鬼平犯科帳 雑感

健康診断のたびに、太りすぎ、といわれて、保健師さんに別室に呼ばれて食生活改善を命じられる。日本酒などの糖質が高いアルコール飲料の摂りすぎへの厳しい指導が入るのだ。飲む日を、せめて週に3日ほどにしたらと自分でも思うのだが、それがなかなかかなわない。その理由が、鬼平犯科帳なのである。

昼間でも夜でも、登場人物たちが、実にうまそうに酒を飲む。それも機会があるときに、でなく、茶店で一休みして一杯、打合せで一献、寝酒でグイっと、始終日本酒を飲んでいるのだ。読んでいると、こちらもついつい江戸時代の小ぶりの骨董茶碗でグイっと飲みたくなってしまうのだ。あんなに酒ばかり飲んでいて仕事になるのだろうかと心配になるほどだが、どれほど飲んでいても、酒で剣が乱れることはない。体重が増えて、膝が痛くなるとか、身体技法が鈍るということも書かれていない。

「勘ばたらき」と表現される盗賊たちの心理を読みつくした推理と、高杉道場で鍛えた江戸の剣客たちも一目置く太刀(たち)捌(さば)き、火盗改め方という凶悪な強盗団を取り締まる特別警察の長官としてのリーダーシップという3つの要素からなる主人公長谷川平蔵の魅力が、池波正太郎独特の語り口で描かれる。

「オール讀物」という月刊小説雑誌に1960年代から毎月連載されて来た1話読み切りの短編が多いが、半年以上(6回以上)の連載で完結する特別長編も混じる。その時々の名優が主人公長谷川平蔵を演じるテレビ時代劇シリーズにもなり、雑誌連載、単行本、文庫本、テレビ時代劇と、さまざまな楽しみ方ができる。

文庫本は、新装版、決定版と何度も装いを変えて出版され、それぞれの版で、収載されている作品が微妙に変わっているようなので、図書館などで借りるときには注意がいる。

長谷川平蔵が江戸で飲んでいた酒とは、今ではどのような酒を言うのであろうか。辛口から芳醇系まで、冷酒から熱燗まで、鬼平犯科帳の名場面を思い浮かべながら今夜も一献傾けようか。

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