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鳥・虫・草木と楽しむオーガニック植木屋の剪定術ーはじめに

まちなかを歩いていると、とても残念な切られ方をしている木に出くわすことがある。
抽象的なオブジェのように切られてしまった街路樹、明らかに残すべき枝をじゃまだというように切られてしまった庭木……。
そんなふうに切られた木を見ると、心がとても痛む。
もっと見た目にも美しく、木が元気になるような剪定ができるはずなのに。

私たちは長年、無農薬・無化学肥料で個人庭を維持・管理してきた植木屋だが、最近は自分でできるところはやってみたいので、庭のインストラクターとして来てほしいという依頼も多い。
庭をリフォームするのは素敵なことだが、じつは剪定とは、大がかりな工事をせずとも庭の雰囲気を変えられるもっとも手軽なリフォーム方法のひとつなのだ。実際、庭木の剪定をした後、あまりにも庭の雰囲気が変わったために、うっかり自分の家を通り過ぎてしまったという、笑い話のようなこともある。

本書では、生き物のにぎわいがあり、見た目にも自然で、木にも極力ストレスのかからない剪定方法を紹介している。と言っても、特別なものがあるわけではなく、切り方そのものは昔からの方法によるところが多い。

植え付けた木が本来の勢いになるのに、3年程度かかると言われている。
剪定も、切り方がよかったのか悪かったのか、花を咲かせるのか、枝葉だけを伸ばすのか、それとも枯れるのかは、次の年になって花が咲いたり、実がなったりしてみないとわからない。ある意味「木まかせ」と言えるかもしれない。しかも、本当の意味での「正解」などないのだ。その証拠に、プロの植木屋でも人によって切り方は違うし、長年の経験と勘で、どのぐらいまで切るのかも人それぞれ違ってくる。
本書では、おおよその目安として、木を傷めることのないような、少なくとも木にとって気持ちのよくなるような切り方を紹介した。

剪定は、上手に剪定された後の木の姿をたくさん見ることが上達への道。
木が喜ぶような剪定の後の樹形をイメージしやすいように、剪定前後の写真をたくさん掲載した。
しかも、その写真は、私たちが実際にお客さんの庭で剪定したものばかり。
あの木もかわいい、この木も紹介したいと取り上げていたら、その数、なんと92種類! あなたの家の庭にある樹種も載っているだろうか?

また、本書では剪定方法だけにとどまらず、庭木にまつわる虫や病気、庭木の選び方から植える場所まで、いろいろなことを「有機的なつながり」という視点で見られるように、生物の多様性まで含めた内容になるようにも心がけた。
これから庭づくりをするにあたり木を選ぶ人のためのガイドブックとして使える内容にもなっている。

人間は、結果をすぐに知りたがるが、植物には私たちと違う時間が流れている。
せめて庭にいるときは、そういう時間の流れに身をまかせてみるのもいいのではないだろうか。
一軒一軒は小さな庭の数本の木でも、たくさんの家が無農薬で庭の維持・管理をしていけば、それは森の自然にも匹敵する。
1本の木があれば、そこから生態系は動き出す。
木とどのようにつきあうか、この本を通して見つけ出していただけたらと思う。

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