美人画の世界 「上村松園・松篁 美人画と花鳥画の世界」雑感

4/17まで山種美術館で開かれている上村松園・上村松篁親子展を見てきた。上村松篁の花鳥画の世界を楽しみたくて出かけたのだが、今回は松園の美人画について書きたい。

松園の描く女性は、たいていが江戸後期の京都の町屋の女性たち。その装いがキマッている。

日本髪の結い方、かんざし、上唇と下唇で色が違う口紅、生え際の、美しさを強調する上げづと(京風の日本髪の特徴の一つ)、蚊帳を吊る帯を横に締めた美人。構図は、江戸期の浮世絵師たちが江戸の遊女を描いたそのままなのだが、遊女が町屋の女になり、風俗史をふまえながらも、寒色系の帯を締め、浮世絵が持っていた卑俗な色気を排除して描くと松園の美人画になるようだ。洒落たブルーとイエローのピッチの太い斜めじまの帯を締めていると、なぜか色気が清澄な気品に置き換わるから不思議だ。

10年くらいで変わっていった江戸時代のファッション、着付けの技を知り抜いていなければ、色気を抜いて、かつ美しい大人の女性たちを描くことは難しかったのではないか。

それがよくわかるのが今回の展覧会で並んで展示されている鏑木清方の「伽羅」という作品と、松園の「杜鵑を聴く」という作品である。

清方の作品は、決して卑俗でないが、生身の女性の男性目線の色香が漂う。

しかし初夏、涼しげな青の着物に緑の帯を締めた女性がふと立ち止まってホトトギスの鳴き声に耳を傾ける、あら、ホトトギス、とつぶやいていそうな風情なのだが、ぼやっと見ていると、仏画にも見えてくるような清澄度の高さなのである。

わずかに覗く襦袢と手に持った傘の赤が美人画であることを思い出させてくれる。

江戸期の文化史、風俗史を知り抜いた上で華やかな女性たちの姿をこのような形で昇華させる求道者のような画家の姿が浮かび上がってくる展覧会だ。

足を運ばれることをお勧めしたい。

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