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個人事業主と改正電帳法

こんにちは。
クラウンコンサルティング株式会社で、
管理部 兼 広報を担当している、つのだ(@tsuno_bgent)です。

 2022年1月、改正電帳法(改正電子帳簿保存法)が施行されました。
ルールが複雑であるため2年の経過措置が設けられましたが、2024年1月の本格スタートまで、あと1年を切りました。

「改正電帳法って、企業だけが対応するものじゃないの?」
「個人事業主は関係ないよね?」

このような声も耳にしますが、答えは「いいえ」
改正電帳法の対象となるのは、全ての企業・個人事業主なのです。
 
 今回は、「改正電帳法」本格スタートまでに準備すべきポイントを解説していきたいと思います。


改正電子帳簿保存法とは?

 電子帳簿保存法とは、紙保存が義務化されてきた税金関係の書類を、電子化して保存できるようにするために、対象となる書類やその保存方法などを定めた法律です。正式には「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といいます。

 電子帳簿保存法は、1998年に最初に施行されました。施行してから20年以上の間、インターネットの普及やIT技術の進化の影響で、何度かの改正がされてきました。2022年の改正では、電子帳簿保存をするための必須要件が大きく変わりました。その中の1つが、「税務署長の事前承認制度」の廃止です。これまで税金関係の書類を電子保存する場合は、原則3か月前までに管轄する税務署長の事前承認が必要でしたが、これからはその必要がなくなります。つまり、申請に係る事務手続きがなくなり、電帳法の導入の流れが簡略化されました。いつでもすぐに始められるようになったのです。

改正電帳法には、以下の大きい3つのルールがあります。
1)電子帳簿保存(電子的に作成した帳簿や書類)のルール
2)スキャナ保存(紙で受領・作成した書類)のルール
3)電子取引データ保存(電子的に授受した取引データ)のルール


1)電子帳簿保存のルール

 「電子帳簿等保存」のルールとは、事業者が自ら会計ソフト等で作成した書類(請求書や契約書、領収書、各種会計帳簿、決算書類など)をそのまま電子データで保存するときのルールです。手書きで作成したものは対象とならないので、原本を保存しておく必要性がありますので注意しましょう。

 また、電子データ化して保存するための要件が、これまでは8項目でしたが、改正後は3項目に減りました。ただし従来の8項目を全て満たす場合は「優良な電子帳簿」とされ、過少申告加算税が軽減されたり、青色申告特別控除が55万円から65万円に増額するなどメリットがあります。

出典:国税庁「電子帳簿保存法が改正されました」 


2)スキャナ保存のルール

 スキャナ保存のルールとは、取引先などから紙で受け取った書類(請求書や領収書、見積書、注文書など)を、スキャン又はスマートフォンやデジタルカメラで撮影し画像データとして保存するときのルールです。なお、国税関係帳簿や決算書類はスキャン保存の対象外となります。

出典:国税庁「電子帳簿保存法が改正されました」

 スキャナ保存は、電子データに変換するときの改ざんなどの不正を防止するため、「再発防止策の社内規定整備」や「相互けん制」、「定期的な検査」などの必須要件(適性事務処理要件)がありました。しかし、2022年の改正電帳法からは廃止となります。これにより、定期検査に必要だった原本が不要になり、スキャン保存後すぐに廃棄できるようになりました。また、2名以上で行わなければならなかった事務処理も、今後は1名での実施が認められます。
 また、スキャナ保存の要件のひとつにタイムスタンプの付与が定められています。タイムスタンプとは、電子的スタンプを電子データに付与することで、その電子データが改ざんされていないことを証明するものです。これまでは、請求書などの書類を受領した者が署名し、3営業日以内にタイムスタンプを付与することとされていました。改正後は、この署名が廃止され、タイムスタンプも最長で約70日(2か月とおおむね7営業日)以内に付与すればよいことになりました。また、利用者がデータを改ざんできないクラウドサービスを利用していれば、タイムスタンプは不要となります。2023年10月1日から導入されるインボイス制度でも、インボイスを電子データで保存することが認められています。

3)電子取引データ保存のルール

 電子取引データ保存ルールとは、電子的に授受した取引情報をデータで保存することです。 具体的には、領収書や請求書といった書類を、PDFファイルなどでメールで受け取った場合や、請求書発行システムなどを利用してWEB上やクラウド上で受け取った場合などは、そのやり取りした電子データをそのまま保存しなければなりません。水増し請求などの不正を防ぐため、取引後の電子データを変更することは禁止されています。これまで可能であった、紙にプリントアウトして保存することは認めらなくなり、電子保存が完全に義務化されました。ただし、インボイス制度が関連する消費上の書類に関しては、紙での保存が認められています。

個人事業主が準備すべきポイント

1)電子取引の現状を把握しよう

 電子取引データには、メールに添付されたPDFデータやECサイトで購入した領収書、クレジットカードやインターネットバンキングの利用明細など、様々なものがあります。まずは、この電子取引を全て洗い出すところから始める必要があります。

2)電子取引データの保存方法を決める

 電子取引で受領した電子データを保存する場所は、特にルールが決まっていません。パソコン内でも、クラウドサービスでも、DVDやUSBメモリーなどのどこに保存しても良いとされています。保存する場所が決まったら、データとして保存するためのファイル整理や保存容量を確保しましょう。大切なことは、税務署の職員に求められた際に、必要な電子データをすぐに取り出せる仕組みを整えておくことです。以下に記載している「可視性の確保」は、改正電帳法の電子取引データの保存の要件の一つになっています。この要件を満たした仕組みを考えなければなりません。

「可視性の確保」のための要件
・電子データを画面や書面に速やかに出力できるようにする
・電子データを保存するシステムの概要書を備え付ける
・検索機能を確保する
 ①取引年月日、取引金額、取引先について検索できる
 ②日付または金額の範囲指定で検索できる
 ③2つ以上の記録項目を組み合わせた条件で検索できる

具体的な方法としては、以下の2つの方法があります。

①検索機能に対応した請求書等保存システムを利用する
 要件を満たしたシステムか確認するための認証制度があります。市販のシステムで機能要件を満たすと認証を受けた製品には、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の認証マークが付与されています。

②検索機能を確保する簡易な仕組みを整える

出典:国税庁「電子取引データの保存方法をご確認ください」

 また、改ざん防止のために「真実性の確保」も、改正電帳法の電子取引データの保存の要件の一つです。「真実性確保」の方法として、以下に記載している3つの方法があります。

「真実性を確保」するための真実性の確保
・電子データにタイムスタンプを付与する
・訂正や削除を検索できるシステム、または訂正や削除を行うことが出来ないシステムで電子データの保存を行う
・訂正や削除の防止に関する事務処理規定を定め、それに沿った運用を行う

 タイムスタンプや市販のシステムを導入するには一定の費用がかかってきます。そこで、個人事業主にお勧めの方法としては、事務処理規定を作成し運用する方法です。方法としては、国税局のホームページより事務処理規定のフォーマットをダウンロードして、自分用にアレンジした事務処理規定作成をします。電子データを訂正・削除することを原則的に禁止することや、やむを得ず訂正・削除する場合は、「取引情報訂正・削除申請書」に取引情報や訂正・削除理由を記入することをルール化しておけば、真実性が確保されていると見なされます。尚、 事務処理規定のフォーマットは、個人事業主用と法人用の2種類があるので、個人事業主用をダウンロードしましょう。

3)青色申告を受けるための条件を再確認しておこう

 改正電帳法に則った保存方法を導入した場合、「優良な電子帳簿」として、青色申告特別控除が増額となります。青色申告の65万円の控除をを受けるには以下の要件のいずれかを追加で満たす必要があるので、再確認をしておきましょう。

・仕訳帳・総勘定元帳を電子帳簿で保存していること
・所得税・確定申告書・貸借対照表・損益計算書などの提出を、期限までにe-Taxで行うこと

ルール違反には注意を!

 改正電帳法のルール違反が発覚した場合、罰則が与えられることがあります。電帳法に違反し、罰則が科されるケースは、以下のようなものがあります。

①データ保存の要件を満たしていない
②検索要件が満たされていない
③保存期限が規定通りではない
④保存すべき期間が足りていない

①データ保存の要件を満たしていない

 具体的な例として、スキャナ保存の要件を満たしてないケースが考えられます。スキャナ保存をする際には以下の要件に気を付けましょう。

・解像度……200dpi(A4サイズで387万画素相当)以上で読み取れているか
・カラー画像……赤、緑、青それぞれ256階調(24ビットカラー)以上で読取れているか
・対象書類……スキャナ保存が認められている書類か

②検索要件が満たされていない

 具体的な例として、電子データの検索要件として対応できていないケースが考えられます。ただし、売上高が1,000万円以下の事業主は検索要件の対象外となります。

③保存期限が規定通りではない

 領収書などの紙書類を受け取った際、最長70日までに電子文書化する必要がありますが、処理が間に合っていないケースが考えられます。罰則までは規程されていませんが、確定申告前にまとめて処理した場合などは、注意が必要です。

④保存すべき期間が足りていない

 電子データ(帳簿)の保存期間は7年です。保存が義務付けられている期間中に、保存している電子データを破棄したケースが考えられます。個人事業主の場合は、白色と青色申告で異なり、国税庁のサイトでは以下のように示されています。

  • 白色申告者については、帳簿のうちの任意帳簿及び書類の保存期間は5年

  • 青色申告者については、書類のうち、決算関係書類及び現金預金等取引関係書類のいずれにも該当しない書類の保存期間は5年とされている。

  • なお、前々年分所得が 300 万円以下の青色申告者については、上記のほか、現金預金等取引関係書類についても、保存期間は5年とされている。

尚、欠損金の繰越控除を受ける場合は最長10年間、保存しなければなりませんので注意が必要です。

 主な罰則としては、青色申告が取り消しや、追徴課税が課されることもあるようです。隠ぺいや偽装など悪意があると判断されると重加算税の対象になることも、特に注意しておく必要があります。

まとめ

 改正電帳法について解説してきました。面倒だと思われた方も多いかと思いますが、電帳法のメリットも沢山あります。紙ベースで保管する場合は、保管場所や書類を見つけることに苦戦することもあります。しかし、電子データ保存になれば、省スペースや業務効率の向上が期待できます。また、ペーパレスを進めることになり、環境保護の観点や備品コストの節約にもつながります。
 税金関係の書類の電子化は、今後もどんどん進んでいき、それに伴い、今後も電帳法の改正が続いていくと考えられます。法改正をしっかり理解し、メリットを享受するためしっかり対応していきましょう。

今後も、皆さんのお役に立つ情報を発信していきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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