レインボー市場とスタートアップ
ブラジルでは、同性カップルの世帯所得が、異性カップルの家長の稼ぎよりも65%高いという統計があるそうです(ブラジル地理国立統計院 - IBGE/2017年)。
その資金力は「ピンクマネー」と呼ばれており、「レインボー市場」という1つの市場を形成しています。
LGBTフレンドリーなバーが街中にあるのなら、同様に、LGBTフレンドリーなライドシェアサービスや旅行予約アプリがあってもよい ──。
そんなLGBTコミュニティーならではの着眼点を持った、ブラジル発の3つのスタートアップが最近の当地新聞記事で取り上げられていました。
なるほど、いろんな市場の切り口があるのだなぁと勉強になります。
ホモフォビアが暴力事件に発展するケースも
LGBTをめぐって日本と比べてオープンに見えるブラジルでも、ホモフォビア(同性愛者に対する嫌悪感や偏見)に端を欲する暴力事件などが問題化しています。
この記事では、2018年のブラジル国内でのホモフォビアによる暴力事件の死者数は420人だったとの調査結果が紹介されています。平均して1日1人以上が、LGBTであることが理由で命を落とす人がいるという計算です。
今年1月に就任したブラジルのボルソナーロ大統領も、過去にホモフォビアと受け取れる発言をしたこともあり、LGBTコミュニティーの一部から反感を買っています。
そうした状況を受けて、今年6月以降、サンパウロをはじめブラジル国内の主要都市で開催されたLGBTのパレードでは、大統領の発言に対しての反発も含め、ホモフォビアに向き合う政治的なメッセージも目立って発せられていました。
LGBTに寛容なサービスを探したいというニーズ
さて、ブラジルのLGBT市場に関する統計はないにせよ、ビジネスとして無視できない分野になっているのは確かです。
例えば、サンパウロ市で今年6月に開催されたLGBTパレードには、300万人以上が参加しました。
市の観光局が後援するイベントで、経済効果は2億8,800万レアル(約87億円)、市外からの来訪者1人当たりの平均支出は1,634レアル(約48,000円)であったといいます。
ここで、冒頭に触れたスタートアップの記事に戻ります。
そうしたLGBT市場 ── 特にLGBTであっても安心して利用できるサービスを探したいというニーズに答えた新興のサービスとして、以下の3つが紹介されています。
まず、男性同性愛者向けの旅行ガイド兼予約アプリのSonder:
日本の旅行会社と共同で、日本の主要都市の観光ガイドを制作しアプリで見られるようになっているとのこと。
続いて、Uberを始めとしたライドシェアサービスが普及しているブラジルならではの、LGBT向けライドシェアアプリHomo Driver:
もちろんLGBTに理解のあるドライバーを募集している。同性愛者に限らず、異性愛者の女性による利用も全体の4分の1を占めるそう。
最後に、LGBT向けの就職支援サービスCamaleao.co:
自身もレズビアンで、LinkedIn上のインフルエンサーだった創業者が、あるトランス女性の就職の手助けをしたことをきっかけに創業した会社で、すでに1,000人以上の履歴書が登録されているとか。
各社の創業エピソードを読むと、彼ら自身がLGBTコミュニティーに属することで得られた経験や視点が、いずれも存分に生かされていると感じます。
多様性先進国のブラジルへようこそ
女性の活躍、障がい者、外国人 ── 日本でも多様性という言葉がようやく聞かれるようになっています。
しかし、見ているとまだまだ上辺の言葉遊びだけで、それを直視して、実際にその中に身を置いて、そして自身の行動にも反映させるところまでできている、そんな社会には全く至っていないと感じます。
今回取り上げたテーマからすると、ブラジルには、そんな多様性をキーワードに世界に輸出できるノウハウがたくさんあるのかもしれない、そんな可能性を感じています。
このLGBT市場をニッチ市場と表現すれば、例えばブラジルには他にも、アフロ文化市場というニッチな分野もあります。
かつて奴隷として連れてこられたアフリカ出身者の子孫もまた、やはり現代社会の中では偏見や差別を受けやすい存在となっています。そんな彼らが、自身の価値を高め、アフロ文化のツーリズムを盛り上げていこうとしている、そんな動きもあります。それもまた、別の機会に触れてみましょう。
街に一歩出ればそこには多様性が溢れるブラジルの空気を吸いに、皆さんもぜひ一度はお越しください。
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