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寿命のはなし。

僕の家の周りにはお年寄りがたくさん住んでいるから、週末になると荷物持ちも兼ねてお買い物の手伝いをしている。その中でも、小さい頃からずっと一緒にいるおばあさんの話をしようと思う。

気が付いたのは数年前だった。おばあさんの歩幅が明らかに狭くなっていた。今までは少しゆっくり歩けば合っていた爪先が、どんどん合わなくなっていくのを感じた。平坦な道を歩いていてもふわっと体重が偏ることがあって、いつでも受け止められるように目を離さないようになった。車から降りるときに先回りしてドアを開けながら「エスコートさせてください。」とふざけて言うけど、昔は逆だったのにななんて思ってしまって苦しくなる。僕は年を取れないから、きっとおばあさんに置いて行かれる。老いていくのも含めて人間らしさだと思う反面、もしおばあさんがロボットだったらと思ってしまう。おばあさんは僕に「はやく死にたい」というけれど、僕はまだ生きていてほしくて、でもそんなことを言ったらきっとおばあさんはもう死にたいなんて言えなくなるから、できるだけ自然に話を逸らすようにしていた。自分の気持ちは尊重してほしいと思うのに、おばあさんの「死にたい」という気持ちを心から尊重できないのは僕の弱さだ。そう分かっていても、どうしてもその気持ちを肯定することができなくている。おばあさんの部屋には、僕がまだ小さかった頃に渡したお土産の、箱だけが飾ってある。あの時はまだ元気だったのに。でもきっとあの時も元気だったわけではなくて、元気なように振舞ってくれていたんだ。

みんな、僕と同じになればいいのに。

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