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2020年8月 春野亭日常 水城さん見守りフェスの記録 その12

【国立春野亭日常/水城さん見守りフェス vol.12】

 8月16日午前3時。扇風機の音が夕立の雨音のように思えて……「やべ!下の部屋これから雨漏りするんじゃないか? 水城さんが寝てるのに……」 

 目覚めた直後なのに、私の頭は水城 ゆう (Mizuki Yuu)さんがすでに四角い箱の中に横たわっていて、2階の和室ではなく1階の洋間に移されていることをハッキリ認識していた。 

悔しい! 悔しいよ、なんという私の現実認識的事務遂行アタマ! もう少し、勘違いしていたい。深夜の見守りフェスをまだ続けているんだと、今日も夢幻の世界の水城さんと現実世界でお話しするんだと…… 

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「ハハハハ!」「万里さんったら……アハハハ」階段の上から降ってくるなおみーぬの笑い声。 白衣を羽織りいかにも”駆けつけました”風の、若いお医者さんの足が一瞬とまどったように止まる。

「あ、失礼。こちらですー」と迎えに出ていた私は普通を装いつつも、あふれる微笑みを隠せないまま彼を案内する。私たちはやった。いまのこの瞬間までは、やりきったといえる。……多分、万里ちゃん以外の、私たちは。

 午前1時50分。 ベッドの上には、水城さんを膝に抱えた野々宮 卯妙 (Utae Nonomiya)万里ちゃん、ベッド脇、胸元に控える藤原 直美 (Naomie Doken Fujiwara) なおみーぬ、足元でマッサージを続けていた見守り人の山縣 理人 (Michihito Yamagata) ミッチー、山田愛(あいあい)、そして、息が止まったという連絡で駆けつけた北原 葉子 (Yoko Kitahara) 葉っぱさん。 

「なんで笑ってたの?」と小声で私。 「だって、万里さんが『おい、水城』ペシって頬を叩くから! それもけっこうな勢いで」となおみーぬ。

「ブふふふ」とこらえきれない私。 

いや、もちろん、万里ちゃんはマジだ。うっかりものでお調子もので、事務手続きとかめっぽう苦手な水城さんが、間違えて呼吸を止めちゃったんじゃないか、行こうとしてる道を間違えてないか、いったん引き戻して一緒に確認しようとしていたに違いない。 

「確認をはじめます。ご家族は揃っていますか?」と医者。 「家族はいません」万里ちゃん低く静かに、でもキッパリと。

ここで再び……ぐふふふ……と笑いを漏らす、直美と私。 

そう。”血縁の家族”はここにはいない。でも、私たちはいる。私たちを支えてくれるたくさんのみんなと一緒に。 若いお医者さんは「なんだ、この人たち?」って思ったんだろうな。でも平静を保ちながら、死亡確認をはじめる。誰に話しかけたらいいのかわからない様子で目が泳ぐ。

私が「こちらへ」と万里ちゃんに向かって話すように促す…… 確認終わって帰る彼を玄関外で見送る際「末期の友を、友だちみんなで交代で看ていたんですよ〜」とちょこっと説明。「え、そう、そうなんですか」そんなことってあるのか……というのと妙に納得した表情。 

そう、あるのよ。あなたもたまたま今夜当直担当だったので、水城ングの最期のコンテンポラリーアートに参加しちゃったね。そして、こんなことがあるってこと、記憶の底で覚えておいてくれたら、うれしいです。

 医者が帰るのと入れ違いに、葬儀社さんがやってくる。万里ちゃんと一緒に清めて、着替えさせる。さらに深夜3時から丁寧に打ち合わせ。帰っていったのは7時頃だったろうか。

 夜が明ける前に明ちゃん小見 明子 (Akiko Omi) いったん帰宅していた理子ちゃん市谷 理子 (Rico Michiko Ichitani) がやってくる。隣室に横たわるみずきさんに話しかけながら、お顔を整える。 

私たち見守り隊は、一気にイベント屋に変身だ。どっちかといえば、これは慣れたもんだよね。たくさんのイベントやリトリート、とくにIIT(NVCの国際集中合宿)などのカオスを、ぶつかりながらも乗り越えてきた実績がある。 

ここでも、春野亭のふすまホワイトボードが大活躍。これまでの見守りシフト表を消して、15日の納棺式、16日の旅立ちフェス(葬儀)、17日の火葬までのスケジュールを書き出し、メンバー調整、確認・決定が必要なもの、担当者、さらには懸念事項が次々と書き出され、決定されていく。

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ウェブサイト、FBイベントなど、誰が何をつくって、どの順番で発信していくかを決めていく……。 

水城さんは「オレがいつか亡くなったら……葬式とかいらないから。しばらくしてから『あ、あの人亡くなっていたんだな』っていうのがいいな」って言っていたな。 

残念! アンタの好きにはならないのだ、もう。 

私たちはここでフェスはやめられない。行くとこまで行かせてもらうよ……なんてやっていたら、春野亭2階のトイレが壊れる。なんでこのときに! 水城さん、いたずらはやめて!!! 

(トイレは、午後に合流した長田 誠司 (Sage Nagata) があっさり修理)

 こんな最中にピンポーン。一瞬「お見舞いかよ!」と焦ったがやってきたのは宅急便。森下 雅子 (Masako Morishita) さんからの心づくしの食料がまた! さっそく届いたドライカレーを誰かが(誰だったの?)ご飯を炊いて作ってくれ、ふとパソコン脇に置かれた。ありがたく、ありがたくいただく。染みる〜 あれは何時だったんだろう? 

午後3時に葬儀社さんが再びくる。水城さんを2階から1階へ下ろすため三木 義一 (Yoshikazu Miki) ミキティはじめここ数日の男天使たちが揃う。

 そして、4時から納棺式。司式の葉っぱさん@北原 葉子 (Yoko Kitahara) の声……現代朗読だ。ほんとうにからだと声と存在とが一緒くたになったメッセージ。私はキリスト教雑誌のライターもやっていたから、牧師たちが普段いかに多忙であらゆることに心を向けて心身ともに神経をすり減らして仕事をしているのかを知っている。

今回の見守りフェスは、たまたま葉子さんの夏休み期間と重なった。その貴重な時間を、喜びから、現代朗読、音読療法の師匠である水城さんの見守り隊に捧げてくださった。最初「徹夜は苦手で……」と言っていたのに、早寝して朝3時にこちらに入るというタイムスケジュールを自ら考案して実践してくれた。その実態あっての言葉が、部屋を満たす。 

やはり私は宗教者ってすごいなと思う。キリスト教でなくてもいい。お題目、おざなりでなく、ほんとうの思い、実態・存在・あたたかさをもって旅立ちに伴い、向こうに送り出してくれる存在って、残されたものにとっても、とても大切なんだ。 

水城さんの音楽が流れる中、みんなで水城さんを棺の中に移す。そして、三々五々2階へ移動してゴロゴロしたり、事務連絡の続きをしたり、フェスのとき機材どうするーなんて話をしたり……冷凍庫に入り切らなくて溶けかかったアイスクリームを食べたり……。

私は母に電話して、母と猫の生存確認。春野亭は屋根が焼けて暑い。冷房をしてもしても効かない。 

でも、階下は涼しい。涼しいところ、居るべきところを知っているムイちゃん(春野亭のアイドル猫)が、階下の水城さんに付き添っている。 

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……気づいたら寝落ちしていた。カレーの後なにも食べてなかった。泥のように眠るってこのことか。新しい朝がきた。 今日もフェスは続くよ!

 https://www.facebook.com/events/2412960955669800/ 

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(この記事への反応に対して書いたFBコメントから)
あえてあえて申し上げたいことは、多くの人が「素晴らしい人たちがいる」と書いてくださっていますが、実はそうではないんです。
普通の人がいる。いや普通というのはないな……。ひとりひとり、さまざまな凸凹を持った人がいる。水城さんも含めて。
その凸凹のある人達が、小さくても喜びから動くので、それが「素晴らしい働き」になるんです。凸凹は凸凹のままに。できないことはできないままに、やりたいことだけをやる。それが集まってこうなった。奇跡だとも思うけれども、これが世の中の、そして人間の本質なんだと今回身を持って知ることができました。感謝です。

#国立春野亭日常 #withYu #水城ゆう #essay

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