月を観たのはぼくだけ
「お母さん!月は動くんだよ!」
5歳にもなる息子は、月を見ながら無邪気にそう言いました。
「そりゃぁ月だもの。動くわよ」
私は、クスリと笑ってからそう返しました。
「お母さん!月はね、下の方にいると赤くて、上の方だと黄色いんだよ!」
今は夏。月が低い位置にあると赤くなり、高い位置にあると黄色く見えるのはよくあることでした。
ですが、息子はそれが人類最初の発見の様に、さっきから私に報告してきます。
「ねえねえ、お母さんは二つとも知ってたの?」
「知ってたわよ。あなたも大きくなれば学校で教えてもらうわよ」
「なら、お母さんはお月様が動いているところとか、赤くなるところは見たことある?」
「お月様は最近よく赤くなっているじゃない」
「動いているのは?」
私は、途端に答えられなくなりました。月が動いているところ?学生時代に、テレビで何度かは見ました。それも早送りの。
しかし
「テレビはだめだからね!」
息子は私の回答を予想していたのでしょうか。私の唯一の選択肢を潰してきました。
私は、諦めて白状することにしました。
「ううん、ないわよ」
すると息子は、顔を太陽の様に輝かせて言いました。まるで、月は自分が照らしているんだという様に。
「みんなって、本物を見たこともないのに信じてるんだよね。
だから、本物を見たぼくは、誰よりも月を知ってるんだよ!」
息子が月を見ていた時間は……何時間でしたっけ。
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