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冬の南房総逍遥

年末の晴れわたった早朝、南房総市の烏場山(カラスバヤマ)に登った。岩崎元郎さんによる新日本百名山で、標高300メートルに届かない唯一の山である。実際に美しい弧を描く和田浦海岸から眺めても、緩やかな丘が波打っているようにしか見えない。同じ百名山に選ばれている北アルプス、南アルプスの峻厳な峰々とは別物だ。

内房線の和田浦駅そばの踏切を渡って、烏場山登山口の花嫁街道入口から照葉樹林の尾根に入っていく。烏場山までの道は、高低差がない歩きやすい稜線と尾根道、巻道をていねいに拾いながら続く。道の両側はマテバシイやスダジイが株立で植わっている。薪炭材として植えられ萌芽更新によって収穫されていたのだろう。照葉樹の樹冠の切れ目からは、冬の澄んだ朝日にきらめく静かな太平洋の水面がどこまでも続いている。太平洋の水面の手前からは房総山地のもこもことした照葉樹林特有の樹冠が胸元に迫ってくる。
登山口から2時間足らずで着く烏場山山頂からは地球の丸みを感じる太平洋の水平線、振り向けば、東京湾の向こうに美しい富士がクッキリと。
確かに、都心から3時間足らずでアプローチできる手軽さと、この稀有な眺望が新百名山に選ばれた理由なのだろうと納得した。

和田浦駅前、国道128号沿いには柚子、ミカン、レモンなどの柑橘、香り高い水仙などの花卉の売店だけでなく、地魚の旨い食堂がコンパクトに揃っている道の駅がある。目の前は和田浦の美しい浜が続く。
空気の澄んだ冬の一日を水仙の甘い香りに包まれての南房総散策はいかがだろうか。

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