あるべき人類の未来のための戦い

1/21日経新聞の小柳建彦編集委員によるハーバード大学ビジネススクールのショシャナ・ズボフ名誉教授のインタビューを読んだ。昨年夏に『監視資本主義』(東洋経済新報刊)という訳書が出たが、その本の厚さに読むのを尻込みしていた著者だ。

20年前から始まった、ネット利用履歴データの蓄積を収益化する理論と仕組みを監視資本主義というのだが、この監視資本主義は、明らかに社会規範を逸脱しており、正当性を持たないので、違法行為とする法制度をつくるべき、というのが教授の主張だ。たとえ利用規約で合意を取ったとしても、個人データを蓄積しブラックボックス化したアルゴリズムのもとで広告宣伝のデータとして販売することは違法化すべき。なぜなら、企業が合意を得ていると言っている規約は誰も読んでいないし、合意ではなく実質的な強制である。自主的合意では決してない。

約款を一方的に押し付けられる保険など金融商品はあるが、それらはかろうじて社会規範からの逸脱はない。しかし、同意のない一方的な監視、情報の商品化は、現在は合法だが、違法とする法体制を整えるべき。実社会では家宅侵入や覗き見は違法なのにパソコンやスマホで個人が何を見て、どこへ行き、何を買っているか、企業が勝手に記録、監視し、そのデータを収益に変える行為が合法であることはおかしい。

そのように名誉教授は述べる。標題の、あるべき人類の未来のための戦い、とは、教授の著書のサブタイトルthe fight for a human futureのことだが、教授は、ESG(環境・社会・企業統治)投資など倫理や社会性を重視する投資への変化についても、歓迎すべきものだが、市場参加者や私企業によるルール設定は市場環境が変われば一瞬で消える儚いもの、だから企業の自主的規範ではなく法制度をつくるべき、と辛口だ。

40年近く、市場万能主義が席巻したビジネススクールで教えてきた教授の発言だけに、興味深く読んだ。

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