【エッセイ】読んだもののうち、とても刺激を受けたものは何ですか?
去年の暮れに「犬身」という小説を読んだ。けんしん、と読む。犬の魂を持って生まれてきた人間の女が牡犬の肉体を得て、陶芸家を生業としている別の女に飼育されるという物語だった。
犬と女は強い絆で結ばれ、やがて彼らの間には種族を超えた愛が育まれていく。しかしその飼い主は、実の兄から長年にわたり性的虐待を受けていた。犬はその兄のことが大嫌いだった。愛する女が嫌いな男に犯されている姿を、犬はただ見ていることしかできなかった。俺はその時の犬の気持ちに共感し、犬と同じ気持ちになって激しく打ちのめされ、そして性的に興奮した。そんな自分がとても汚いものに思えて仕方なかった。
そして、「この犬は俺だ」と心から思った。ペニスを立てているだけの無力な犬の姿が、好きな女が彼氏とセックスしている話を本人から聞かされていた頃の俺と重なった。
一本の小説にこれほど没入した経験はかつてない。読み終えた「犬身」を図書館に返却したあと、すぐに電子書籍で購入しiPhoneにダウンロードした。ときどきKindleで表紙を眺めては、無力感を噛み締めている。まるで秘密の宝物でも愛でるかのように。
(了)
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