『14歳の栞』

学校に行かなくなって3年ほどが経とうとしている思春期の娘に「この映画観たい」と唐突に言われ、折しもそう遠くない映画館で再上映されることになって、そういうタイミングで観てきた本作。

学校から距離を置く娘はなぜこれを観たいと思ったのだろうか、観たら傷つかないのだろうか、悲しくならないのだろうか、そういう無粋な心配が頭をもたげたのはまあ事実なのだが、それは黙っていた。思春期の娘には余計なことを言ってはいけない。

映画館はほぼ満席だった。私の隣には初老のおじさんが座っていた。10代と思しき女の子もいれば、30代くらいのスーツ姿の男の人もいた。まあとにかく、いろんな人がいた。まるでこの映画みたいに。

最初のあたりはどうも私はそわそわとしていた。映画を観ているんだか、映画を観ている娘が気になるんだか、自分でもよくわからない。緊張していたのかもしれない。青天の霹靂みたいな勢いで外の世界を見ようとしている娘をどう理解したらいいのかわからなくて、身構えてみたのかもしれない。

だから私は常に左側に娘の空気を感じながら、スクリーンに映し出されるあの子たちを見つめていた。それでも観ていくうちに、ときどき娘から意識が離れて、彼らの物語に没入していることに気づく。かと思うと、中学時代の同級生の斉藤くんを思い出したりする。そして最後に自分に意識が向きかけるが、ガードがかたくて難攻不落である。まあそういう風にあっちこっちを行き来しながら、それでも集中は切れることなく、気づいたら映画が終わっていた。そういう風に観た。

正直に告白すると、私の心性はあの子たちとそんなに変わらないかもしれないとも思った。それでもあの時代を懐かしく思い出した瞬間もあったし、目を細めて微笑んだ場面もあった。ときどき涙が溢れてくるが、そこに明確な理由は見当たらず、一貫性もなく、よくよく考えてみる気もしなくて、流れる涙は放っておいた。だから私は、この映画について、要するに語る言葉を持たない。こんだけだらだらと書いておいてなんだけど。

鑑賞後、帰りの車の中で、娘が「どうして私がこの映画を観たかったかというとね」と口を開いた。「クラスには、うるさいやつも、意地の悪いやつも、軽蔑したくなるようなやつもいるでしょう。それでもきっと、その人たちにも、その人たちの人生があるんでしょう。それは頭ではわかっている。でも頭だけでは足りない。だからそのことを体感したかった。学校へは行けないから、この映画がきっと助けになるだろうと思ったの」。
思わず「それで、どうだった?」と尋ねたが、娘は窓の外に目をやって、それきり黙ってしまった。思春期の娘には余計なことを聞いてはいけない。


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