『森林と人間 ある都市近郊林の物語』(石城謙吉著 岩波書店) 雑感

愛知県豊田市の自治体フォレスター鈴木春彦さんに教えていただいて、本書を読んだ。石城さんの本と言えば、有名は『イワナの謎を追う』は、実家の書棚にもあったが、本書は未読だった。
1973年春、北海道大学苫小牧演習林(現 研究林)林長としての30代後半から四半世紀の活動を描いた本だ。苫小牧の駅から直線距離で4kmほど、市街地に隣接して広がる大学演習林を、市民に開かれた森林都市公園として作りこんでいく活動の記録である。
先日、東京都の明治神宮外苑の高木を、巨大なラグビー場(ラグビーワールドカップは終わったのになぜ? 隣に国立競技場があるのになぜ? 今の秩父宮ラグビー場を壊して建て替える必要があるのか? ラグビーファンの一人として理解に苦しむ)やホテル、商業施設をつくるために大規模に伐採することに関する環境アセスメントを傍聴した。
本書で描かれる、市民に開かれた森林空間のアメニティ機能や、盛夏のヒートアイランド現象緩和という点から見ても、高木を伐採して、蓄熱装置としての巨大コンクリート構造物を東京都心にいまさら作ることが21世紀の都市設計の知見に逆行する愚行であることは明らかだろう。三井不動産は、半世紀前の苫小牧の実践を学んでほしい。
さて、話がそれた。
大学の演習林として、著者は、林木生産を続けながら、林内を流れる荒廃した河川の自然化、広葉樹二次林の整備、原生林の保全、林道路網の高密度整備、林冠観測施設の建設、市民が憩える池や湿地づくり、洪水緩和機能を持った遊水池づくりなど、まさに都市の森林としての多面的な恵みを存分に引き出し、研究施設としての機能を高めていくのである。
森の中を流れる幌内川を、生きもののにぎわいのある清流として、職員総出でよみがえらせていく様子は、高畑勲監督、宮崎駿制作の名作映画『柳川堀割物語』で、市職員と住民たちが、どぶさらいをしながら、堀割を清流に戻していく様をほうふつとさせる。
苫小牧を訪ね、寒くなる前に、この美しい森を一日かけて歩きたくなった。

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