江戸東京たてもの園「ぬくもりと希望の空間 大銭湯展」

コロナ禍で閉まっていた江戸東京たてもの園がこの夏、感染予防対策を施して(建物の2階部分を閉鎖)再開したので、江戸期から20世紀中ごろまでの建物30棟を一日かけて、ゆっくり見て回った。

建物群を一軒ずつ訪ねる前に、エントランス広場脇の展示室では、「ぬくもりと希望の空間 大銭湯展」を9月27日まで開催している。A4判カラー刷り22ページの立派な銭湯展パンフレットは無料。江戸東京の入浴事情が、仏教寺院の施湯施設から始まり、「男だって使うべきよ」というキャッチコピーとともに銭湯で売られていた1回使いきりの花王フェザーシャンプー、ケロリンの広告入りの黄色いプラスチック桶まで展示されている。

展示を見た後には、関東大震災の後に千住に建てられた本物の銭湯建築へ。寺社建築を思わせる立派な外観、唐破風の下に七福神の木彫が飾られた入り口。賑やかなタイル絵から、西伊豆の海と富士山ペンキ絵、脱衣場の折り上げ格天井、番台のひじ掛けまで、実物に触れることができる。

銭湯の歴史を満喫した後には、世田谷、大田などの大きな茅葺の農家から、奄美の高床きのこ状の穀物用高倉、麻布にあった三井家当主の屋敷と庭園、そして、建築家前川國男が戦中に建てた質素で機能的な自宅建築までを、我が家のようにくつろいで見学できる。

ぞわぞわっとしたのは、赤坂から移築された高橋是清邸の美しい庭に面した2階寝室でたたずんだ時。畳に血だまりの跡こそなかったが、是清が凶刃凶弾に倒れた二・二六事件の現場で庭園の蝉時雨に時を忘れた(建築物の2階に上がれたのは高橋邸のみ)。

町家ゾーンには、東京の下町の商家が移築されている。現在でも築地界隈には残っている、関東大震災後に立てられ、東京大空襲を生き延びた「看板建築」だ。父の実家も看板建築だったので身近なせいか、これまでは、ぼんやり見ていたのだが、その建築史的文脈が理解できて、築地の街を見る目も変わりそうだ。

夏休みの1日、ぜひ時間を作って訪ねられることをお勧めしたい。

江戸東京たてもの園
(小金井市桜町3-7-1 都立小金井公園内。電話042-388-3300)

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