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【レポート】早池峰山の「お山かけ」を再現!たいまつを灯し、山頂を目指す


昔、集落を代表する若者たちが1年の安全を祈って早池峰の山頂を目指した「お山かけ」。雑誌「パハヤチニカ」の特集で行われたこのお山かけを、20年ぶりに再現して行った本企画のレポートをお届けします。

お山かけとは?
お山かけは昔、地域・集落の安全、また海の安全を祈るという意味合いで、内陸の人々だけでなく沿岸の方、遠くは気仙の方から漁をやってる人たちが来ていたそうです。沖に出て見えるのが早池峰、漁師にとって守り神的存在でした。昔は信仰としての意味合いのお山かけしかなく、今の観光としての登山のように気軽に登れるような山ではありませんでした。
また、お山かけをする当時の人々は、一週間くらい前から精進料理で禊をし、前日早池峰神社周辺の集落の人々の家に宿をとり、神楽を奉納して出発したそうです。
今回つくる大学で行うお山かけも、ー週間精進料理とまではできませんでしたが、できるだけ昔の人々が行っていたのと同じように、麓の集落で神楽を奉納して出発することとしました。
当時は麓の集落の若い人が先達をつとめ、3尺くらいのマダノキ(シナノキ)の皮でつくった松明を10~20本くらい担ぎ、10人くらいで登って行ったそうです。松明は灯りとしてはもちろん、狼などの獣よけや魔除けの意味もあったのではないか、と千葉和さんと鈴木廣志さんは言います。

〇たいまつづくりとお山かけの話

お山かけを行う前に、 山を登るときに使う松明づくりと、昔行われていたお山かけについてお話を聞く講座「たいまつづくりとお山かけの話」を6月17日(水)に開催しました。

講師を務めたのは、鈴木廣志さんと千葉和さん。鈴木廣志さんは昭和5年生まれ。大出早池峰神楽の庭元でお山かけが行われていた当時先達を務めたこともあり、20年前にパハヤチニカの特集の中で再現されたお山かけツアーでも先達を務めた方です。その再現ツアーが行われた当時鈴木さんは70歳だったのですが、「まるでカモシカのように山をひょいひょい駆け上がっていた」そうです。

講座の始めに鈴木さんからお山かけの歴史についてお話を伺い、その後から、お山かけ当日に使う松明づくりを行いました。

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松明づくりにもっとも適していると教えていただいたマダノキ(シナノキ)がなかったため、ヤマブドウの皮をとり松明を作りました。ツルを切り採り、皮を丁寧にはがし、束ねる作業。

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慣れない皮の扱いに苦戦しながらも、一人ひとりの個性も現れる松明が7本出来上がりました。完成した松明はお山かけまで、雨が当たらぬ風通しの良い場所に吊るして、乾かして保管しました。

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〇お山かけ

天候不良で7月に予定していたお山かけは、8月19-20日に延期しての開催となりました。
つくる大学のスタッフや関係者、取材のカメラマン、モニター参加の方を含め、13名で早池峰の頂きを目指しました。

当日の行程記録
■19日
17:00 参加者集合
   オリエンテーション
   餅つき
   夕食
18:30  神楽奉納
19:00  荷物の整理
19:20  早池峰神社参拝、出発
20:30  馬留登山口経由
■20日
1:00   小田越到着(軽食)
1:30   小田越出発
4:30  早池峰山山頂到着
     御来光を拝む
5:20  下山開始
7:30  小田越登山口経由(軽食)
10:30  又一の滝
11:30  馬留登山口経由
12:45  早池峰神社到着
13:00  早池峰交流館・昼食
14:00  解散

餅つきと神楽の奉納

早池峰を目指す前に、餅を携行食として持っていくためにみんなで餅つきを行いました。ついたお餅は丸めて、笹の葉でくるみました。

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餅は「おそなえ」と言って、昔は山へ背負って行って、神様に奉納し、それを持ち帰って待っている村の衆に分けたりしたようです。ご利益にあずかるということでしょうか。以前、早池峰神社のお祭りでも、山頂に若者が「おそなえ」を持って行って、帰って来てからその餅を専用の丈夫な神輿に入れ、本殿前の石の階段から神輿をひっくり返して落とし、それをみんなで奪い合う「おそなえ取り」という行事が行われていたそうです。そのお供えがご神体で、新たな命の再生の意味があるようです。きっと古い信仰のカタチなのでしょう。
~千葉和さんのお話より~

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夕食後、昔お山かけを行った人々がそうしたように、「大出早池峰神楽」による鶏舞を奉納しました。

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早池峰の頂き目指し、出発

神楽を奉納したあとは、いよいよ早池峰の頂を目指して出発。先達を務めるのは、千葉 和さん。20年前にお山かけを実際に体験した方です。

早池峰神社内にある「起点」から、まずは「馬留登山口」を目指し歩き始めました。

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馬留登山口までの約1時間30分ほどは平地のアスファルト道路を歩きました。この日は新月。天気にも恵まれ雲もなく、建物の光や街頭も少ないため、とてもくっきりと肉眼で見ることができました。歩きながら見上げると一面の星空、いくつもの流れ星を見ることができました。

馬留から小田越へ

馬留登山口へ到着し、松明に火を灯しました。

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マダノキがなく、代わりにヤマブドウでつくった松明は、先達が頻繁に振り続けることで、明かりを灯しました。

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とは言え、この松明の灯りと星明かりだけでは総勢10名ほど行列の最後尾には光が届かず、ヘッドライトの灯りも頼りに、歩みを進めました。道も狭く、沢を何度か渡る、特に神経を研ぎ澄ませて歩まねばならない道中を進みます。

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山へ意識を向けることはもちろん、疲労や眠気を乗り越えながら自分とも向き合う時間となりました。途中薬師堂などで休憩を何度か挟みながら、小田越に到着したのは日付をまわって深夜1時近くになった頃でした。

ついに早池峰の山頂へ

小田越で軽食をとりながら休憩し、早池峰の山頂を目指して再び歩き始めたのは午前1時30分頃。

疲労もピークを迎えるころになり、それぞれが自分の身体の全力を持って、早池峰に挑みました。高山帯に入ると、満点の星空が歩みを応援してくれるようでした。ちょうど5合目に差し掛かる頃、だんだんと空は朝焼けの白みがかったオレンジ色になってきました。

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ここからは山頂で御来光を拝みたいという気持ちが、前へ上へと足を進めました。なんとか山頂に辿り着き、そこには見たこともない素晴らしい景色が広がっていました。

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御来光が顔を出したのは4時45分頃。

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この日は、なかなかお目にかかることができないといわれる、影早池峰もくっきりと雲海に映っていました。

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その感動は、なかなか言葉では言い表せませんでした。とにかく、一緒に頂きを目指した全員にとって、一生に一度の身体と心に刻まれる大切な体験になったのではないかと思います。

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その後は、それまで歩いてきた道のりを辿って帰路へ。
夜に山頂を目指して歩いた道のりは明るくなって見てみると、よく大きなけがもなく無事に歩めたものだと思いました。

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約7時間ほどかけて早池峰神社に戻り、大きな事故なくお山かけを終えられたこと、御来光を無事に拝めたことへの感謝の気持ちをこめて早池峰神社を参拝し、長い長いお山かけの再現ツアーが終了しました。

お山かけを終えて、参加者の感想

・お山かけを再現するということで、餅つきや神楽、参拝など登山以外の要素もあり、色んな角度から楽しめた企画だったと思います。日中歩いても大変そうな距離を歩き通したことや朝日を見れたことなど、一生の中でも貴重な体験をすることが出来ました。参加する機会をくださったことに感謝です。ゴールしてからは、思考機能が低下してしまいましたが、終わってみるとまた参加したいという思いです。

・今回は麓の大出早池峰神社を起点に、薬師岳の中腹をぐるりと経由して夜通し歩き、麓の集落から連なる山岳信仰の、その一端を感じることができたような気がします。馬留〜小田越までの道では、いくつもの沢や滝を渡渉して、山が水を集めて川となって集落に注いでいく様や、途中で森がひらけて早池峰山の稜線が拝めるポイントがあったり、こうして徐々に、体感的にも精神的にも霊山に入っていく体になっていくのかなと思いました。先達に付いて麓から歩いてみて、山に入っていく感覚というか、これは、かつての人々にとっては登山というよりも「あの世」に入っていくような感覚だったのではないかと妄想しました。危険な箇所などもありましたがそれもまた楽しかったです。怪我なく帰ってこれたのも和さん、皆様のサポートのおかげです。本当にありがとうございました。

・20代の頃から東北各地の山に行き、早池峰にも何度も登っていますが、今回の山行はその中でも上位に位置する山行でした。早池峰神社からの長時間の夜の登山の後に見た御来光、早池峰の影、早池峰、薬師岳の山容はどれも忘れられない体験となりました。それから、何もよりも先人たちが大切にしていた自然と人とのつながりを実体験を通して学べたことが私にとっての財産になりました。

最後に

このお山かけの再現企画で目指したのは、信仰の対象としての早池峰を、自分たち自身の身体と心で体感することでした。振り返ると、参加したそれぞれが、自然そして早池峰の偉大さ、その中での人間という存在について体感できる道中となりました。山への信仰の話を聞いて理解しようとすることはできるかもしれませんが、このように自分たちの身体で感じることができたことは、得難い経験になったのではないかと思います。

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運営する事務局としては、モニターで参加いただいた方々のおかげで様々運営面での課題も明らかにすることができました。この「お山かけ」というものを、今後どのようにつないでいくか、引き続き検討していきたいと思います。
まずは大きな怪我や事故なく、みなさんで無事に道中を歩めたこと、そのご協力に感謝申し上げます。今回のおおいなる挑戦に力を貸していただいた方々、一緒に早池峰と自分の限界に挑戦してくださったみなさま、本当にありがとうございました。

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