「自分の書き方」から離れ、新たなことにチャレンジしようと思い、急遽生み出されたのがこの『ピース・ピース』でした。近年の「自然な会話劇」に違和感を感じ、ではどんな会話劇が今現在に有効なのかを模索し、『ピース・ピース』はまず戯曲ではなく「小説」として執筆されました。それを解体しながらもう一度演劇にしていったわけです。
なぜわざわざそんなことを?もちろん、観客の皆さんとより深く舞台を共有するためです。観客の心の奥に響くことを願い、語りながら演じ、演じながら語る、モノローグのようなダイアローグのような舞台が生まれました。
観る方ひとりひとりの心の中に、それぞれ違う母の姿が浮かび上がる筈です。

出演

赤川楓
佐久間優香
佐藤寧珠

日時

2024年1月27日(土)〜2月3日(土)

1月27日(土)18:00
1月28日(日)14:00/18:00
1月29日(月)19:30
1月30日(火)19:30
1月31日(水)19:30
2月1日(木)19:30
2月2日(金)19:30
2月3日(土)14:00/18:00

※全10ステージ
※上演時間は約70分を予定
※開場は開演の30分前

会場

生活支援型文化施設コンカリーニョ
札幌市西区八軒1条西1丁目 ザ・タワープレイス1F(JR琴似駅直結)
TEL 011-615-4859
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料金

前売・当日ともに
一般:3,000円
U-25:2,000円
高校生以下:1,500円

チケットのご購入
ローチケ(Lコード:10051)
道新プレイガイド
・札幌市民交流プラザチケットセンター
・セコマチケット(セコマコード:D24012702)

ご予約(当日清算)
https://ticket.corich.jp/apply/287364/

その他お得な回数券もあり! 詳細は札幌演劇シーズン公式サイトをご確認ください。

スタッフ

作・演出:弦巻啓太
照明:手嶋浩二郎
音響:山口愛由美
舞台美術:藤沢レオ
楽曲提供:橋本啓一
宣伝美術:むらかみなお
制作:佐久間泉真 ほか
主催:札幌演劇シーズン実行委員会、演劇創造都市札幌プロジェクト、北海道演劇財団、コンカリーニョ、BLOCH、札幌市教育文化会館(札幌市芸術文化財団)、北海道立道民活動センター(道民活動振興センター)、北海道文化財団、ノヴェロ、札幌市
後援:札幌市教育委員会、北海道新聞社、朝日新聞北海道支社、毎日新聞北海道支社、読売新聞北海道支社、日本経済新聞社札幌支社、HBC北海道放送、STV札幌テレビ放送、HTB北海道テレビ、UHB北海道文化放送、TVhテレビ北海道、STVラジオ、AIR-G’エフエム北海道、FMノースウェーブ、FMアップル、三角山放送局、北海道
連携:札幌国際芸術祭実行委員会

お問い合わせ
一般社団法人劇団弦巻楽団
メール:info@tsurumaki-gakudan.com


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