見出し画像

小石川植物祭で考えたこと

1、小石川植物祭に行ってみた

今年度の前半のNHKの朝ドラ「らんまん」ではイチョウの精子発見の瞬間がドラマ化されていました。
このシーンが朝ドラになるとは!
植物好きの私はおおいに感動しました。
その精子発見のイチョウが今も小石川植物園に残っているのは有名な話。
先日、第二回目の開催となった小石川植物祭に出かけたところその歴史的なイチョウの枝などから採った染料も加えて染めたというTシャツがありました。すぐそばではそのイチョウを見上げることができます。
 (※注)


小石川植物園の開園は明治10年。
日本でもっとも古い歴史のある植物園です。
しかも江戸時代初期から小石川御薬園として薬草などを長きにわたって栽培してきた土地です。
そこでのお祭りはどのように行われるのでしょうか。
植物好きの私にとっては一種の聖地でもあるので、
人が多すぎて植物が荒らされたらいやだなあなどと少しだけ心配していました。
でも、行ってみるとその心配は一掃されました。
期間は3日間、出展ブースは全部で20のみ。
小石川植物園はたいへん広いので、そこに昔ながらの地味なテントが20ほど点在していても景観の印象は変わりません。
人の出はいつもよりはもちろん多いのですが、ほどよい感じで、芝生に家族連れがシートを広げ、ボランティアの学生さんなどのスタッフが受付をし、
パトロールをするボランティア団体の方々が見守っている感じは景観や雰囲気を壊すものではなく、むしろ植物園を支える人の力が顕在化して集結しているようでとてもいいな、と感じました。


出展者は応募の100チームから審査して20にしぼられたという少数精鋭です。
例えば冒頭のイチョウの染物。
区内の老舗染工場とテキスタイルデザイナーのコラボの出展で、イチョウの染料やシルクスクリーンを用いたワークショップを行っていました。
また、たとえば「植物に読む物語」というコーナーも。
図書システムの会社と区内デザイナーのコラボで、小石川植物園の出てくる本が並び、代表的な本の言葉のスタンプを使ってカードが作れます。
私は大好きな寺田寅彦の随筆「どんぐり」でカードを作ってみました。
コナラの実と葉っぱのカードは何種類か色が選べます。虫食いの葉っぱがかわいかったです。
 


その他にも、根っこによる違いに合わせたガラスの植木鉢を販売する「根っこのうつわ」
「小石川ボタニカルクラフトコーラ」はぜひ飲みたかったですが、混んでいたので断念しました。
そして「小石川植物園スタッフによる「葉っぱのかるた」や植物の解説。植物園の貴重な話が聞けるオープンエアトークも。
ブースに立ち寄って個性的な工夫を楽しみつつ、あいまには温室に立ち寄ったり、古くに植栽された様々な大木や秋の木の実を眺めて散策しました。
 

見終わって出てくるころ、一つ一つが小石川植物園の植物を大事にする出展だったことが自然と感じられました。
植物にアプローチする道がこんなにも多彩だったとは。
そして、ようやく私はああ、これは小石川「植物園」祭ではなく、「植物」祭だったのだ、と気付きました。
「植物」が主役のお祭りだったのです。
今までにない、新しいイベントの形。

2、どうして、どのように開催されたか


小石川植物祭の開催10日ほど前に、SOCIAL GREEN DESIGNによる「小石川植物園の開き方」というオンライントークが開かれました。そこで視聴したことをまとめてみます。

話しはまず建築ユニットKASAの佐藤敬さんとコバレバ・アレクサンドラさんが小石川植物園の脇に引っ越されたことにさかのぼります。
植物園の豊かな緑が手近に楽しめることを喜んだお二人でしたが、やがて、植物園と周囲との関係は必ずしもいいわけではないということに気づいていきます。植物園の落ち葉が迷惑という言葉も聞いて、みんなが植物園を資源としてとらえられるようになったらいいな、と考えるようになっていったそうです。植物園と地域をどうつないだらいいかという発想から、小石川植物祭が次第に形になっていったようです。
事務所のリノベーションを通して、地域の人とのつながりができ、植物園にも交渉して話が具体化していきます。
お二人の建築ユニットKASAはヴェネチアビエンナーレで「特別賞」を受賞したり、瀬戸内国際芸術祭に出展したりと幅広く活動していますが、一つのビジョンに貫かれているように感じました。
そのビジョンを表す佐藤さんの言葉を要約すると次のようなものでした。

「町づくり」という言葉があるが、「つくる」より「繕う」の方がぴったりくる。  
もう街はある。だから「つくる」とは違う。
「繕う」というのはいわば金継ぎのようなもの。 
割れたものを接着剤で直して元通りにするのが修復。
金継ぎは、修復と違って元通りではなくプラスアルファして前とは別のものにしていく。ネガティブなものをポジティブに変えることだ。
付け加えることで関係性を変えて行く。

この言葉を踏まえて今回の小石川植物祭を眺めると、豊かな緑と歴史を持つ植物園の魅力は失われず、一つ一つのコーナーの個性ある植物へのアプローチが金継の金のように施されることで、植物園の価値が掘り出されてゆるやかに地域に開かれている印象をうけました。
ワークショップを一つ二つでも体験することで、参加者は出展者のフィルターを通して、植物を味わい、その刺激を受けてまた散策を続けることができます。
そして門を出るとき、小石川植物園への理解が深まったり、癒される感じが増したりなどそれぞれの感覚で、もっと植物園を好きになっている感じがしました。
きらびやかな装飾は一切ないけれど、もともとの財産を生かして、さりげなくプラスアルファしていく。これは今にふさわしい新しいイベントの在り方ではないかと感じました。

3、もし自分たちの地域でなにかやるとしたら

小石川植物祭をヒントに他の地域でも、古い緑地や植物園などの価値を掘り起こすということが可能なのでしょうか。
それにはもう少し、現実的な部分に目を向ける必要があるかもしれません。
オンライントークで聞き取ったことを参考に、わかる範囲で考えてみます。

建築ユニットKASAの優れたビジョンと実行力からスタートしたものですが
他にもこのイベントを実現させた大きな力があると思われます。
小石川植物園と行政サイドである文京区、それからボランティアスタッフの方々。
まずそもそも小石川植物園が了解しなければ、話は進みません。
恐らく研究はもとより、様々な植物園の抱える課題と向き合うたいへんな忙しさの中、柔軟に「やってみよう!」となった専門家やスタッフの方々に本当に敬意を表したいです。
オンライントークでは、話しを進めて行く中で、小石川植物園がGOを出しているということをなかなか周囲の人に信じてもらえなかった、というくだりがありました。それだけたいへんな決断だったのでは、と想像しました。
それから、助成やイベントの運営のサポートでは、文京区の社会福祉協議会フミコムが支えになっているようです。
「フミコム」は地域の問題は地域で解決!と目的を明確にして企業などとも橋渡しをする社会福祉協議会で、名前通りに一歩踏み込んだ活動をしているように感じました。
そして事前準備、当日運営、事後のレポートなどは実行員とともに、多くの区民ボランティアスタッフが分担して担っていたようです。
こうしたことが他の場所でどのくらい実現できるのでしょうか。
KASAのお二人のたぐいまれなセンスがあったから、文京区だから、小石川植物園だから、という部分は確かにあると思います。
でも、同じものを作るのではなく、その地域なりのやり方で、この植物祭をヒントに方向性を形作ることで、未來につながるのではないか。
私の住んでいる地域、または、何か課題を抱えている古い緑地、植物園などではどうだろう。
簡単に、新しく作り変えるという発想をするのではなく、掘り起こすべき価値がまだ近くに眠っているのではないか。
その考えを未來につながる行動へのヒントにしたい、と感じました。

(※注)小石川植物園は落下したものも含め動植物の採集は禁止です。
  小石川植物祭の出展に用いているものは特別な許可を得ています。

●小石川植物祭


●小石川植物園

●小石川植物園を応援しよう!

https://utf.u-tokyo.ac.jp/project/pjt08

●SOCIAL GREEN DESIGN


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?