お菓子な川流れ

「縄を切れ」


 村長さんの合図で、ボートを繋ぎ止めていた縄が切られた。ボートはゆっくりと川を泳ぎ始めた。

 私はこっちを見つめる村人らを一瞥すると、目線を上にし、小さなボートに寝転がった。もうあの人達を見ることはないんだな。そう思っても、あまり悲しくはなかった。

 すると、甘空が目に入って来た。空に浮かぶ綿飴が集まってきた。綿飴も普段は白いのに、こうやって集まるととっても暗い。

 甘空はポツポツといいながら、味のない甘水を落として来る。

 私はただぼーっとそれを眺めていた。

 甘水は頬に当たる、鼻に当たる、額に当たる、ぽちゃんぽちゃんといいながら川にも落ちる。

 落ちて来る甘水は次第に多くなってきて、私はレエンコオトを被った。

 被りながら川を見ると、流れが澱んでいた川も奔流になって来た。ボートがひっくり返らないか心配になった。だけどそれもすぐに忘れてしまった。

 口を開けると甘水が入った。やっぱり味はない。

 私は同意を求めるように河岸を見た。もう村人らの姿は見えないけど、モオル*が必死に地面を掘る姿が見えた。水面が上がれば掘っても沈むだけたろうに。

 嗚呼、こんなんじゃモオルも地中に帰れない。

 私は遠目にそれを薄ら笑う。

 でも、私は地中じゃなくて川に沈むのだろう。お菓子な罪を皆んなの代わりに背負って。そこからお空に連れて行かれるのだろう。

 私は悪いことはしたらいけないと思う。罰を受けなきゃいけないと思う。

 それが、私の正義だから。

 なら、皆んなの正義は何なのだろうか。私をのんな川に流すことが正義だったのだろうか。

 誰かが皆んなの代わりに罰を受ければ、悪いことは精算されるのかな。

 でも、なら何で私が罰を受けるのだろう。私は、悪いことなんて何もしていない。

 いや、やっぱりそう思っているのは私だけなのだろうか。私が従っていたのは自分の正義で、村人らの正義ではなかったから。

 村人らにとって、一番悪いことをしたのが、私だったのかな。

 私の目には、甘水が浮かんでいた。


モオル→モグラのこと

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