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ゲンロンSF創作講座6期第3回梗概感想(1)

※読み違えなどはご容赦下さい(頑張って読んでいるのですが…)

織名あまね とある塔の観察日記

織名あまねさんのとある塔の観察日記

  • 観察日記風に書いていくというのは面白さを感じた。人に向けて書かれたものという風にするとゲームの製作者がシミュレーションの様子を見ている風になってしまう気がしていて、あんまり新しさが無いように思える。ゲームのルール(=勝利条件)を見つけ出そうとするAIの思考記録として書いてみる。などは凡庸にならないための手の1つでしょうか。

  • ルールがとっ散らかっている感があるのが気になります。特に途中で突然「悪魔」が出てくるのが謎めいています。あと、勇者の生まれる確率の設定、生きてない気がしました。

  • 「(いくら能力が強くても)人数が一定以下でないとクリア条件を満たせない」という設定は不条理で面白いと思うので、その不条理さを活かす不条理な仕掛けで飛ばしていくとよさそう。

  • 不条理なルールが無数の試行により覆されるという抵抗の物語としては好感を持ちました。

伊達 四朗 エイリアングレード1/1シュウくん

伊達 四朗さんのエイリアングレード1/1シュウくん

  • 書き出しのフックは○。「自分たちの言語で翻訳しきれない侮蔑的な表現」が具体的に書かれていると尚良かった(”般若”を指すのだったら、その旨がわかりやすいほうがよかった)。パラベルムってネーミングも悪くない語感。逆に言えば「入力フォームも公開することができる」のようなディティールを書くと、装置なのかウェブにあるプログラムなのか読者としては分からなくなります。と思いつつ読んでいたら、やっぱりプログラム的なモノなんですかね。異星人をせっかく持ってきているのだから「言葉を食べる」とか「言語野を吸収する」など、そういうAI的でないモノを持ってきたほうが読者は楽しめると思います。(でなければ、地球人がネカマを探す話と同じになってしまう。

  • 一つの嘘が大騒動につながるという流れは好きです。ただ出来事の間の論理的な整合性が弱いように思いました。ユウくんも普通に異星人に協力してしまうし(ここはなんか、ファーストコンタクト的なセンス・オブ・ワンダーが欲しい)

櫻井 雅徳 ヘイ、アー・ユー・ハッピー?

櫻井 雅徳さんのヘイ、アー・ユー・ハッピー?

  • 文章の加速感があるのはいいのではないでしょうか。少なくとも一段落目は面白いです。ただ、「WTF!実家じゃん!」は普通すぎるし、テーマがあるのだと思いますがもっと別の展開のほうが面白いのではないでしょうか。

  • “幸福指数が幸福感より価値をもつようになるまで時間はかからなかった” とかはパンチラインとしてよい。

  • 「複数の同一の場所と同一の出来事を同時に経験することができた」だけでSFになる気がするので、この設定を入れるなら、この論理から実家が出てくるまでを鮮やかに繋がないと行けないと思います。いまはなにか、太字にすることで逃げているような感じがある(=納得感がまったくない、勢いだけはある)

  • へレディタリーをレファレンスしていますが、実家がもう少し狂っている方がいい感じにホラーの要素を入れられると思います。今だと謎に騒がしい宴会やってるだけなので、それでいいのか? とは思ってしまいます。

コウノ アラヤ マッハ、轟々

コウノ アラヤさんのマッハ、轟々

  • 一段落目、面白い。

  • “伊田島真羽は常人の千倍の速度――音速の世界で活動している。” これめっちゃ惜しくて、音速の世界で活動するとどういう知覚状態になるのかを現象として書いたほうが良いと思います。いまは説明で済ませてしまっているので、(菅浩江さんの言葉を借りれば)何ができて、何ができないのかが分からなくなっています。アニメを千倍速で見るだけ? なのかなと思っていると、衝撃波が出ているし。知覚だけが早くなるなら動きは早くならなくてもよさそうな?

  • さすがに轟の能力がご都合主義な感じがします。

  • 〈クロッカー〉が発動した所のアクション描写は面白くできそうな匂いがします。

  • 多分。物理的な加速をやりたいのだと思うし、その部分はすこし面白いのですが、その前提に立つと一段落目の嘘が練りきれていない感じがあります。

  • なんか「常人の一日が数年になる」という設定だけでいくらでもドラマが作れると思うので(多分時間SFっぽくなる)知覚と運動でそれぞれどういう設定をいれたいのか、どういうドラマを作りたいのか整理すると良さそう。いまは、むっちゃ早い動きしかできないひとがその特殊能力を捨てたくて頑張るみたいな話なので、物理的加速が主眼ではある。それならば、近くの方はバッサリ削って良いと思います。

  • とはいえ「普通の生活に戻りたい」だとあまりにも普通すぎるのでは、むしろ「加速したままでいい」方のロジックを作る方が設定のスケール感を活かせそう。

悠人(作家修行中) シップリバーシブル

悠人(作家修行中)さんのシップリバーシブル

  • 船舶復元現象が船舶にだけ起こる立て付けが一応欲しいですね(でないとなぜ船舶だけ?という話になりそう)、奇想っぽく書くにしても、いい感じの嘘の入り口をつくってあげないとダメそう。一段落目が奇想っぽいのに、二段落目で経済合理性の話が出てくるのでここでガタガタになってしまってます。論理のレベルは貫かないと行けない気がしました。

  • 多分ですが、奇想で書くなら、死人も蘇らせたほうが面白い。遺族会がやんややんや言うとかだと普通すぎるというか…

広海 智 木は語る

広海 智さんの木は語る

  • 謎の装置を使って木と仲良くなる → 実は継父の作ったものだった && 継父は木の宇宙人だった → 木の友達が無慈悲にも伐採される → 木の友達は挿し木で復活する という話なのですが、自分が友達を作れた原因は実は(嫌っていた)継父の発明によるものという点はよいドラマになっている気がします。とはいえ、カオル伐採が実行されてもカオルが死なない、よりもいいプロットはありえそうですね。

  • あとで歩行木の話などが明かされるのはちょっと無理筋に思えます(ここまでで結構嘘付いてるので)、これをやるなら、継父が異性とコミュニケーションとってるんじゃ?ときな第三者視点をいれられる書き方にしたほうがよさそうです。

  • 継父が疾走する理由のところにドラマが欲しいと思います。いまだと話をたためないから疾走させた風に見えます。

  • 素朴な疑問として、電網世界とインターネットって何か違うのでしょうか?

渡邉 清文 われらの一票の価値

渡邉 清文さんのわれらの一票の価値

  • “違憲になる”ことで何に困るのか(議会が開けない?選挙がやり直しになる等?あるいは、ずっと違憲だから年中選挙やってるとかですかね)がおかしみを持ってかかれていると、この面白い設定によりすっとはいれると思いました。

  • 冒頭部は「議員報酬、結構ショボそうだけどこの報酬に関するルールいるのかな?」と思いました。

  • 法人格AIって何をやるのだろう。稟議の承認したりするのですかね。ここまでで結構選挙制度がめちゃくちゃになっている(ふるさと投票が導入されている)ので、法人格AIに投票権を与えるというところを支えるロジックは気にはならなかったのですが、具体的にどういう事するAIなのだろうと疑問に思いました。

  • AIとクローン人間で投票権を巡る争いが起こる。とかの方がすんなり読める気がする。途中からもう投票によって成り立っている「国」とか「議会」はどうでも良くなって、投票そのものが自己目的化していく面白みはありそうだなと思いました。アピール文を見る感じ真顔でおかしなことを書くっぽいので、その書き方の方向性は良さそうに見えます。

  • なんか人間が出ていかざるを得なくなる(人間がマイノリティになる)とかのほうが、飛躍があっていいように思える。

花草セレ(はなくさせれ) アルカエオプテリス・アゲート

花草セレ(はなくさせれ)さんのアルカエオプテリス・アゲート

  • 「キスをした罪悪感」が主人公のキャラクターを現しているのは良いと思ったものの、一般的に植物にキスをしただけで罪悪感は覚えない気がするので、珍しい植物だったとか枯れさせてしまったなどの補足があるとよさそう。

  • 異種恋愛ものとして面白そうな感じは感じるのですが、最初の求愛行動のあとは古代植物の方から主人公へのアプローチがないのでひどく一方通行な感じを受けました。古代植物に愛されてしまったことに気づくのがもう少し前になりそうというか、読者的には青年から明かされたときに気づきそうなものだけれど、主人公は鈍感だなと思ってしまうので、求愛に気づいた結果として主人公が同葛藤するかが読みたいと思いました。

  • もう人間には恋ができないと痛感して終わるのかどうかで読み味が変わりそうで、求愛されたことで徹底的に恋の概念が変わってしまうくらいの飛躍が一読者としては欲しいです。いまは失恋しちゃって悲しいぐらいの感じになってしまっていて、古代植物を見つけられたのかどうかもわからないので、惜しい。

  • 初恋による認識の徹底的な変質をもう少し明示的に書いたほうが良いと思いました。今だとなんだか、恋をすることが難しくなっているだけに読めてしまうのが惜しい。

牧野大寧(だいねい) 黄金の音楽史

牧野大寧(だいねい)さんの黄金の音楽史

  • 「偉大な音楽家が浮き上がる」って設定がかなり面白い。

  • 面白いが故に粗が目立っている気がする。「変わった新しい演奏」ってなんだろう。とか「認識の中でのみ怒っている現象だとされている」ってなんだろう。など。科学的には演奏者を浮かせることは不可能なので、うまく物理法則をいじるのも手ではありますが、もう「感動させたら浮くんだよ!」くらいの割り切りをしてくれた方が読者は楽しめると思いました。

  • 宇宙に音響機械を打ち上げるのは面白いのですが、その場合は何が音を媒介するんだろうというのが気になりました(なので、宇宙に打ち上げないほうがリアリティレベルを保てると思う)

  • 中盤はカエデの情報を小出しにする感じになってしまっているので、「私」に語らせるより、カエデを主人公として第三者視点で語ったほうがよく見えそうです。「おばあちゃんに民謡を聞かせたい」というのがいいドラマを作れそうだし、山と谷を作るきっかけにもなりそうなのですが、あまり活かせていない気がします。

  • 「超意味論的大域構造体」のくだり、いるかなぁ…。

相田 健史 からくり人体

相田 健史さんのからくり人体

  • 導入はいい感じだと思います(変に科学的な理由付けをせず、奇想っぽく事を運ぶ)

  • 人の身体を集めて究極の美を目指すというのはよくありそうな話なので、あまりドラマティックにしないと読みどころにならない気がしました。

  • 洋子にとっての究極の美というのが誰のどういう基準の美なのかによって、この作品のSFとしての強度が変わるように思いました。現代人の基準ではかったときの美なのか、古代いずれかの時代における美なのか、それとも別の生物から見た美なのか。など。現代人の基準の美だとちょっと物足りないように思えます。

  • パーツというか、美というのは一般的に見ると、全体のプロポーションで決まる気もするのでパーツを集めれば美しくなる!というのは少し飛躍があるように思え、ここを上手く活かすという手もありえそうです。手フェチ、足フェチみたいなフェティシズムも現実世界には存在するわけですし。

  • 突然未来から人が来るのはまずいでしょう。「これから起こること」も何なのかわかりませんでした。この部分をバッサリ切って、教団の成り立ちや、身体からパーツが取り外せるようになった社会のことを具体的に書いたほうが読みどころになるように思えました。

やらずの(小説書くよ) 恋が散って花が咲く

やらずの(小説書くよ)さんの恋が散って花が咲く

  • 憧が何歳ぐらいなのかが気になりました。小学六年生か中学一年生ぐらいなのでしょうか?

  • グリーンマンが来るだけで学校中の樹化が起こるのは面白いというか、やばい設定ですね。人類は全力でグリーンマンと戦わなければいけなさそう。

  • 展開としては途中で妄想か現実か分かるタイミングがないと最後に謎の種明かし!的な感じになってしまうので、なにか妄想と分かるメルクマールがあったほうが良い気がします。インセプションで言うコマみたいな。

  • 園芸委員の仕事、なにか活かせそうなんですけどね。樹化するってことは人間も樹になっていそうな予感がするので、柳先生(だった)樹を育てているとか、クラスメイトだった樹になっているとか、そういう風なのが読みたいかも。

夕方 慄 その<Cheerio!>にご注意ください

夕方 慄さんのその<Cheerio!>にご注意ください

  • 端的に面白い。意味不明な加速感がある。一行目から飛ばしていて面白いし、強盗である必然性がどこにもないのがやばい(すみません、言葉は悪いのですが、勢いを感じます)「通販カタログで得たレアなものを転売してニホンの頭領になる」スケールの大きさとそれに対する手段のショボさのギャップで笑えるというか、転売王におれはなる!みたいな帯文がつきそうですね。

  • ちょっと革命家とか発明家とか出しすぎな感じがあるので、謎のカタログが送られてきてその物資を転売して生き抜いていくひとびとの社会だけを書いても面白いと思います。**国家にはもう頼れない。転売ヤーによる秘密結社が世直しをするのだ!**的な思いを読み取ったので(僕だけかも)それを書ききってほしいというか。

  • トーストが行ったり来たりしていて謎ですね…ピエロ的な役回りなんでしょうか。彼の目的をもう少しはっきりさせるほうが良いと思います。強盗夫婦は(セットだと)キャラ立ちしているので、O’takiとA-kitchi、それぞれのキャラをはっきりさせた上でトーストのキャラも定めると良いのかもしれないですね。

  • Cosmo-Kannonもよくわからないけどヤバそう。ネーミングで勝ってる感じあります。Cosmo-Kannonをめぐる争いだけでも短編小説になるんじゃないでしょうか。というかニホンの頭領になる話はどこにいったんだ…。

  • チバを出している所にサイバーパンクへのリスペクトを感じました。

  • Cheerio!関係ない?笑

岡本 みかげ お姫様の秘密

岡本 みかげさんのお姫様の秘密

  • 「それを聞いたパパは、急いでママといちごを車に乗せると、近くの山へと走らせた」が論理的に考えるとおかしな行動になっているのですが、あとで答え合わせになるのは良いと思いました。ただちょっとよくある展開になってしまっているので、もう少し飛躍かひねりが欲しいところ。ギャグ路線で行くなら、逆に地球のほうが滅びるとか?(これでもまだひねりが足りない気がする)

  • 三島由紀夫の美しい星じゃないですけど、この家庭も普通とは違うなにかがないと◎×▼星の王家と地球人がまるで変わらない暮らしになってしまっていて、唐突に◎×▼星のことが明かされる感じになってしまいそうですね。アピール文にある「お前はうちの子じゃない」的な話が実際にされて、担任が家庭訪問に来て異常に気づくとか、語り口も第三者の手記的にかかれれるとか、何かしらの工夫が必要そうにみえます。

八代七歩 貴方のためのマフ

八代七歩さんの貴方のためのマフ

  • 巨大うさぎが出てくるのはシュールで面白いのですが、活かせてない感じが。これだと普通にうさぎとか猫の観察動画が配信 → いつのまにか消える → 失って悲しいみたいな話になって終わってしまっているので、でかいうさぎを活かしてほしい。飛び跳ねたら桜島が噴火するとか、動く兎から損害をうけるところも、なんだか名前がついたりしそうじゃないですか。

  • 兎が自分の手を離れて(自分は世話をすることすらできない)、崇められる社会的な存在になっていき、手の届かないところ(付き)に行ってしまう。これは書いてあるので、それを取り戻したいので成長する(主人公が親の手を離れる)主人公の成長物語を重ねられると面白くなりそうです。

柊 悠里 ナツメッグとシナモンを間違えただけなのに!

柊 悠里さんのナツメッグとシナモンを間違えただけなのに!

  • 料理を巡り妻と夫の立場が逆転するのだが、そこに宇宙スケールの謎の勢力争いが絡んでいるところのギャップが笑えるし面白いと思います。

  • “ウトガルドが安生と同じ種類の迷惑この上ない生き物に見えた。” これ面白いフレーズですね。笑える。

  • ドローミが出てくるところはドミノが倒れていないというか、ロジックの飛躍を感じたので、なぜ訪れるのかとかは整理されていると良いのかもしれません。シナモンである必然性も消えてしまったので、「身近に売っているシナモンが実は…」的な感じで、異星人にとってのシナモンの効用を(若返りでも良い)それっぽく大真面目に語り下すとそれだけで面白くなりそうです。

瀧本 無知 椋(むく)の木の実が落ちる

瀧本 無知さんの椋(むく)の木の実が落ちる

  • 羽鳥と水島の関係性がよいですね。物語の進みとともに関係性が変化するのでそれだけで読んでいて楽しいです。二人がこの物語以前から知り合いだった方が深みが増すと思いました(それゆえ、バックストーリーが気になります。気になる時点でキャラ設定としてはいっていの勝利を収めているかも)

  • 明確なひとりの悪役を設定されていないので、悪いことが無意識的に引き起こされるというテーマがあるのかなと読みました(間違っていたらすみません)。アグリテック企業は役員等の個人の強い意志で悪を成しているのではなく、企業としての目的に向かった結果悪を成してしまい黒幕化する(悪は凡庸である)、群れ制御技術も技術それ自体は中立だが、感染性を持ち悪を引き起こす。この書き方はいいなと思いました。群れが意識を持つということ対にできるような気もします。

  • 天才がなにか発明して解決!みたいなパターンにはまってしまっている気がするので、解決策のところはなにか納得感がほしいところ。

  • 群れの意識と更新したり?もあるんでしょうか。ヒトでないものとの交流は端的に読んでみたい感じあります。

古川桃流(とうる) スイングバイ・スイングバイ・スイングバイ

古川桃流(とうる)さんのスイングバイ・スイングバイ・スイングバイ

  • 毎月が30日でないことによって社会にこれだけの損失が発生している!みたいなプレゼンをイー■ン・マスク風の起業家に語らせるなど何かしら30日にする説得力がほしいように思いました。真面目な頭で考えると30日じゃなくても月極プランを開発することは難しくない気がするので..読者に真面目に考えさせたら終わり…

  • 一年=365日にするためには6時間分公転の長さ(楕円周?)を短くすればいいっぽいですが、それが1%なのかはピンとこなかった。このあたり、天文学者や暦の学者が駆り出されて真面目に検討されると面白そうですね。大真面目に嘘を言う感じだと。これだけで自転が変えられるのかはちょっとわからなかった。

  • 意味不明な目的のためにおかしなひとが頑張るストーリーと、小惑星の衝突予測に伴うパニック的ストーリーが交錯していてストーリーの読ませどころがちょっとわからなくなっているかもしれません。

  • 毎月が30日だとどうしても我慢できない…というロジックを合理的に作るのは難しいと思うので、イー■ン・マスク風のキャラクターのキャラを結構立たせないと難しい気がする。モデルになった人物の方はBMIとかも開発しているので、機械と融合してそういう思考が加速したとかのが納得感があるかもしれない…

山本真幸 ナントカの森で鳴いている

山本真幸さんのナントカの森で鳴いている

  • 私の視点で書くにしろ、神の視点で書くにしろ、登場人物が少なすぎるので相当な工夫をしないと単調になってしまいそうです。よくある手としては、同じ経験をしている主人公以外の人物を出すことではないでしょうか。

  • 送られてきた乳頭を返すことで主人公は母との確執から解放され、母側は救済される(主人公は母が大好きだったのに、母は自分を愛してくれなかった事を知る=母に幸せを奪われる)わけですが、乳頭というモチーフがこの構造にあっていないように思えます。モチーフ的に母は子を束縛従っている風に読めるので、眼球とか、もっと別の部位のが良いのではないでしょうか。「私」側がきっかけで乳頭に見えるようになる。ならわかるのですが、母親側から乳頭をおくりつけるだろうか? と思うと、わからなくなります。

  • 「私が忘れ去ろうとしていた負の記憶たちは、母なりの私への愛情だったのではないか」半分腐った生肉、ぐらいなら分かるのですが、スナックの開業がこれにあたるのか? とは素朴に疑問に思いました。

  • 愛が故に「お母さん、死ねてよかったね」というわけなのでこの逆説的発言にカタルシスを持ってくる必要があって、そのためには親子の関係が紋切り型で単調に見えます。なんかもっと上手く料理できそうに思えました。

多寡知 遊(たかち・ゆう) 神の不在は、滅亡への道ゆきなりや

多寡知 遊(たかち・ゆう)さんの神の不在は、滅亡への道ゆきなりや

  • SF的想像力の成果である「怪獣」という概念が存在しない世界に突如「怪獣」が出現した場合世界はどう振る舞うか、その思考実験としてかなり面白そうだと思いました。円谷英一だけを消してそんなに世界が変わるかは謎なので、神話的想像力や他のSF作品からも「怪獣」的概念を奪ってしまう。とかのほうが説得力が出そうに思いました。

  • どの視点で語るかでだいぶ読み味が変わりそうで、《其れ》の視点から地球を観察する感じになるんでしょうか。遊戯の報告書や実況のような感じの語りを想定しながら読みましたが、梗概の書き振り的には神の視点から書くっぽい気もします。

  • まあただ、普通にUMAへの対処が行われてオシマイになってしまう可能性もあり、それだと普通の怪獣映画の焼き直しみたいになってしまうので面白みがないと思いました。想像力の範疇を超えるものが現れるので、なにか超越的なものへの信仰などは生まれそうだなと思うものの「ワールドイズマイン」のヒグマドンで描かれているしなぁ…。新しさを出すのは大変そうに見えます。

  • 難しい。ただ、人類が蹂躙されるのはみたいです。

柿村イサナ あるいは脂肪でいっぱいの宇宙

柿村イサナさんのあるいは脂肪でいっぱいの宇宙

  • 語り口はめっちゃいい感じ。この語りでスケールの大きいことが行われているのには引き込まれます。BMIを限りなくゼロにするためには身体のサイズを無限に大きくすれば良いんだという発想が最高。

  • 話が一本調子なので、肥満ちゃんをもっと上手く使ったり、「私」だけではなくて、BMIを0にしたい勢が大量に宇宙に進出して、身体の占める空間の取り合いをめぐってくだらない小競り合いをしたりなど、なんかもっと転がせる気がしました。科学的にはありえない話なので、脂肪加速器とかドンドン出してCERNで「私」を加速させてぶつけるみたいなダイエット法とか出してほしい。物理ジャーゴンとダイエットジャーゴンを悪魔合体させてほしい。

  • ラスト。笑えるのですが、現実問題としては戻れないのでは…(戻るロジックはつくりづらそう)

真中 當 虚胡桃 実無しクルミのゆりかご

真中 當さんの虚胡桃 実無しクルミのゆりかご

  • ステラの能力が強すぎるので、こんなAIが野放しになっているのはまずい用に思えました。とはいえ、マリを守るために日本を崩壊させてしまうという意味でステラはセカイ系の主人公感があります。その目線で見ると、強すぎる能力も許せる。しかし、読者のよみをそのフレームに載せるためには、ステラとマリの関係性がかなり深くないといけないのと、ステラがセカイとマリどちらをとるかという選択を幾度も迫られないといけないと思いました。その葛藤がないゆえに、唐突に(理由もなく)日本が滅ぶ感じになってしまってます。

  • 外の世界とステラ、マリのいる施設の関係が謎で、スタッフは誰に雇われているのだろう、スタッフは日本が滅んだ時どうなっているのだろう。などが気になります。

長谷川 京(けい) エイリアンステイツ・51からの大統領選遊説(キャンペーン)

長谷川 京(けい)さんのエイリアンステイツ・51からの大統領選遊説(キャンペーン)

  • ゾルダン・イシュトヴァーンのドキュメンタリー 風の語り口になるのでしょうか。オンボロバスやバンで遊説している泡沫候補は結構いるので、それらの泡沫候補のふるまいの単なる焼き直しでなく、異星人らしさが出せるのかがキモになりそうです。

  • 最後の二つの段落は端的にこうなる理由がわからない。遊説でどれくらいの人(異性種含む)が演説やビラ配りを見て心を打たれたかとか、わからないんですよね。書きぶり的に選挙活動の具体が全部飛ばされているので、書き手が演説(=声)や政治的テーゼが人を熱狂させるということをあんまり信じられていないのではないかという気もしてしまいます。

  • 米国大統領線に出馬できるという形式条件を使うために米国を題材にしているように見えるのですが、多様なマイノリティがいる国を、異星種 vs 地球人類の構図に落とし込むことの安直さを感じずにはいられません。異性種が受ける差別は黒人差別、アジア人差別、トランスヘイトと比べて何が違うのか、何が共通しているのかとか、その辺りを真面目に書かないと「史上初の宇宙人の血を引く大統領となる」ことはカタルシスを生まない気がします。そしてそこは梗概からは読み取れなかった。宇宙人のロードムービーやりたいだけなら場所は日本でいいと思います。

向田 眞郵 (ムコウダマサユウ) 幾何の泡(いくばくのあわ)

向田 眞郵 (ムコウダマサユウ)さんの幾何の泡(いくばくのあわ)

  • 水中作業用に特化された人造人間が自身の出生について知り、海の上へ上がっていく(解放?)という話っぽいのですが、出生の謎やどういう生き物なのかの情報があまり書いていないため、「汐留」で涙を流すところのカタルシスがありません。研究員側もつらそうではあるのですが、作業員側(3名いるらしい)の生活の辛さ、生きる上での制約などを描くとよいのではないでしょうか。

  • ラボが閉鎖になる(の通知を受ける)。事故。順生の死の時系列がわかりにくい梗概になってしまっている。

方梨 もがな 彼等の行方を知るものは誰もいない

方梨 もがなさんの彼等の行方を知るものは誰もいない

  • 凪海がカルナを見出してから才能に気づくような書き方になっているので、才能を見出す的な感じにしたほうが自然に見えます。

  • アピール文を読んで「感情を操作するプログラムを書く能力」これは面白いと思いました。支援継続試験で不適合となる理由も倫理観の欠如などなのですかね? 書いてあると読み手に優しいかも。いっそ収益化とかクラウドファンディングとか本筋に関係ないので要らないような気がします。感情を操作するプログラムや映像ドラッグを書き切るだけで読ませられるはずで、感情を動かすガチャみたいのが社会問題になっていく様だけで面白いと思うし、ガチャをやらないと決めていた凪海が回してしまうという即落ち2コマ的な面白さも出せるかと思います。スタートアップネタとかクラファンネタは射程が結構狭いので、変に媚びないことを勧めたいです(この話の場合は、筋に全く関係ないので)

  • 凪海のキャラは面白いですよね。カルナの才能を見出していながら、ゲームをプレイするまでは実際にその才能の成果に深くふれることはない。上辺だけ。表層的なつながりから、成果物をプレイすることによる深いつながりへ関係性が変化し、その結果として凪海とは物別れになってしまう(あってますよね?)この関係の変化が面白いのだが、パトロンのマリアと凪海、カルナの関係の書き方が薄いので、マリアいらなくね?となってしまっています。凪海がカルナのゲームをプレイするところ、と助けられるところはもっと面白くなると思います。惜しい。

  • 凪海からカルナへの感情はもっと書いたほうが良いと思われます。天才サイコアスペ野郎みたいなキャラなのかな? 書かれている記号を読む限りは類推できますけど、それはキャラの本質ではない。最後凪海に連絡するところにカタルシスがあってほしいわけなので、それまでの想いが無だとちょっと弱いかな。最後の連絡は憎しみというより、潜んでいた愛情なのだと思って読んだんだけど、読み違えていたらごめんなさい。

岸本健之朗 怪獣国境

岸本健之朗さんの怪獣国境

  • 設定面白い。けど、怪獣のボーダーラインって説明がわかりづらすぎるので、要改善かと思われます。通常は物理的な制約(山とか海とか、川とか)で国の境は地理的になんとなく定まるわけですが、この世界ではそうではない。というのがおもろい。とはいえ、怪獣同士をつないだ線が国境になるのなら、怪獣の形状が無関係になってしまうので、触手とかの設定が不要になってしまいそう。怪獣の背中で暮らしているとかのほうがらしくなるのでは?(でもそれだと国境が変わらないか)、なんかだ面白そうなのですが、無理やりくっつけている印象を受けます。なんだかもっといい嘘があるはず。惜しい。

  • というか、怪獣の種類によって良い国境・悪い国境とかあるはずで、あっちの国境の怪獣はよく寝てるから遊びに行けるとか、そういう風な世界の方が魅力的ですね。今はなんだか、「アフリカの国境は直線で、これらは人為的に引かれたものだから破って良いんだ!」みたいな形式的な国境の取り扱いをフィクションの世界でもやってしまっているようにみえます。

  • 国境の向こう側の人と会おうとして….とかそういう人間ドラマの方が向いている設定に見えました。飢餓やばい → 禁じられた国境破りをするぞ!みたいな流れになってるのですが、国境の数キロ先とかに肥沃な大地があったら流石にそこからの交易品とかは来そうなわけで、いきなり怪獣を動かすのはちょっと破綻してないかなと思います。展開のために飢餓が強引に導入されている気がしており。無理が出ています。

  • ケイと両親の関係か、国境警備隊員との関係か、怪獣との関係をうまく使ってほしい。いまはなんだか、掟破りをすることへの葛藤を乗り越えて、独りよがりに成長するストーリーになってしまっている。

イシバシトモヤ 双子の国

イシバシトモヤさんの双子の国

  • 設定は面白い。ただ、暗黙的に双子=(見た目が)クローンみたいになっている感があり、そこはちゃんと考えないと問題が出そう。双子でも若干見た目違うと思うんですよね。ミステリ等、小説としては入れ替えトリックができる程度にはそっくりという書かれ方をしますけど。その前提をどこまで押し通すかで書けるドラマが変わりそう。「分かる人には分かる」方がドラマは作りやすいと思いました。

  • 双子世代のアイデンティティの危機が現実社会の双子のアイデンティティの危機とほぼ同じなので飛躍がたりなさそう。双子特区が設定されるより前に、双子だけが生まれる世界にはなにか根本的な変化が起こりそうで、そこを読んでみたい。

  • 婚姻・出産・戸籍制度、双子だけになるだけでそんなにかわるのだろうか。なんか取り違えとかは頻発しそうで、本人確認の手続きとかは煩雑化しそうではあるけれど。

中川 朝子 レフティ・ライティ

中川 朝子さんのレフティ・ライティ

  • (僕は右利きなので)すみませんという気持ちでいっぱい。馬鹿らしい(と言って良いのか?)題材を転がしていく面白さは第一回から引き続き中川さんの(良い)作風なのだと思います。ただ、読者がIQを下げたまま読んで気持ちよくなりたいところを、後半で読むのに必要なIQを上げに行ってしまっている感があるので、アホらしく読める感じの展開に寄せたほうがいいと思います。「*家庭間での望まぬ矯正や、慣れない動作を原因とするストレスの蓄積により、前頭葉へ過剰な刺激が加わる」*この辺がそうですね。アホらしい出来事というよりは、真面目なロジックでつないでしまっているので惜しいです。「とにかく左利きは右利きを憎んでいるんだ」というのを全面に押し出したほうが説得しきれると思いました。(でないと、いやいや、前頭葉にそんな刺激加わらんやろ…となっちゃうので)、オチでも「一次運動野を阻害するガス」が使われるのですが、真面目にかけば書くほど「もっと大変なことがおこるやろ」とツッコミ入れたくなるので、そう思わせない工夫は必要そう。しかしなんか右利きの立場からこれをバカSFだと言うのははばかられるのでこの辺にしておきます…。

  • とはいえ、筆力で強引に持っていくこともできるような。

  • 左利きと右利きは見た目ではわからない(ですよね?)と思うので、そのへんもうまいこといかせないかなと思いました。左利きのふりをする右利きのやつを出すとか。スパイ的に。あと、両利きという設定はあんまり活きていない気がしますね。

  • 社会が規定している「自然」(=右利き)を破壊しようというスタンスは好きです。

中野 伶理 ゲームチェンジャーは当惑する。

中野 伶理さんのゲームチェンジャーは当惑する。

  • 戦争を有利に運ばせる高度な素材ってどんなものなんでしょうか。防御に使える素材とか? 耐久性に優れるとかだと渋い設定にはなりますが、大局的に戦局を有利にできるという納得感はあるものの、読み味としては渋くなりそう(目まぐるしい展開にはならなそう)。月の裏側から素材を取得できなければ分析できないと思うので、宇宙開発技術もそれなりに進んだ近未来として読みました。

  • 宇宙人サイドが二人を連行する理由ってなんだろうなと考えてしまった。ここの展開がちょっとこじつけ感あります。「著作権」みたいなものを異星人が理解できるという仮定もちょっと強いような。異星人が地球人類っぽすぎるので(テクノロジーとかを持ち出しているので)、超能力があった方がリアリティレベルとしてはいいように思えました。

  • 「文明の残滓としてネズミのキャラを描く」この設定がなにやら面白そうで、異星人の行動原理を決めそうに思えます。ここを深堀りすると宇宙人側がジョナスを攫う理由も作れそうな気がしたり。

継名 うつみ ワタルくんと帰りたい

継名 うつみさんのワタルくんと帰りたい

  • 点いた嘘を本当にするために全力を出す感じは面白いですね。アミが自然とこの性格になっただとちょっと弱い気がするので、トラウマが元になっているとか、なにかこうなってしまった原因がほしいところ(そうすると一種のホラーっぽくなりますね)。束縛の強い女が出てくるホラーみたいな(最近そういうドラマあったような)、宇宙船作って追いかけていくところがマジかよとなるのですが、面白い。普段はポンコツキャラだけど、嘘を本当にするために何でもできるとかだとコミカルで面白そうです。

  • 展開はちょっと一本調子なので、ワタルくんに返り討ちにされるとか、特異点通って振り出しに一回戻ってしまうとかなんかひねりがほしい気がします。

馬屋 豊 (有)木乃伊商会

馬屋 豊さんの(有)木乃伊商会

  • 面白いし、最後に結局ミイラ選ぶんかい!となってずっこけるのもうまい。 馬屋イズムにあふれているので推せます。

  • ご先祖様ミイラどれくらいいるんですかね….100体ぐらい?それだけでもかなり面白いと思います。薬で解決するのも良いんですけど、呪いを解こうとする勢力とかがいると思い白いような気がします。ちょっと登場人物がすくないかな。ミイラのキャラを立たせてほしいかもしれません。

  • 流石にこの規模でミイラを飼っていてばれないことはないと思うので、勝手に歓楽街に遊びにでたミイラが発見されるとか、そういうエピソードがあるとより面白いような..「悪癖」がなにを差すかはわからないけれど、女好きのしょうもないミイラとか、パチ狂とか、陰謀論にハマるミイラとか、いくらでもバリエーションが考えられるのでずるい。

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