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陽と月の境目
眠る城
城が眠っている。
その中に二人、眠っている少年と、眠っている少女がいる。
城の中は、正に暗黒であり、何も見えない。
眠っている二人は暗黒に包まれている。もはや、それが「睡眠」と呼べるものなのかもわからない、
永い、永い眠りについている。
光に
城の周りには光があり、城の外観はかろうじて見えていた。
黒く、強く、爽やかに、禍々しく、鮮やかに、汚れきった、人間の形をしている。
黄昏時になると、黒い城は光を発し、草叢を焼き尽くし、天上界程の幻影を見せ、天空まで登る黒煙で世界を汚す。
これを見ている人間にはわからないと思うが、この城の、この時こそ「美」なのであり、君たちが普段目にする星々の美しさなのである。
例えば、ここに一人、奴隷として扱われ、傘も差せず靴も履けず、己の力を全て主人に捧げることに、マゾヒズム的な渇望をしている者がいるとしよう。
彼は求めてもいない安泰の暮らしの中、最後に待つ「解放」と「死」に、それを主人とし、働くしかない。
そんな彼の元に、ある日、奴隷がついたとしよう。「奴隷になる自分」を求めていた者が、「奴隷」を手にしてしまったのである。
彼は見てわかるように、「奴隷を渇望する労働者」という顔と、「奴隷を従える者」という、不完全な構造、ヒエラルキを生み出してしまったのである。
自然の中で、不完全なヒエラルキが滅びるのは当然のことだろう?
者は死ぬのだ。恐らく、ここに存在する大自然に力を捧げるために。
そして、この城の、この時こそ、「処罰を与える大自然」という、大概の人間には理解不可能な領域なのである。
城は、数十年経っても己は覆われないと分かっていても、朝日と共に生え、夕日を迎え、さあ夜だという新芽を、絶対的な力で破壊するのだ。
眠っている二人を癒やすために。
リリースカット・クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ
零時を過ぎた。もちろん夜の零時だ。
城が暗黒に包まれ、この地域一帯が「暗黒」になる。
音すらない。闇という、その文字通りである。
死で溢れた暗黒。眠る二人の心拍のみが唯一の音。
心拍の奏でる音楽は、ピュアで開放的。大衆の為では無く、二人の為にある音楽。
攻撃、保守、補給、思考。大衆的なそれらは、全て城が賄ってくれる。
自由だ。
罪も罰も無い。
……本当にこれでいいのだろうか