僕がジークで働くまで-ベイブ遭遇編-


そこは、雀荘と呼ぶにはあまりにも異質な空間だった。名状し難い発声の数々と、常連客たちの笑い声が歪に響き渡る。.......大丈夫、まだ引き返せる。そう思った時には、私は既にこの店の常連達によって同じモノに染め上げられてしまっていた。

-ある男の手記より抜粋-

.......冗談はこの辺にして、本編に行きましょう。

前回はこちら

2019年12月
麻雀を覚えて(中略)住所不定無職となった僕は、その後とりあえず派遣社員として就職をして働き始めた。
職場はコールセンター。立ち上げ初期という事で覚える事もやる事も沢山あったけれど、何とかついて行って、年が明けて気がつくと、管理職にクラスアップしていた。
時給も上がって、生活は大分安定し、仕事は相変わらず死ぬほど忙しかったが、充足した日々だったと思う。
いや、ただ忙しいだけだったかもしれない。2020年4月に関していえば残業時間が77時間に達していた。コールセンターが正式稼動したり、上司が蒸発したり、コロナが流行り始めて緊急事態宣言が出たりと色々原因はあったが、正直二度とあんな修羅場は御免である。

Mと同棲.......というと聞こえがよすぎる、転がり込んでから半年がたった頃、僕達は新居を探し始めた。
元々、西武池袋線沿線に住んでいたこともあって、引っ越すならその近くにしようとなった。
候補はいくつか上がったが、最終的に大泉学園駅から徒歩10分くらいの2DKに決まった。

2020年5月、GWを利用して引越しを行い、晴れて転がり込み野郎から同棲相手にランクアップ。大泉学園での新生活が始まった。

実は、Mにはあまり話してなかったがこの大泉学園に引っ越すことを決めた時に、事前に『大泉学園 雀荘』でGoogle検索をしていたので、既にこの時駅チカに『麻雀HOUSE ベイブ』という雀荘があることは知っていた。なんなら大泉学園に決めた一つの理由でもあった。
西武池袋線沿線には貴重な、手頃で遊びやすい雀荘で、引っ越したらすぐにでも行ってみようと思っていたが、この頃は本当に仕事が忙しかった。
4月の77時間残業に続いて、残業が40時間を切ったのは9月になってからだった。特に夏は酷かった。
僕の働いていたコールセンターは、あるサービスに関する問い合わせ窓口であったのだが、2020年4月にサービス開始した為にセンターは酷く混雑し、システムの不具合なども相まって、それが発覚した7月〜8月は毎日謝罪の電話を部下にさせていたし、なんなら僕もしてた。
多分人生で1番謝っていたと思う。いつぞやセフレが発覚した時の元カノに対してより謝り続けてた。

そんな訳で、雀荘は近くにあるが行けない、という生活がしばらく続いていた訳だが、秋になって仕事が落ち着いてきた時、ようやく重い腰を上げてベイブへと訪れた。

初めて行ったのは土日の昼だったと思う。
最初の印象は普通の雀荘だった。ただ、某動物園なんかと違ってメンバーが気さくに話しかけてきてくれたり、常連たちと親しげに話しているのが印象的だった。
良くいえばアットホーム、言葉を選ばず言うと場末感の漂う店だなと思った。
ただ、以前にも話したように僕は『ここ客入ってんのか?』みたいな喫茶店だったり、こじんまりとした居酒屋にひとり歩きしていた時期があった為、ベイブの雰囲気はすごく好みだった。

それから概ね月1~2回ほど通うようになった。
ある日は某イケメンに煽られ、ある日は今は亡き(?)某JAPANに三味線を弾かれ、またある夜は三麻おじさんに養分にされたりしながら徐々にベイブに馴染んでいった。

多分、この頃に僕がベイブに遊びに行っていた事を知っている人は殆ど居ないと思う。オーナーがギリギリ三麻おじさんに養分にされてた僕を覚えてたくらい。
それもそのはずで、ベイブに行った回数は通算で10回もいってないだろうからだ。
店に行っていたのも土日が殆どで、平日の夜に訪れる濃ゆい常連たちとは、この時ほとんど顔を合わせていなかった。

そして年が明けた2021年。
三麻おじさんに養分にされたあの夜から、またしばらく時を開けて。久しぶりに麻雀打ちたいな、ベイブ行くか。
と思ってTwitterで営業情報を調べてみると、なんと改装工事中と書かれていた。
再開は春。
まぁ、やってないなら仕方ない。
僕はそこからしばらくの間、また池袋にある某動物園に通い始めた。通うと言っても、月1~2回程度だが。

そんな訳で、ベイブ時代の話はこれで終わる。
思い返してみると、三麻おじさんに養分にされた日が最後のベイブということになる。
勘違いしないで欲しいのでここに明記しておくが、僕は今も昔も三麻おじさんのことは大好きである。養分にされたことを忘れないのは別である、と言うだけだ。

そして冬を超えて、3月下旬。
待ちに待った営業再開がTwitterで告知された。

次回
『僕がジークで働くまで-ジーク没入編-』に続く。

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