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紙袋収集家夫妻 ~秋ピリカグランプリ2024に応募します~

信一しんいち
妻、妙子たえこの作った目玉焼きを食べながら

「和菓子系は手軽に楽しめていいね」と
妙子に話し掛ける。

妙子「それにしても
   あなたに収集癖があったなんて
   知らなかったわ」

信一「僕も思ってなかったよ。
   でもふとひらめいたんだ。
   世の中の紙袋を集めてみたら
   面白そうだって」

家のクローゼットには
たくさんの紙袋が整然と収められている。

なんの収集家でもなかった信一が
紙袋を集めるアイデアを思い付いたのには
訳があった。

結婚後も共働きの日々に追われて、
信一と妙子の家は
雑然と荷物なり不要な物の溜まってゆく、
半ばゴミ屋敷と化していた。

見るに見かねた妙子が断捨離をしようと提案した。

要らない物は割り切って捨てて、
不要な物の無い、とてもすっきりとした家になった。

妙子は満足していたが、信一は
何かぽっかりと空虚な物を感じて寂しくなった。

そんな時ひらめいたのが
世の中にある面白い紙袋を集めるという事だった。

妙子は反対した。
やっとのことで捨てることができたのに
また物を増やすなんて。しかも紙袋?
一体何になるって言うの?

信一はどうしても集めたい気持ちに
駆られていたので、妙子を説得するため
便箋に箇条書きにして
いかに紙袋を集める事に意義があるのかをプレゼンした。

1.生活に遊び心は大切です

2.珍しい紙袋を集めることで
  楽しい会話のきっかけになります

3.紙袋は袋であって、
  そこに入れる物自体は無いのだから
  物を持っていないに同じ事です

4.共通の趣味を持ちたい
  楽しさを分かち合いたいです

5.紙袋は愛です

便箋を渡された妙子は
それを読んでも乗り気にはなれなかったのだけれども、
気圧されそうなほどの信一の熱意、熱弁に
ほだされたのだった。

ある日、
仕事を切り上げて早く帰宅した信一が
キッチンで夕食のオムライスを作っていたら、
妙子も帰って来た。

「ただいま~、信一、
 紙袋手に入れたわよー」

信一「え~!ほんとに!?
   ぼくが先にゲットしようと
   思っていたのに~」

妙子はしたり顔で
キッチンルームのテーブルに紙袋を置いた。

信一「ん?白虎庵びゃっこあん?和菓子?」

妙子「デパートで買って来たの。
   ちょっと由緒ある感じ、しない?」

信一「うん。紙袋もしっかりしていて、
   書いてある文字もいいねぇ!
   中身も気になるよ!」

信一、妙子の紙袋収集はそんな風に始まった。

紙袋を手に入れるためには
商品を買う必要がある。

買ってみて初めて、どんな紙袋かを
知るのも面白いのだった。

商品のジャンルによって
紙袋のデザインや印刷されているロゴなど、
奥深さと傾向が見えてきて
観察し甲斐もあるのだった。

紙袋を通じて楽しい夫婦関係を築いてゆく二人。

一度は断捨離をしたけれど、
今は『物がある』という事に幸せを見出していた。

紙はおよそ木で出来ている。紙袋も大切に。

今や紙袋収集家夫妻の願いとなっている。

(1193字)

#秋ピリカ応募

本作品(物語)はすべてフィクションです。

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