翻訳

「私あの人のようになりたい」
「無理だ。お前ではあの人のようになることはできない」
「私あの人のような作品をつくりたい」
「無理だ。お前ではあの人と同じような作品はつくれない」

「……なら、私あの人を超えたい」
「無理だ。お前は一生あの人を超えられない」

 お父様はいつもいつも私を否定する。人に憧れを持つことの何が悪いっていうのか。そしてなぜそれが無理なのか、その根拠が全く分からない。

 お父様はいつも言葉足らず。肝心なところは言わずに、自分で考えさせるのは良いことかも知れないけど、たまには言ってくれても良いと思う。

 だから、翻訳してもらうの。お父様が本当は何を言おうとしていたのか。

「本当に良いの?」

 その人はそう聞いてきたけど、

「良いわ。私は気になって仕方がないの」

 すると、その人はこう言ってから翻訳してくれた。

「好奇心は猫をも殺す」

翻訳______

「無理だ。お前ではあの人のようになることは出来ない。……どうやってもお前はお前だ。他人を目指さず、未来の自分を目指せ」

「無理だ。お前ではあの人と同じような作品はつくれない。……他人を目指してつくり出来上がった作品は、目指した作品よりも劣化してしまう」

「無理だ。お前では一生あの人を超えられない。いつまでも追いかける姿勢では追い付けない。憧れという距離を捨てろ。憧れを追いかけて極めるのではなく、自分自身で極めろ」


 その翻訳を聞いて、私は後悔した。そして涙した。

「嗚呼、憧れはいつまで経っても憧れだわ。その距離なんて縮まらないのね。……なるほど、辛いじゃない」

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