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真夜中の天井テニス(会話/エッセイ)

これは、とある2人の天井テニスの記録(抜粋)。

23:30 入眠のポーズ

「いや~、今年のサマソニも良かったねえ」
「分かる~」
「てか明日何時に起きる?」
「チェックアウト何時だっけ……」
「たぶん11時とかじゃなかったっけ」
「したら…9時半くらいにしよ」
「おっけい、そしたら目覚ましかけよ」
「私もいちおかけとこ」
「9時半だから、9時くらいからかけるか……」
「いやスヌーズやめて!起きるねんそれで私。起こすから」
「え~~分かった。じゃあ9時25分からね」
「まあそれなら……。え、電気このくらいでいい?暗すぎ?」
「うん、大丈夫ありがと」
「……」
「……」

0:05 昼間、指摘そびれた些細なツッコミの残滓

…(中略)…
「分かる、てか前にいた人たち多分同じ感じのファンだったよね」
「あの辺の曲好きな人意外に少ないのかな?なんかあんまみんな盛り上がってなかったよね」
「思った、意外だよね」
…(中略)…

0:30 もう10回くらいしてる話をまた擦るタイム

…(中略)…
「あの時さおり柄にもなくめちゃ泣いてたよね」
「いやあれ先に目の前でまちが急にぶわってなって、全然泣く気なかったんだけど……」
「たしかにまちもう助走ついてたもんね」
「むしろあんな泣かれると周りスンてなるレベルだよね」
「は~~~まじもうあれ3年前か~~~」
「やばいね……」
「てかもうこっから夏過ぎたら今年終わるよね」
「そしてまたあんたの誕生日が来ると……」
「終わりですよ、終わり」
「人生人生」
…(中略)…

0:55 照れくさい系のトピックスの蔵出し

…(中略)…
「えてかもうあれ、言われたら、Say yesするんですか💍」
「え~~まあ…何もなければ……?」
「ウィ~~~~~~いいじゃないですか~~~」
「まあ……うんそうね……」
「いや~あ!人生だなあ!」
…(中略)…


(多分全体の幸福としてはここで寝た方が良い)


1:20 目が冴えて何故か飛躍し、真面目な議論に突入

…(中略)…
「今さらだけど、アメリカの大統領選どうなるんだろう」
「あの銃撃の写真、まさかすぎたよね」
「構図やばいよね」
「でもあれ投票近かったらもうやばかったよね」
「うん……」
「どうなるかねえ……」
「めちゃ今さらすぎるけど」
「うん」
「実はトランプのことよく分かってない」
「あ~ね」
「うん」
「いやまずこないだの発言やばくて――」
…(中略)…

1:50 まだ政治の話してるんかい

…(中略)…
「毎回、今回全員投票行ってるだろと思ったら全然行ってなくて怖いよね」
「それな」
「まじ狭い世界しか見ていない……」
「やでも、こういう話できるの大事だなと思った最近」
「うん、誰と?」
「ん、なんかパートナーとか」
「まあね」
「別に合わなくても、なんか」
「分かる分かる」
…(中略)…

2:15 もうそれ明日でいいだろのぐずついたターン

…(中略)…
「話戻るけど、今年みんな結構人生動くよね」
「いやまあそうなるよね」
「ね」
「歳かねえ」
「うむ」
「あっちゅうまですよ」
「気が付いたらって感じよね」
…(中略)…

3:30 気づき

…(中略)…
「え待って(笑)3時半(笑)」
「え!?」
「やばい(笑)」
「道理で喉ガラガラすぎる(笑)」
「え1回トイレ行っていい?」
「うんてか私も行く……」
~~
「はあ、もう寝よ」
「うん寝よ寝よ」
「さすがにね」
「はあ、おやすみ~~」
「ん、おやすみ~」

「zzzzz……」
「zzzzz……」


天井「いやその店仕舞いの早いやつ出来たんかい!!」



*カモフラージュにフェイクを織り交ぜています


天井を見ながらしか、話せないことがある。
昼間言えなかったこと、秘めていたこと、しょうもない悪口、今さら訊けない疑問。

会話はキャッチボールというけれど、そのボールは相手目がけてまっすぐ飛ばなくても良いのかもしれない。
自分の投げた球は一度どこかへ当たって転がって行って、それを拾ったり拾わなかったりして。相手の球の描く放物線を見て、また自分でも新しい球を合流させてみたりして。

天井越しの言葉のやりとりは、何も同じ部屋にいなくても良い。
通話しながら横になって電気を消すと、暗闇の中で天井を見ながら会話する瞬間が来る。これは、もはや疑似お泊りだな、といつも思うのだ。

脳と、声と、息だけになる自分。同じく、声だけになっている、相手。
言葉だけが降ってきて、自分も言葉を発するだけ。
ぽこぽこぽこ。
普段の1.25倍くらい遅いベーステンポに、たまに混ざる深夜テンション。
天井に投げられた言葉たちが跳ね返り、真夜中の庭球が繰り広げられている。

意図的に「天井見ながら話すやつやろーね」と約束するわけでないのもまた、なんだか嬉しい。
眠気とか翌日の予定とか頭の位置とかいろいろな条件が揃って初めて、天井テニスがたまに起きるのだ。
一緒にいるけど、対面せず、顔も見えない不思議な空間は、ほかにはない心地良さがある。
いつ、独り言になるかも分からない。そうすると、言いづらいことも言えるのかな。

ちなみに私は「ねえ、まだ起きてる?」というフィクションあるあるの発言をしたことは、ない。
だいたい最後まで起きてる方だけれど、一度静かになった人に話しかけることはしない。ずっと話しているか、おやすみと言って切るかだ。
言われたこともあまりない。起きてるんだけどなあ。

兎角、私は幾度となくこの天井テニスに救われてすっきりしてきたし、大事な人たちとの仲を深めてきた。
たくさんの天井たちが受け止めてきた会話たちに、乾杯!

それでは、おやすみなさい~

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