サラ金の歴史 雑感

経済史研究者の著者が、日本社会と消費者金融の深いつながりを、歴史家として描いた本。現在では、店舗数も減り、メガバンクのカードローンにその機能が移ったように見える消費者金融。本書によって、戦後の日本社会の人々の働き方、暮らし方がどのようにサラ金と接続していたかが、冷静な筆致から浮き彫りにされる。

大切なビジネスの相手、友人、家族といえども、連帯保証人にはなるな、というのが亡父の教えだったし、小学生の時分に経験した倒産に伴う怖い思いがあって、サラ金とか闇金というだけで、スッと意識が遠くなる。

そして、サラ金の悪辣さ、冷酷な取り立てを扇情的に描き、徹底的に批判する言説にドップリ浸かってきた私のような読者からすると、サラ金業界、多重債務者とは距離を置き(インタビュー可能な証言者がたくさん見つけられるテーマでありながら、ほぼ文献だけで執筆している)、利用者と、サラ金業者双方の言い分を記述している書籍や資料を突き合わせて日本社会の働き方や家計運営のあり方に光を当ててくれる本書は、知らないことばかりで新鮮だった。

ことに、信用調査にコストをかけずにいかに効率よく、優良な借り手に融資していくかに知恵を絞るサラ金業界の工夫と創意には、思わず引き込まれた。

SNSを窓口に、素人高利貸しとなって稼ぐこともできる、もしくは、現代の闇金がスマホから容易にアクセスしてくる今の時代にこそ、身近な20世紀の貸金業の歴史を知ることは、意味のあることだと思う。濃い内容を数時間で読むことができるオススメの一冊だ。

『サラ金の歴史──消費者金融と日本社会』小島庸平著 中公新書

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