歩荷訓練を楽しむ

12月の週末、山仲間の山岳会の歩荷(ボッカ)訓練で、丹沢山系東端の大山南山稜を歩いた。歩荷訓練とは雪山登山で、テントや冬用の寝袋、食料、燃料などで大きくなる荷物を想定して、重い荷物での長時間行動に慣れるためのトレーニング山行だ。

小田急線鶴巻温泉駅前広場に、温泉水を充填できる水道がある。そこで、リーダーが秤をもって待っている。男性25キロ、女性20キロが今日の歩荷の目安なので、重量が足りないと、ペットボトルをわたされて温泉水を満たしてザックに詰め込む。私は、ザイルや衣類、寝袋をぎっしり詰め込んできたので容量70リットルのザックがすでにいっぱいだ。何とか21キロまでペットボトルを詰め込んで勘弁してもらった。

20キロメートルの行程を、暗くなる前に歩き切らなければならないが、途中でバテて離脱したくはないので、息が切れないように、一定のペースを保って登っていく。大山は、東京の高尾山と並ぶ人気のある山だが、別名雨降山(あめふりやま)というくらい雨が多い。相模湾からの湿った空気が大山に当たって雨になるのだ。この日も冷たい霧雨が降っている。気温が低いので歩いていると汗もかかずにちょうどよいが、止まると寒くてたまらない。
ケーブルカーで登ってきた観光参拝登山客たちと山頂近くで一緒になる。「大きな荷物ですねえ!」と声をかけられ、ハアハア言いながら急な斜面を登っているとき、いったい自分は、なぜこんなことをしているのだろうと、一瞬頭をよぎらないではないが(そもそもコロナ禍のこの冬、厳しい冬山登山に行く気はあるのか?)、尻の筋肉に力を込めて一歩一歩石段を登るのは、苦しさとは別に変な楽しさがある。

日向薬師の住職が経営する山小屋にたどり着く前、薄暗くなった下山路でスリップ転倒(転ぶたびに思うのだが、なぜ下山時の転倒は心理的ダメージが大きいのだろう?)をした以外は、大きな問題もなくゴールにたどり着いた。我々のパーティ以外、誰もいない山小屋の大きな風呂につかりながら、冷え切った体を温め、大山の湧水で醸した地元伊勢原の地酒を体にしみ渡らせていると、そうだ、この風呂と酒のためだけでも、トレーニング登山の楽しみは十分ではないかと、自分で納得した。

今年も、静かな山道を、風、陽光、石仏や草木、菌類、土壌動物、森の生き物たちと一緒に歩んでいこう。

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