原因は手品ではなく貴女でした
「ハッハーハ!!どうかなこの手品!面白いかい!?」
「貴女の叫び声がもう少し静かだったらもっと面白かったよ」
「えーそんな酷い!!」
「貴女は叫ばないと死ぬ病気でもあるの?」
自分は今道化師を名乗る女の手品を見ている。その手品は本物の魔法じゃないかと思う程の出来で、全く見破れない。
手品に興味なかった自分も驚いた。
しかし、この女の叫び声は矢張り煩い。ここはサーカスでもなく、単なる土手なため通行人の目も痛かった。こいつは気にならないのだろうか。
翌日、別に来いとは言われてないが、来いと言われた気がしたのであの道化師のいる土手に向かった。
道化師は自分を見ると驚いた様な顔をして「ちょっと待っててね」と言った。様な気がした。何故か口パクだったため分からないが。そして道化師は、テントの様なところへ入っていった。
そういえば、道化師は昨日会ったときは顔の右半分を覆い隠す様なお面を被っていた。だけど今日は付けてなかったな。だからテントに取りに行ったのか?
そう考えながら待っていると、暫くしてから道化師が出てきた。
「ハッハーハ!!やあ、お待たせ!昨日ぶりだね!」
自分はそれから、毎日のように道化師の元へ行く様になった。理由は分からない。ただ何だか呼ばれているような気がした。……あの煩い叫び声に。
「ハッハーハ!!こんにちは!今日もとびっきりの手品を魅せてあげよう!君はすっかり常連さんだからね、飽きさせる様な真似はしないよ!」
「……」
「……どうしたんだい?」
突如黙る自分に道化師が尋ねた。いや元々喋ってはいないが。
「最近……いや、前からだ。お前に会った日から、毎日日が明けるたびにお前に呼ばれているような気がするんだ」
黙っとけば良いものを。自分でも訳の分からない質問をした。ていうか発言が我ながらキモい。
道化師は一瞬キョトンとしてからクスリと笑い、お面を取り替える様に優しい様な態度に変え、自分の質問に答えた。
「確かに私は朝6時半に友人を起こすことはあっても、どこに住んでいるかも分からない君を叫んで呼ぶことなんて出来ないよ」
だよね、何聞いてんだろう自分____
「ただ……」
道化師は続けた。
「ただね……」
道化師は前の騒がしさなんて嘘の様にか細い声で言った。
「私の手品を見てくれる人がいなくなってしまうと、独りになってしまいそうな気がするんだ……その思いが伝わったのかもね」
道化師は寂しそうに言った。
普段仮面で隠れている顔の右半分を見ると、今にも泣きそうな、既に泣いているのではないかという顔をしていた。そのときの道化師は、自分にはただの……いや、寂しがり屋な女の子にしか見えなかった。
目が合った瞬間、また仮面を被ってしまった。
「なあああんてね!!私にはテレパシー能力なんて無いさ。君がここに呼ばれてそうな気がする理由は、私の手品に惹きつけられるからじゃない?」
さっきの寂しがり屋の女の子の様な姿から一転。元の煩い道化師に戻ってしまった。
「……そうだね」
自分がそう呟くと、道化師はホッとしたような、満足したような感じだった。
「自分がなぜ、ここに呼ばれている様な気がしたのか分かったよ。残念ながら、貴女の考えが合っていた訳ではないけどね」
道化師が何か言う前に体が動いた。
道化師は目を見開いて固まった。
「また来るよ」
道化師を抱きしめたその手で頭を撫でてやると、空気に溶けて消えてしまいそうな声が聞こえた。
「ありがとう」
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