西丹沢・大野山で山地酪農家に会う

『黒い牛乳』という衝撃的なタイトルの著者である中洞正氏の中洞牧場で修行した島崎薫さん他数名が、富士山、金時山など箱根の山やま、相模湾から丹沢山、檜洞、丹沢湖まで、360度の大展望を誇る西丹沢の大野山山頂付近の、8.8ヘクタールで一昨年から始めた山地酪農の牧場を見学に行った。

かつて、神奈川県が山頂付近100ヘクタールの牧草地を管理していたが、数年前に撤退。その一部を、島崎さんたちが借り受けた。現在は、ゴールドの混じった茶色の毛並みが美しいジャージー種の母牛2頭、れもん5才、あやめ4才と子牛のすみれの3頭が大野山の斜面で、牧草を食んで過ごしている。この4月と6月に、それぞれ出産予定で、子牛は3頭になる。

牛舎を持たない山地酪農では、24時間、365日、牛たちは、山の斜面で野牛のように過ごす。おそらく日本の乳牛の9割以上は、暗い牛舎の中で、米国からきた遺伝子組み換えトウモロコシや大豆粕などの配合飼料を食べて一生を過ごすが、ここの牛は、大きな富士山を眺めながら、ほぼ100%丹沢の草だけを食べて野外で過ごすのだ。

糞尿は、山の斜面を歩きながら、そこかしこでするので、臭わない。そのまま、牧草の肥料になる。勝手に生えてくる草を食べるので、エサ代も、エサやりの手間もなし。糞尿処理も不要。この飼い方だと、大人の牛1頭あたり、1ヘクタールの牧草地が要るのだという。日本列島の7割を占める山地で、自然に逆らわず、牛も人間もハッピーな生業を営める一つの方法として、小規模な山地酪農の可能性をゆったり焦らず探っている様子がみずみずしく眩しかった。

牛が屋根の下にいる時間は、一日一回の搾乳のときだけ。山の稜線の端に、ぽつんと搾乳小屋が建っている。牛乳生産の設備がないので、グラスフェッドの生乳を飲むことはできなかったが、島崎さんが修行した中洞牧場のグラスフェッド・ミルクは、銀座でも買えるので、今度味わってみよう。

大野山山頂へは、御殿場線の谷峨駅からハイキングコースを徒歩1時間。10時から牧場見学をして、帰りは山北駅へ降りるのがおすすめだ。見学の申込みなどは、下記サイトで。
https://kaorunofarm.com/

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