神耗(しんこう)

 彼は肯定した。

「私って生きる価値無いよね」

と言われれば

「人間誰しも生きる価値なんてないさ」

と言い

「価値の無い私って生きても良いのかな」

と言われれば

「価値が無いから生きちゃいけないなんて決まりはない。生きたいなら生きれば良い」

と言った。

とまあ、彼はこんな具合でその人の人格、行動……その人自体を肯定していた。他にも色々あるが、端折らせてもらおう。

 そんな彼は一部の人からは「イエスマン」と貶され、一部の人からは「自分を肯定してくれる」と好かれ……いや、依存されていた。

 私は、そんな彼が人間に見えなかった。

 彼は女子からも男子からも依存されていた。その光景はまるで宗教だった。肯定する彼が神で、それに依存する奴ら。

 彼は依存された人達から一日に何通ものメールを送られていたみたいだった。そのせいで、彼のケータイは手放しても通知が永遠と鳴り響いていた。まあ、最近は手放すことも減ったが。



 そんなある日、私はトイレ近くで誰かがヒソヒソ話をしているのを聞いた。どうやら彼の愚痴みたいだった。少し気になって見てみると、私は驚いた。

 五人組がいて、中心で愚痴を話している張本人は……誰よりも彼に話しかけて、誰よりもメールの通知が見える人だった。

 内容はこうだった。


・自己嫌悪に陥っている時だと責めているようにしか聞こえない
・うるさい


 彼は生きる理由や意味、価値は誰にも無く、自分で作るものだと考えていた。故に「自分にはそう言ったものが無いのか」と聞かれると、必ず「元々人間には全て無い」と答える。まあ、それが責めている様に聞こえたのだろう(詳しくは知らないが)

 うるさいと言うのは、私もたまに彼と話すから分かったことだが、彼は話に返答するときは言葉が短く無かった。メールでも相槌は少なく、文章も二行以上はあった。いや確かに「そうだね」とか「分かるよ」とかで返してても薄いと感じはするだろうが。まあ、それがうるさいと感じたのだろう。

 もやもやするところはあったが、私には関係の無いことだ。全てを肯定する彼だって、気付いても見て見ぬふりをするだろう。

 しかし、彼の愚痴を言う者は日に日に増えていった。

 皆あれ程彼を神の様に慕い依存していたのに。

 彼のうるさかったケータイの通知も、日に日に静かになっていった。彼の周りに居た、彼に依存していた者も日に日に減っていった。

 訳が分からなかった。彼が特に何かした訳では無いだろう。いつも通りだと言うのに。

 流石に哀れだと思った私は、皆が彼から離れていった理由が見当も付かなかった私は、彼に声をかけてみた。


 すると彼は、泣きそうな、怒りそうな、しかし笑いそうな顔で言った。


「なんか嫌われちゃった」



神耗中学校2年生の間で遭った話である。

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