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街の水路は大自然ーはじめに

 これまでの人類の発展は、自然環境の破壊とそこに存在していた野生生物の犠牲の上に成り立ってきたようである。とりわけ都市の内部や周辺でその影響が強く表れている。近年、これを少しでも是正し、修復して多種多様な生態系を保全・再生していくことが、自然環境の安定と人類のためにもなるという考えが強調されるようになってきた。人類という種もまた自然の一部であるという考えである。

 生物が生存を続けるために不可欠なのは水である。この水の健全な循環系を保つため、河川法の内容も、当初の「治水」から「治水と利水」の両面にわたるものに変わり、さらに1997年の改正により「環境」が加わって、現在は環境の重要性が認識されるようになっている。

 私が居住している愛知県春日井市の東部には、岐阜県との県境になっている低山帯に源をもち、南西方向へ流れて、名古屋市との境界になっている庄内川(一級河川)に合流する全長13.9kmの内津川(うつつがわ)がある。1991年9月の集中豪雨により下流の合流地点近くで破堤し、市街地に被害が発生した。この川の氾濫を防ぐために、中流の左岸から分岐して南下し、東名高速道路が庄内川右岸を渡るあたりで同川に合流する、全長1.8km の内津川放水路が1997年に完成した。

 この短い放水路は、「人々が、豊かな水と緑で自然と触れ合う憩いの場」という理念のもとに、愛知県最初の「ふるさとの川モデル事業」として造られたという。上空からの写真(6 ページ参照)を見ると、高密度の住宅地の中を南北に縦断している。内津川本流も、この3kmほど下流で庄内川に合流している。内津川本流も放水路も愛知県建設局河川課の管理下にあり、同課の河川整備の情報の中に、改修事例の一つとして完成後間もない頃の内津川放水路の空撮写真があるが、現在と比べ水路周辺の住宅の数は少なく、農耕地が多かったようだ。なお、愛知県環境局自然環境課が希少野生動植物の保全、生物多様性戦略の推進、生態系ネットワークの形成などを分担している。

 私が不定期ではあるが内津川放水路という人工河川を訪れるようになったのは、その完成後10年ほど経った2008年頃から2018年頃までで、主として水辺の小鳥(セキレイ、カワセミ、イソシギなど)の連続飛翔写真を撮影する目的であった。人工水路の流れは直線的なところが多く、冬季には草が枯れて見通しが良い。しかも鳥は狭い水面の中央付近を直線飛翔するため撮影には好都合で、カメラを持ったウォーキングでもあった。

 私は快晴で、光線が写真撮影に適した午前中(9~11時頃。常用条件1/2500、f 8、主として300mm使用、手持ち)に訪れていたが、川幅が狭いため対岸の様子もよく見え、鳥以外にも種々の野生動物がいることに気がつき、これも観察することにした。

 本書は同一環境に生きる動物の多種多様性をテーマとして、野鳥以外の動物では、見かける機会の多かったイタチ、ヌートリア、カメなどについて、その概要を写真主体にまとめてみた。今後、個体識別が可能となれば、さらに多くの知見が得られるものと期待したい。野鳥の写真では、1 フレーム内に2 種以上同時に写っているものがあれば、写真の質が多少落ちていても、多種多様性というテーマからそれを選ぶようにした。

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