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【弁護士・佃克彦の事件ファイル】政務調査費返還請求事件_Part2

あ…やっぱり…


さて、私たちオンブズマン側は、早期決着のために請求内容を208件から一気に8件に請求を絞ったのですが、脳裏をよぎる不安もありました。
 
「被告側はこちらの請求金額を全額支払って訴訟を終わらせようとするのではないか?」
 
そうです。赤坂署事件の被告と同じ戦法を自民党品川区議団も使ってくるのではないかと懸念したのです。

このまま訴訟を続ければ、被告側は、8件の支出(キャバレー・パブ・カラオケバー・ライブハウスでの支出)について、調査研究のための支出だということを言わなければなりません。そしてまた、これらのお店に行った議員が法廷で証人尋問に晒されることも覚悟しなければなりません。証人として法廷に引っ張り出されたら、「キャバレーで何を研究した?」「ライブハウスで何を話した?」ということをしつこく尋ねられることが確実です。そのような目に遭うくらいなら、原告の請求している29万円を支払って裁判を終わらせた方が得だ…と考えることは多いにあり得ます。私たちは、そういうイヤな予感に苛まれました。
 
すると、あいにく予感が的中してしまいました。
 
自民党品川区議団は、2004年1月、こちらが8件に絞った請求金額の全額(遅延損害金も含めて合計約31万円)を品川区に支払い、訴訟の終了を求めてきました。

判決の心配り


私たちは、こちらが請求を絞るのを待っていたかのようにお金を支払って訴訟を終わらせようとする被告の対応は信義則に違反するとか、あるいは、被告の31万円の支払は法律上の弁済にあたらない等の主張をして訴訟が終わってしまうことに抵抗しましたが、裁判所は訴訟を終結してしまいました。
 
こうなると、判決の予測はつきます。

こちらが支払を求めた金額の全てを被告側が支払ってきた以上、こちらの請求は「棄却」ということで終わりになります。自民党品川区議団がそれぞれのお店で何をしてきたかの解明をすることなく、こちらの敗訴という形で訴訟は終わってしまうのです。
 
2004年4月13日、判決が言い渡されました。

結論は予想通り「原告の請求を棄却する」というこちらの敗訴判決でした。
(もっとも、被告側にお金を支払わせるという目的は達している以上、敗訴とは言いながらも実質的には勝訴なのですけどね。)
 
被告側がこうして請求額全額を支払ってきた場合、判決を書く裁判所としては、特にそれ以外の細かい認定判断をする必要はありません。しかしこの裁判所(藤山雅行裁判長・廣澤論、加藤晴子裁判官)は、被告側の政務調査費の支出が違法だったかどうかについて踏み込んだ判断をしました。
 
判決は、8件に絞った個々のお店の様子について、

「店内はカラオケと話し声が大きな音量で流れていた」
「店内にはミニスカートの若いホステスがいた」
「店の中には大きなボリュームの音が響いており、相手が何を話しているのかも聞き取れない状況だった」

等と逐一細かく認定をしました。
(裁判所がこういう認定をした陰には、前述の通り、オンブズマンのメンバーと千葉弁護士が、領収書に記載されている店を1軒1軒まわってその実態を調査したという地道な活動がありました。)
 
そしてそのような認定を前提として、

「上記の事実によれば、本件各支出がされた場所は、女性店員による接客が行われるか、大きな音響が常に響いているかのいずれか又は両方に該当するものであり、…意見交換や会議を行うにはそぐわないものであるばかりか、通常は遊興のみを行う場所であることが一見明白である。」

「本件各支出は、政務調査費の目的外の支出であると認定せざるを得ない。」

と断じました。しかも、被告側の一連の訴訟対応について、

「原告の立場からすると、区議団は、自ら最終的には政務調査費の使途に問題があったことを認めざるを得ない状況に至る事態であったにもかかわらず…、自らそれを明らかにすることをせず、訴訟の終局が近づき、使途に問題があったことが白日の下にさらされる可能性が生じるや、他の会派も同様の支出を行っている旨の主張をしたり、最終的に問題となった政務調査費のごく一部を返還することで、敗訴判決を回避しようとしたものであるかのように感じられるのも無理からぬところである。」

と、私たちに理解を示した説示を盛り込んでくれました。

第2次訴訟の提起


かくして、自民党品川区議団を相手取った政務調査費の返還請求訴訟は終わってしまいました。赤坂署事件と同じく、判決まで漕ぎ着ける前に“強制終了”させられたわけです。しかしこれでは腹の虫が治まりません。
 
この訴訟で208件を8件に絞ったのは、この8件について詳しく証人尋問をして政務調査費の濫費の実態を明らかにするためだったのです。ところが被告側による8件分31万円の支払によってその機会が失われてしまったのですから、取り下げた200件について改めて責任を問う必要があります。
 
かくして品川区民オンブズマンの会は、取り下げてしまった2001年度分の200件と、その後に発生した2002年度分の154件の飲食遊興と合わせて、2004年7月6日、769万円の支払を求める住民訴訟を改めて提起しました。

part3へ続く

佃法律事務所 弁護士 佃克彦
“正義の味方”にあこがれて弁護士になり、気がつけばもう30年。さまざまな事件に出合い、数多くの経験をしてきました。事案に応じて他の事務所の弁護士と連携し、フットワークは軽く、しかし強い信念を持って皆さんの人生やお仕事における前進のお手伝いを致します。お気軽にご相談下さい。

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