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【弁護士・佃克彦の事件ファイル】赤坂警察署裏ガネ事件_Part2

買ってもいない野菜の代金を八百屋に払う男たち


今井氏が起こした住民訴訟は、赤坂署の所長たちが不正に流用したお金(確認できたものだけで42万7000円)を東京都に返せ、というものですが、この訴訟で被告側から出た最初の答弁は、「今井氏の監査請求は却下されたのだから住民訴訟はできないはずだ」というものでした。つまり、この訴訟も監査請求と同じく門前払いにせよ、というのです。

予想通りの主張です。被告側はとにかく、今井氏のこの住民訴訟の道をふさぎたかったようです。

被告側のこの答弁に対してこちら側は第2回期日に、「こちらの提訴が違法なのではなく、監査請求の『却下』の方が違法なのだ。住民訴訟が認められないわけがない。」という反論をしました。

するとその次の第3回期日で、被告はいきなり、こちらが東京都に返せと求めている金額の全額(42万7000円)を東京都に払ったとして裁判の終了を求めてきました。

こちらが払えと言っているお金の全額を被告がおとなしく都に払ったのであれば、それで裁判の目的は達成されることになりますから、裁判は終わることになります。法律的には、被告が原告のお金の請求に対して弁済をしたという主張(弁済の抗弁)が認められ、原告も裁判の目的を達したことになって裁判が終わるのです。

しかし、被告が出してきたこの弁済の抗弁はおかしなものでした。被告の言い分は次のようなものだったのです。

赤坂署の人びとは、お金を横領したり不正流用したりはしていない。したがって損害賠償債務は存在しない。しかし、身の潔白を立証するためには「参考人」として名簿に載っている人たちのプライバシーを明らかにしなければならず、また、捜査上の秘密を公にしたり、公務員の守秘義務にも違反しなければならない。そのような弊害を招くことは本意でないので、本当は違法行為はしておらず損害賠償債務は存在しないが、原告の請求するお金を都に返還する。

被告の主張のおかしさを解説しましょう。

そもそも「弁済の抗弁」というものは、お金を支払う債務が存在することを前提として、そのお金を支払うことによって初めて認められるものです。たとえば、私たちが野菜を買うとき八百屋さんにお金を払いますが、八百屋さんへのお金の支払が「弁済」として認められるのは、野菜を買ったために代金支払債務が存在しているからなのです。野菜を買ってもいないのに「野菜の代金だから受け取って」と言って八百屋さんにお金を渡しても、そもそも野菜の代金支払債務がない以上その支払いが「弁済」になることはありえず、法律的に分析すればそれは八百屋さんにお金を贈与したことにしかなりません。

被告は「悪いことはしていない」というのですから、損害賠償債務は存在しないと言っていることになります。にもかかわらずその損害賠償債務の弁済をしたという被告の主張は、明らかに矛盾しているのです。このまま訴訟を続けていくと赤坂署の不正が明らかになってしまうため、被告側は、なんとか早く裁判を終わらせようとしてこのような理屈を考えたのでしょうが、このような理屈は成り立たないのです。

うやむやにはさせんぞ


なんとかこの事件の真相をうやむやにしようという被告側の思惑を感じた私たちは、そうはさせんぞと、先ほど述べたような反論を展開しました。

ところで被告側の言い分は、法律的におかしいだけでなく、社会一般の常識からみてもおかしいものです。被告側は、自分たちの潔白を立証するためには参考人たちのプライバシーを明らかにしたり捜査上の秘密を公にしたりしなければならないと言いますが、本件で問題となっているのは、名簿に載っている人が実在するかどうか、実在するとしてその人は名簿通りの日当を受け取ったか、に過ぎません。名簿に載っている人たちのプライバシーや捜査の秘密を明らかにしなければならないことなどないのです。被告側は、監査委員の却下の理屈と同様に「プライバシー」だとか「秘密」だとか、さも大切な利益が侵されそうなことを言っていますが、中身は何もないのです。

それより何より私たちにとっての最大の疑問は、「もしお金の支払が事実だとしたら、東京都の側はどういう理屈でそのお金を受け取ったのだろう」ということです。先ほど八百屋の例を出しましたが、野菜を買ってもいない人から「野菜の代金だから取っておいて」と言われてお金を差し出されても、八百屋さんとしては気持ち悪くてそのお金を受け取れないでしょう。本件の被告は、「悪いことはしていない」といいつつも東京都に対して「損害賠償金だから受け取って」と言ってお金を払ったことになりますが、そんなお金を東京都はどうして受け取れたのでしょうか。この財政難の折、東京都はそういうわけの分からなお金も受け取ることにしているのでしょうか。

被告側の主張はいよいよ混迷を深めていきました。

Pat3に続く

佃法律事務所 弁護士 佃克彦
“正義の味方”にあこがれて弁護士になり、気がつけばもう30年。さまざまな事件に出合い、数多くの経験をしてきました。事案に応じて他の事務所の弁護士と連携し、フットワークは軽く、しかし強い信念を持って皆さんの人生やお仕事における前進のお手伝いを致します。お気軽にご相談下さい。

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