返事だけ良い

友達が、会社の後輩について愚痴っていた。
「本当に、最近の子は返事だけ。
 返事だけは、良いんだけど、
 全然行動が伴わないだよね。」
と言う友達の言葉に、
私たちもついに「最近の子は〜」
とかを言われる側から言っちゃう側になったのだと、
しみじみ自分の年齢を意識した。
「信じられる?ハイ、ハイ、
 って返事だけは一人前なのに、
 実行力ゼロなんだよ。
 返事だけで、仕事した気になってんじゃねーぞ!」
と腹を立てている友達の言葉で過去の記憶が蘇った。
私が小学生の時の国語のテストの記憶だ。
さほど勉強ができる方ではなかったが、
文章を読む事も書く事も好きだった私は、
国語の読解力を試す類いのテストは
結構得意だった。
特に、文章の中の登場人物が
その時どんな気持ちだったか、
どう感じていたかなどを答える問題は、
回答欄が大きく用意されており、
そこではオリジナリティを存分に発揮でき、
なおかつよほど的外れな事を書かないかぎり
正解にしてもらえるので、
得意中の得意だった。
そこで少しひねった事を書けば、
点数には反映されなくても、
教師から花丸を描いて貰えたりするので
嬉しかったのを覚えており、
いつも気の利いた文章を書く様に努めていた。
なのでそのテストが採点され返却された時の
衝撃は大きかった。
私は回答欄に大きく赤で×と
描かれたテストを見て驚いた。
ただの不正解の×ではない、
明らかに教師からの怒りが込められた
大きな×だった。
慌てて、問題の内容を読むと、
私が得意とする
「この時、主人公はどういう気持ちだったか答えよ」
といった内容のものだった。
その回答欄は、
そのテストのどの問題より大きく
スペースが用意されており、
たくさん文章を書いて答えられる様になっていた。
そして、驚く事に私は、
その回答欄いっぱいに
大きく二文字「はい」
とだけ書いていたのだ。
自分の行動が信じられなかった。
何が起きているのか最初分からなかった。
自分の答案用紙ではないのではと疑った。
しかし、明らかに私の署名がされた
私の答案用紙だった。
そしてテストを受けている最中の自分に
何が起きたのか考えた。
おそらく私は、
自分が得意な問題が来て
舞い上がってしまったのだろう。
問題文に書かれている
「答えよ」という文末に心の中で大きく
「はい」と返事をしたに違いない。
そして、そのまま心の声を大きく
回答欄に「はい」と書くと、
とてつもない達成感を感じてしまい、
そもそもの問題文で質問されている内容を忘れて、
回答した気になってしまったのだろう。
完全に返事だけで、
やり遂げた気になってしまったパターンだと思う。
ウケを狙ったりする様な子供でもなかったし、
採点されたテストを見て親以上に
衝撃を受けた記憶があるので、
まず間違いなく本気の回答で、
そうなったのだと思う。
友達の「返事だけで、仕事した気になってんじゃねーぞ!」
という言葉が、まさにあの時の私に
言ってやりたい一言だったので、
鮮明に記憶が蘇った。
きっと採点した教師も、
今の友達が怒っている様に、
もしくはそれ以上に憤慨したに違いない。
「バカだね〜」と私のエピソードに笑いながら友達が、
「でも、意外と気づかないうちにやってるかも
 『返事だけ良い』状態。
 後輩のダメだしする前に自分見直そう」と言った。
私も小学生の私がした話と切り離していたが、
今尚返事だけ良くって行動が伴わない事が
あるかもしれないと思えた。
そして、私達が「最近の子は〜」
を言うにはまだまだ早いのではないか
という結論になった。

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