私の不妊治療③「結果が出ない日々」


転院を決めた翌日には新しい病院を訪れた。
転院先で話はすんなりとおり、既に31歳ということで早速人工授精にステップアップした。

とりあえず自力で生理が来ているのだから、と自然に卵を育ててみる。
生理開始から12日目、全く排卵の気配がない。15日目、それでも気配がない。17日目…やっと卵胞が大きくなり始めた。
「卵胞が育つのが非常にゆっくりだ。のんびりしすぎだから、注射を打ちましょう。」その日から3日間、仕事後に病院を訪れて肩にHMG注射を打った。

HMG(注射):
卵胞を育てる働きのあるホルモン注射剤。

そして人生初の人工授精の日が訪れる。
朝、夫の精液を持って病院に向かう。
精液は遠心濃縮され、運動率や直進率、数(濃度)を調べられた後、内診台に上がり、カテーテルを使って子宮に直接精液を入れる。
処置自体は十秒にも満たない一瞬の出来事。そのまま仰向けになった状態で3分程安静にした後、10分間別室のベッドで横になる。
その後気分が悪くなければ会計を済ませて出社する。

人工授精のポイントは精子を助けること。
普通に性行為を行うだけでは精子のスタート地点は膣内であり、実際に受精する卵管までの距離を自力で進まなければいけない。
精子に意志があって、排卵する側の卵管に向かって全精子が全力疾走するわけではない。
反対側の卵管に向かって突き進む奴もいれば、子宮内をぐるぐる彷徨ったり、そもそも最初から動かなかったりする奴もいる。
けれど人工授精では子宮の奥(卵管の入り口付近)に直接入れるため、精子が自力で頑張るよりも卵管にたどり着く確率が上がる。
つまりポイントは運動率や直進率が悪い精子を介助してやることにある。確かに普通に性行為をするよりかは可能性が高い。

…しかし受精するかはまた別の話。
人工授精で妊娠する人は不妊治療患者の約半数いるらしい。
そしてその半数の内8割の人が4回目までに妊娠する。9割の人が5回目までに結果が出る。
次のステップは体外受精となり、金額が数十倍に跳ね上がるため、経済的理由で人工授精を何度も繰り返す人はいるが、6回目、7回目と回数を重ねても結果につながる可能性は低くなってくる。
ここでもやはり私は生理が遅く、生理前に判定日を迎えてはお金を払って陰性の結果を得るばかりだった。


人工授精は4回したが、全くかすりもしなかった。
人工授精で妊娠する約半数の中には入れなかったようだった。

「体外受精に進んでもいいという気持ちがあるなら、なるべく早く進んだ方がいい。」
そう言われたものの、最初は悩んでいた。
“30万円(※)払っても妊娠する保証がされているわけではない。もし妊娠できなかったらその金額を捨てることになる。既に今まで払った20万円も水の泡。捨ててきたのと変わらない。決して裕福ではないのに、こんなことを続けていて家計がもつだろうか。困窮しないだろうか。”

※30万円:
通っていた病院の採卵〜凍結の目安金額。
当然体外受精は30万円では済まないが、当時の私は知らなかった。
テレビで報道されがちなのもこれだと思う。



一度は夫に諦めるべきか相談した。
『子供のいない人生設計』を話した時夫は呟いた。
「寂しいな」と。

具体的に思い浮かべれば思い浮かべるほど虚しくなる。
今まで当たり前のように思い描いて来た未来がなくなるということ。
母になれないということ。子供といろんな場所に行くことが叶わないということ。
そんな人生を楽しめるだろうかと自問して出した答えは、
『全て捧げて子供を望む』だった。

私たち夫婦は体外受精にステップアップすること主治医に告げた。


次回「立ちはだかる壁」

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