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N氏とケーキ

友人のN氏とケーキを食べに行った。

N氏は50代の(もしかしたらもう60代になったかもしれない)男性で、もう10年以上のお茶友達である。会えば映画や演劇や小説のことを3時間だか4時間だかとりとめもなく話している。

そのN氏が、ここ数年ケーキの魅力に取り憑かれたもので、お茶する場所が、駅前のカフェから、N氏推薦のケーキ屋さんとなった。
バリエーション豊かで、どのお店も店主のこだわりがあって、もちろんケーキは美味しい。

でも、これまでそんな風に幾つかお店を紹介されたものの
「とても美味しかった、また行きたい」
と私がN氏に言ったお店は、その中の1軒だけだった。

「あのお店くらい美味しいところがいい」
と、時々思い出して言う私に
「だって、あの店は別格と言うか……もう素材から、さ……」
と、困っていたと言うか軽く呆れていたようなN氏が、今回また別の店に連れて行ってくれた。めちゃくちゃ美味しいのに、隠れ家的にひっそりやっていて最高、なお店だったらしい。

だった、と言うのは、少し前にテレビで話題になってしまい、もう隠れ家では全くなくなってしまったから。
行くと既に人が並んでいて、N氏が「あぁ……もう、こんなに……」と呟いていた。

ケーキはとても美味しかった。
また行きたいお店2軒目となった。


混んでいたのでサクッとお店を出て、神社の横の公園を通り、駅まで1時間くらい話をしながら歩いた。

途中、石に乗ってキャーキャーと笑う子供たちを見かけて

「あの石って実はご神体らしいよ」

「そうなんですか、子供たちめっちゃ乗っかってますけどね」

「たまに保育園の集団とすれ違うんだけど……あれさ……もう……可愛すぎて、本当に、キュン死っていうので、死ぬんじゃないかと思うよ」

「N氏も可愛い子供だったんですよ」

「僕は、子供が嫌いな子供だったから」


とかいう会話をしたけれど、今思い返すと、いまいち噛み合ってないな、と思う。

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