わたしの喫茶店探訪【吉祥寺回想編】
先日の「ジャズとの出会いの場」の記事を書いていた際に、書ききれないくらいたくさん吉祥寺の喫茶店が思い浮かんで来ました。まだ読まれていない方はこちらから↓
ジャズの流れる場所だけでない、ジャンルも雰囲気もさまざま、カテゴライズせず、そしてたとえ閉店してしまっていたとしても共感してくださる方がひとりでもいらっしゃれば嬉しいので、記録したいと思います。
1. 茶房武蔵野文庫
喫茶店紹介と言いながらも最初に紹介するこちらは私にとってはカレー屋さんといった方がしっくりきます。カレーの味で衝撃を受けたのがこのお店。お店の名前からして、「あぁ、武蔵野にわたしはいるのだ」と文学的気分で本当によく訪れたお店です。ごろりと丸ごと大きなジャガイモがのり、そこにまた大きめのよく煮込まれた鶏肉がごろり。スパイスも独特の配合で媚びない辛さ。喫茶カレー激戦の吉祥寺ですが、わたしはこのお店のビリっとくる味わいがスキ。コーヒーだけ飲みに、という気持ちにはなれず(店内もカレーの香りがいっぱいなので、それを避ける方が難しい)。私にとってカレーライスのあとコーヒーを楽しむお店。セットのキャベツのサラダ、ラッキョウに高菜だったかな?ずっと変わらない味です。遠い地にいても口の中で味が蘇りそうなくらい、大好き。器も福岡の小石原焼きで統一されていてよい雰囲気です。
2. ゆりあぺむぺる
吉祥寺に住む作家志望の友人がいました。彼女とはしょっちゅう喫茶店で人生を語り、彼女の書いた小説を読み、私の描いたイラストをみてもらい、大いに恋に悩み、励まし合い。。。思い出すとちょっと恥ずかしいくらいモラトリアムな学生時代を送っていました。ロマンチストでフェミニンな彼女との待ち合わせは「ゆりあぺむぺる」でした。アールヌーボーな照明、花柄のテーブルクロス、クラシカルな木の椅子やテーブル。いつも少し前に彼女は着いていて、ノートに何かをしたためてていました。彼氏と行くのは申し訳ないなと思っちゃうくらい古き良き乙女の世界です。いろんなことに悩んでいた日々だけれど、今思えばなんと楽しい日々だったのでしょう。今もお店は健在と知り嬉しくなりました。そうそう、この懐かしい窓際の席。
3. Bois ボア
井の頭線南口からすぐの場所にあった純喫茶です。残念ながら2007年(もうそんな前とは!)に50年の歴史に幕をおろしました。店内に飾られていた東郷青児の大きな絵が印象的した。それで初めて画家・東郷青児を知りました。奥の席は柔らかい照明になり、吉祥寺の喧騒からはかけ離れた静寂に、真っ白なカバーのかかったソファーチェアがいかにも純喫茶。けれどどこかレトロフューチャーな雰囲気もある独特な空間に想像力をかきたてられたお店でした。ひとりでくつろいでいると眠ってしまいそうなほど。ついつい長居したくなり、コーヒー一杯のつもりがお代わり、ケーキと注文してしまうのでした。Boisとはちなみにフランス語で「木」のことです。東郷青児画のマッチも懐かしい。記念とっておけばよかったかな。本当に本当になんとも心地よい時間を過ごさせていただきました。この場を借りて賞賛とお礼を。
3. Penguin Cafe ペンギンカフェ
もうだいぶ前に閉店してしまったので、わたしの記憶も曖昧になってきているけれど、「Penguin Cafe ペンギンカフェ」はとにかくおしゃれな場所でした。80年代後半くらい、原宿の雑貨店NICEと並んで雑誌オリーブやanan で常連だったこのお店。中学生〜高校生だったわたしは思い切り背伸びして、友人とその店の扉を押しました。雑貨屋も同じビルに併設されていて、そこで買った時計やグラスはずっと宝物でした。窓際の席で少し緊張しながらお茶を飲んだ記憶がありますが、通ったというよりも、その憧れにふれたことで喜びを感じていたように思います。同じようにその不在を惜しむブログをいくつかみつけましたが、その後オーナーの方がどうされたのか?一世を風靡した雑貨はもうどこでも手に入らないと思うと残念です。
5. いせや
二軒も今はないお店について語ってしまったので、最後は吉祥寺の顔とも言える焼き鳥屋さん、「いせや」について。ここを喫茶店と呼んでしまうのは、冒涜的とは思いますが、そう呼びたいのには訳があります。大学時代、井之頭公園のすぐそばに住んでいた親友の家に泊まった翌朝、学校へ行こうとなんとか重い腰をあげて二人で駅に向かう途中でいせやから焼き鳥の煙がすでに風にのって私たちの前をふわりと通過します。(なんと当時は午前中から営業していました。)朝ごはん?早めの昼ごはん?とか言いながら、どちらからともなく「ちょっとだけ寄ってからいこうか」ということに。焼き鳥とビールを頼むと止まらなくなりそうだから、冷奴と名物の大きなシュウマイ、瓶ビールを二人でそれぞれ半分ずつ・・・という具合に少しブレーキをかけて背徳行為(笑)におよぶのです。「あぁ、なんだか行きたくないねえ」「もういいか、今日は」なんてことになってしまった日も何度かありました。
数年前に改装し、すっかり綺麗なお店になりましたが、おんぼろ旧店舗の朝日の差し込む2階の誰もいないお座敷で、親友とさぼり、語らい、その後ほろ酔いで通学したり笑 。不良学生。
いまとなれば淡い青春時代の思い出ですが、わたしの喫茶店人生にとってとても重要な場所なのであります。創業90余年だそう。素晴らしい。
以上、回想とともに綴ってみました。同じように懐かしんでくれる方もいらっしゃるでしょうか。
まだ営業しているお店はとてもおすすめですよ。
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