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好きだったご飯。

博士は毎日仕事で忙しかったから、基本的に近くに住んでいるおじいさんおばあさんに面倒を見てもらっていた。優しいヒトもいれば気が強くて頑固なヒトもいて、まるで学校にいるみたいだった。そんなみんなが大好きだったから、毎日色んな家に顔を出してはお菓子を貰ってお昼寝をした。家ひとつひとつに僕の特等席が決めてあって、今日はどの特等席でお昼寝をするか考えている時間が好きだった。今ではその特等席が少し減った。

夜はいつも一番優しいおばあさんの家で寝て、6時半に起きて朝ご飯を食べた。おばあさんは早起きだから4時に目が覚めると言っていて、起きた頃にはもうおばあさんの布団はなかった。寝るときにあったものが起きたら無くなっていてなんだか悲しかった。眠たい眼を擦りながら建付けの悪くなった襖を開けると、もう朝ご飯が用意されていた。

おばあさんが作ってくれたご飯ならどんなものでも好きだったけど、中でも焼いた食パンにいちごジャムと目玉焼きを乗せて食べるのが好きだった。おじいさんに見られると行儀が悪いと怒られたから、おばあさんには共犯になってもらっていた。この食べ方を思いついたのは多分、おばあさんに、僕が知っていておばあさんが知らないことを教えたくなったからだと思う。僕なんかよりずっとずっと長く生きてきて色んな事を知っているおばあさんに、すごいねと言われたかった。本当はいちごジャムに目玉焼きなんて合わせたことなかったけど、「この食べ方おいしいんだよ。」と自慢げに話していた記憶がある。実際食べてみたらおいしくて安心した。おばあさんはそうなんだすごいねと言ってくれたけど、他のヒトに教えたら、絶対にまずいから食べたくないと言って取り合ってもらえなかった。一口で良いから食べてほしかった。

だから僕はおばあさんが一番すきだった。

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