『パブリック 図書館の奇跡』雑感

7月末に公開の映画を早速見てきた。原題はThe Public。直訳すれば、「共同体を構成する人民、人びと」。厳冬期の米国北部の大都市シンシナティ。ホームレスの人びとが路上で凍死している。凍えずに夜を過ごすシェルターも、いっぱい。やむなく暖房の効いた閉館後の公共図書館にホームレス70人ほどが立てこもる。

この立てこもりに巻き込まれるエミリオ・エステベス(父親がマーティン・シーン〔米国大統領役のイメージが強い〕、弟がチャーリー・シーン)演じる図書館司書がこの映画の主役だ。主演の他、製作脚本監督も務める彼は、過去に暴力事件やホームレス経験がある中年図書館司書を実に地味に演じる。

ホームレスの人びとが、夜、凍えないために図書館に立てこもったことが、いつの間にか、犯罪歴のあるアタマのおかしい図書館司書が、同僚の図書館員やホームレスを人質にとった、治安を乱す凶悪立てこもり事件として報道されてしまう。巻き込まれたはずが、「主犯」にされていく中で、彼がとった驚きの行動とは!(ネタバレになるので詳しくは書かない)

業界関係者としてのハイライトは、テレビキャスターから遠隔インタビューを受ける場面で「どういった文脈で、こんな事件を起こしているのか?」と問われた彼が、おもむろに、展示してあったスタインベックの『怒りの葡萄』初版本を取り上げ、その一節を読み上げるところだ。この「文脈」に呼応したシンシナティの市民が暖かい服や食事を持って公共図書館を取り囲む感動のシーンに続いていく。

映画一家に育った監督には、映画『怒りの葡萄』のジョン・フォードやヘンリー・フォンダへのオマージュもあったかもしれない。スタインベックのこの作品のテーマもまさに、the public。また、この作品の図書館からの排斥をめぐって、公共図書館の役割とはなにかについての議論が深まっていったことも、業界関係者周知のことだろう。

アレック・ボールドウィン、クリスチャン・スレイターなど曲者俳優が続々登場するエンタメ映画としてももちろん楽しめるが、いかにも叩き上げの図書館人といった風情の図書館長の行動を含め、様々な伏線に込められたメッセージを読み解きながら見ることのできる作品である。夏の1本としておすすめしたい。

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