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青木ヶ原樹海から大室山へ登る

11月半ば、富士五湖のひとつ、精進湖畔から青木ヶ原樹海を歩き、大室山に登った。精進湖畔から富士山頂まで、甲府盆地から中道往還を越えてやってきた登山者、参詣者のために、精進口登山道が樹海の中に開かれている。この登山道を利用して大室山の麓まで行き、登山道がない大室原始林を足首まで潜る落ち葉の中、大室山山頂(山頂は2つあり、富士を拝めるのは南峰1,447メートル)に立ち、目の前から富士山を拝もうと思ったのだ。

青木ヶ原樹海は、平安時代、西暦864年に大室山のすぐ東に位置する長尾山から流れ出した溶岩が30平方キロを埋め尽くし、その冷え固まった溶岩の上に成立した森林のことだ。富士山には川がないことからもわかるように、降った雨や雪解け水は地表を流れることなく地下に浸透する。そのため溶岩の上に植生が成り立ちにくく、1000年以上たっても表土に覆われずに荒々しく地表を覆う溶岩を抱きかかえるようにタコ足状に根を張った針葉樹の森が形成された。

東京の明治神宮の森が、100年で代々木の荒れた草原から数十メートル上空で樹幹が閉じている立派な森に変わったことを考えると、標高が1000メートル近く違うという条件差があるにしても、樹々にとって、ここがいかに過酷な生育条件であったかがわかる。

どこまでも続く、針葉樹主体の薄暗い森を想像していたのだが、ところどころに生えているミズナラなどの広葉樹の葉が落ちて、意外に明るい森だった。鳥の鳴き声だけの静かな森。土壌が形成されにくいせいか、生きものの気配が少ない。木漏れ日の中を誰にも会わずに歩いた。

大室山周辺まで来ると、巨大な落葉樹の森のフラットな林床に落ち葉が分厚く積もっている。
晩秋の澄んだ空気の中で指呼の間に富士山頂を望むにはうってつけのルートだった。


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