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会話を引き出す仕掛けのあるお店

今の時代のお店に求められるものについて、日本とブラジルを行ったり来たりしていて感じたことを書き留めてみます。

求められているお店、というか、これがあればきっと人が集まるのではないかというのが、お店の中でのコミュニケーションと考えていますモノやサービスを売る人と買う人の会話です。

特に日本の都市部ならば、会話が生まれる場はもっとあってもよく、それが「お店」であってもいいと思うのです。

言葉少なでも不便を感じない

大量のモノが売られる時代、日本の都市部ならば、どこにいようと必要なものがすぐに手に入ります。生活必需品に加えて、生活を少し便利に・豊かにしてくれるモノまで、とにかくありとあらゆるモノが店頭に並んでいます。

店頭に大量のモノが並ぶお店がどこにでもあり、夜遅くまで開いているので時間まで気にする必要がなくなりました。しまいには、買ったモノが配達されることによって「モノの方から家にやってくる」ようにまでなっています。

豊富な品揃えと、いつでも欲しいものが手に入る利便性

この2つを兼ね備えた業態と言えば、スーパーマーケットやコンビニ、アマゾンのようなオンライン販売が挙げられます。やややり尽くされた感もあるものの、これからも必要な業態であることは間違いありません。

しかし、例えば。

コンビニの店員さんと、「お弁当は温めなくて結構です」「ありがとうございました」以外の会話をしたことはありますか?

海外に住んでいる身としては、そのテキパキとした丁寧な仕事ぶりに感嘆し、(もちろんお店が混んでいない時に)言葉をかけることがあるのですが、そういう会話は想定外なのか、驚かれることや、キョトンとされることもしばしば。

そこには売る人と買う人のコミュニケーション、もう少し具体的に言えば、会話がほとんど存在しません

お客さんの指示に基づく会話はあるといえばあるのですが、それはあくまでお仕事としての話。決して広がりのある会話ではなく、積極的に言葉を交わそうとするものではないでしょう。

無駄な会話、してますか?

それでも、モノが大量に並んで売られているので不便は感じない。時には一言も発することなく欲しいものが手に入れられる。意識をしてみると、これって非常に独特な世界ではないですか?

みんながスマホを覗き込み、テキストメッセージのやり取りで済ませてしまうことで、いわゆる無駄な会話がなくなってしまった今。あるいは、無駄な会話をする相手を選ぶ世の中になっているとも言えるのかもしれません。

これだけ大きな街に暮らし、だからこそモノが揃っていて便利なのだと言えばそうですが、これだけたくさんの人の営みが交錯するのに、会話がないのはあまりに寂しすぎではありませんか?

そこで、「お店」こそがそうした会話の拠点になってもよいのでは、と考えるのは、変でしょうか。

しかし、それはなにもスーパーマーケットでレジの店員さんとダラダラおしゃべりすることを期待しているのはありません(まあブラジルだとそれもありふれた光景ですが)。そのように大量のモノを右から左へ流すことで成り立っている業態では、生産性が低下してしまうために怒られてしまいます。

会話が生まれる仕掛けのあるお店

では、どういう具体的にはどういうお店を指して言っているのか?

実は、会話を生み出す仕掛けが素晴らしいなと思ったお店が、ブラジルにあります。

Dengoというチョコレート屋さん。サンパウロ市内などのショッピングセンターに入っています。ここの店舗の造りが一風変わっています。

ショーケースが店の中央に縦長に置かれ、そこにナッツを散りばめたり、変わった風味の板状のチョコが並んでいます。そこを覗き込むお客さんに、店員は躊躇なく話しかけ、その板チョコを割って試食を勧めます。

そんな、店内に入ると自然と店員さんとの会話が生まれる仕掛けがあるのです。

そこから両側の棚に置かれる商品の説明を受けるのですが、そこにもストーリーがあります。使われているカカオがブラジル・バイーア州産であり、さらに生産者の顔まで分かる、Bean to Barのチョコレートだということが分かります。

店内にはカカオの収穫~発酵~チョコができる様子のビデオが流れ、店員はそれも交えてストーリーをなかなか上手に語ります。本当にチョコが好きでないとここまでは語れないだろうと、こちらも話に引き込まれ、質問を重ねながらチョコ選びが始まっていくという具合です。

チョコを誰にあげるの?なんて振りから雑談も挟まれ、チョコを中心に広がる世界に引き込まれていく過程を、純粋に楽しく感じられる空間になっています。

そこでの主役はチョコなのかと思いきや、実は店員さんとの会話にこそ重きを感じるのです。

化粧品の対面販売に着想

このDengo、実はブラジルの化粧品最大手・Naturaの創業者が立ち上げたブランドです。Naturaは今年、米国の化粧品大手Avonを傘下に収めています。

Naturaは、元々店舗を持たず、コンサルタントと呼ばれる販売員がブラジルの自然素材を用いた化粧品を訪問販売で取り扱っていました。最近では、店舗も展開し始めています。接客はお手の物です。

Dengoは、そうした化粧品の対面販売のノウハウがふんだんに盛り込まれたチョコレート屋なのだと言えます。

そのカギを握るのは、やはり会話。掲示されるサインは最小限に留め、しかし色とりどりの包装が目を引くため、会話のネタがとにかく豊富に仕掛けられているのです。

やっぱり、話をしてなんぼの世界ですよ

元々、ブラジルにはお客さんが店員と気軽に言葉を交わし、時には冗談を言い合いながら物を売り買いする文化があります。

店員も客も、肩ひじ張らずに最初からフランクに接します。お店に入るときは目を合わせて挨拶。「何かお探しですか?」と必ず聞かれます。店内にお客さんがいるときはどこも大抵、話し声でガヤガヤとうるさいものです

店頭での対面販売という手法自体は、以前から広く行われているもので、何も真新しい話というわけではありません。しかし、言葉を交わすことなく大量のモノが手に入ってしまう時代だからこそ、お店での会話を介してモノを手に入れることの価値は残されると考えます。

圧倒的な物量を前面に陳列して物量で人を惹きつけるタイプのお店と、SNSやデジタルマーケティングを効果的に取り入れて、選りすぐりの製品を最後は人との会話で紹介していくお店。どちらが残る・残らないという話ではなく、そのどちらがあってもいいと思います。

最後に。日本人は口下手だから、会話を挟むスタイルは流行らない・・・果たして、そう考えませんでしたか?

街中でリアルな会話を楽しみたいという思いは、都会暮らしの中できっかけこそが与えられていないだけで、実は皆の心の底に眠っているのではないでしょうか。

#お店の未来 #ニュースで考える #COMEMO

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